石刀
サナー以外ほぼ誰も喋らず、朝食を終えた。俺たち3人は一度部屋に戻ってくれとローウェルに言われる。
「女神様に認められた勇者サナーに任せとけ!」
ウキウキのサナーにウンザリしながら寝室に戻り、俺は面倒になってベッドへと倒れ込む。リースは不安げに横に座ると
「……二つ尾の女神様は、私達のことはどう思ってるのかな……」
サナーが横から
「ダメに決まってるだろ!リブラーがやりすぎたから、私に加護が付いたってモノラースが言ってたぞ」
俺は天井を見上げながら
「なあ、リース」
「うん」
「サナーにも前に話したんだけど、俺は数ヶ月前まではただの無力なガキで、サナーはその奴隷だった」
「……私は、頭がおかしくて迷惑ばかりかけるダメな王族だったわ」
「……でな、全部リブラーのおかげで皆どうにかなって、農家の三男だった俺はもうちょっとで王族になるとこまで来てる」
リースは黙り込んだ。
「いつか、この幸せって泡と消えるかも知れないって何処かでずっと思ってて、でも」
上半身を起こしてリースの手を取り、青い両目を見つめ
「リースが好きなのはもう変わることは無い」
「……私も。ナランを永遠に愛してる」
俺とリースは強く抱き合う。大丈夫、この温かさだけは現実だ。リブラーが全てお膳立てしたとしても俺は間違いなくリースを愛している。
2人で抱き合っていると
「あのさー……勇者サナーを無視しすぎだろ」
完全に忘れていた。抱き合ったまま頭だけ向け
「……お前も頑張れよ」
「頑張ってるから、女神様のご加護がついたんだろ」
「いや、加護スキル所持者って、無条件で聖人認定されるから、教会とかにバレたら大変だって言ってんだよ……」
「えっ……そうなのか?」
やはり知らなかったらしい。この世界に生きている人間なら常識なのだが、宗教を馬鹿にしてきたサナーは覚えてもいなかった様だ。リースも意外そうな表情で
「てっきりトラアス教国に行って、セイントナイト目指すのかと……セイントプリーストとか……」
「なっ、なんだその格好いい職業は……」
本当に何も知らないんだなと呆れながら
「聖人だけがなれる職業だけど、二つ尾の女神教の本場での修練を受けないとダメなんだよ。確か最短で5年だったか?」
サナーは泣きそうな顔になり
「ぜっ……絶対にやだ」
「お前、加護が嬉しいだけで、女神なんて一つも信仰してないだろ?」
「……うん。宗教なんてクソだ。デタラメ言って金儲けしてるだけだろ」
リースと俺が揃って呆れていると、扉が叩かれローウェルが入って来た。
ローウェルは俺たちを見回すと
「流石だ。もう関係性が安定してやがる。サナーちゃんも冷静だな」
苦笑いしてから
「すぐ飛行船で出発だ。アンジェラさんは国に報告に行った。現地集合だそうだ。2階の武器庫で準備してくれ」
俺たちは黙って頷く。
宮殿2階の鉄扉をローウェルは鍵を回して開けると、先にリースを入れ、それから俺たちに入るように促し、最後に自分が入って鍵を閉めた。薄暗い武器庫内は、まるで展示品の様なガラスケースに剣や鎧、槍などが収められていた。ローウェルは顎を触りながらそれらを見回し
「一品だけ、持っていって良いとのことだ……俺は欲しいもんねえな」
リースもニコリと笑って
「私は、組み立て式の槍があれば良いわ」
サナーは足早にグルっと武器庫内を周ると
「これ、これが欲しい」
小さなテーブルの上にはめられたガラスケースを指差した。その中には金の刺繍の入った巾着袋と小さな丸い鏡が並んで展示されていた。
ローウェルは感心した様子で
「……幸運の使者スキルの効果だな。闇祓いの鏡だ。呪いや魅了を跳ね返すものだな。暗黒地帯で役に立つだろう。ナランは?」
俺はどうしても、縦に長いガラスケースに入れられ、飾られた石の片刃剣が気になる。異国の武器である刀に良く似ているが微妙に違う。ローウェルは面白がった表情で
「石刀スズナだ。マグマの海の中から出現したと言われているな。今は消えているが、発見当時、古代語でスズナと掘られていたそうだ。隣の彗星剣じゃなくて良いのか?」
隣には、美しく青く輝く刀身の長剣が、同じように青く輝く鞘と並べられ飾られていた。刀身の真ん中には折れて継いだ跡がある。ローウェルは目を細め
「伝承によると異界の勇者が巨大モンスターを倒す時に使った剣だそうだ。石刀スズナと共に、二つ尾の女神がこの世界にもたらしたのではないかと言われているな」
俺は青く輝く美しい長剣にも目を奪われたが何となく
「こっちの綺麗な剣は折れるまで使い倒された後だろ?でもこっちの石の剣は、ちゃんと使われず、捨てられたんじゃないかな……」
ローウェルは納得した表情で
「そう感じるか。良いんじゃないか」
2つのガラスケースに鍵を開く、巾着袋に入れた鏡と、鞘のない石刀をそれぞれ俺たちに渡してきた。
リースの武器は飛行船内の倉庫に入れているそうなので、俺たちは1階まで降り、山程食料と薬が入ったリュックを2つ渡されるとローウェルと俺が背負う。そして宮殿前に待っていた馬車で広い庭を飛行船まで向かうこととなった。荷物は後方のスペースに積み込み、馬車に4人で乗り込む。使用人達の挨拶はリースとローウェルが「隠密任務なので」と言ってやんわりと拒否した。
飛行船にたどり着くと、既に出発準備ができていてグスタフが近寄ってくると
「ローウェル、乗ってきた飛行船、油漏れがあった。直しといたぞ」
横に係留されている会社の小型飛行船を指さす。ローウェルは舌打ちすると
「お前がいねえと整備班緩むんだよな。配置換えも考えといてくれ」
グスタフは首を横に振ると
「これは王家から会社へのデカいビジネスだ。整備班の立場的にも退くわけにはいかん。副主任のジャスナンに言っといてくれ。しっかりしろってな」
ローウェルは苦笑いしながら頷いた。大人の会話を聞きながら、俺たちは荷物を馬車から降ろし、タラップから飛行船に乗り込む。




