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冴えない俺が、何でも教えてくれる魔法を手に入れたけど……  作者: 弐屋 丑二
最適な対象の発見と試行期間

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フーンタイ州の州都フーンタイ

「私が村長です」

なんか、聞き覚えのある声がして俺は目を開けた。

藁から上半身を起こすと、馬小屋の入り口に立つニヤニヤしたローウェルのその隣に、屋敷をスライムたちに食べさせられたその主の村長がまさに昨日会った格好のそのまま、正座していた。

その姿を確認した瞬間に俺は舌打ちする。

今回の一連のリブラーの予測の最後の部分で言われていたのだ。

「ローウェルが全て終わった後に大きな報酬を持ってくる」と。しかし、「小さな災いも連れてくる」とも言っていた。

どうやらその小さな災いは村長だったらしい。


隣でサナーはまだ寝息を立てている。

俺は静かに起き上がり、正座している村長の横を通り過ぎ、ローウェルに小声で

「なんで連れてきたんだよ……命狙われたんだぞ俺たち……」

不満を述べると、彼はニカッと笑って

「村長っていうか、元村長は、村にスライムを入れた罪で村から追放された。それで、家も家財も全てスライムに食べられて一文無しになったので今朝早く、うちと派遣契約したいと言ってきたんだ」

「……いや、そんなに早く追放されるもんなのか?屋敷をスライムたちが食ったのが、昨日の夜中だぞ?」

ローウェルはニヤーッと笑いながら

「元々不正蓄財に熱心だったからな、煙たがられていたんだよ。今朝早く、緊急村会議で全会一致で追放された。ちなみにもう昼だぞ。お前ら寝すぎじゃないのか?」

「で……なんでうちに連れてきたんだ?」

「初めての後輩だろ?ガイドしてやれよ」

あっさりそう言い放ってきたローウェルの言葉に、俺は頭を抱える。


不正蓄財していた財産すべて奪った本人のローウェルを頼ってきた元村長はさすがに間抜けすぎるし、それに派遣として契約してまだ一月も経ってない俺の後輩って……。

しかも、どう考えても元村長は七十以下には見えない。

元命を狙ってきた超ご年配の後輩……扱いが難しすぎる……。

「な、なあ、その年じゃすぐ死ぬだろ?何とか別の職を斡旋できんのか」

ローウェルは楽し気に首を横に振ると

「七十過ぎの文無し特殊技能なしの追放者なんて傭兵で肉壁やるくらいしか仕事ないぞ」

「……それを原因のひとつであるおっさんが言うのかよ……」

「ああ、ちなみに元村長は知らないからな。黙っとけよ」

ローウェルはそう言いながら、俺に札束を渡してきた。

数えてみると百三十枚ある。金をやるから村長の不正蓄財を窃盗したことについては言うなということらしい。

「あの……これって……」

この百三十万イェンは廃墟と馬小屋代と修繕費にとられたものと同じ額だ。

「ああ、返してやるよ。社長から今朝二千万イェンのボーナスが出たからな。安心しろ、ここは取り上げないし、約束した廃墟の修繕も完璧に仕上げてやる」

「……」

もう、すげぇ汚い大人の世界に俺は足を突っ込んでるんだなとなんとなく自覚しながらも

サナーとの生活のために金は必要なので黙って受け取る。

「ライトスライムたちは、ちゃんと喰ってるのか?」

ローウェルはニヤニヤしながら

「ああ、指定された区画外には出ていない。ところで、次の任務なんだが……」

俺は全力で首を横に振り、両手を前に出して拒否の姿勢をとった。

「百三十万イェンで二人できりつめれば半年くらいは暮らせるだろ……。しばらく派遣傭兵の仕事はしたくない」

ローウェルは正座したままの元村長の背中を見て

「新米傭兵の老人を放っておくのか?お前らがガイドとしてつかないなら、社長が証拠隠滅のためにどっかの戦場に即、送り込むと思うが?」

小声で耳元に囁いてきた。

「……チッ」

なんて汚いんだ。確かに元村長が無職になったのは俺の責任もあるので放ってはおけないだろ?と暗にローウェルは言っている。

殆ど脅迫じゃないか。ただ

「命狙われたのは俺とサナーだし、おっさんも加担してただろ……」

ローウェルは悪びれずに

「妙な悪運のお前らなら、上手く解決すると思ったからだよ。スライムどものことは難件だったからな、あの元村長も難物だしな」

爽やかにのたまいやがった。


そうして俺は、まったく納得いかないままサナーを起こし村長について説明して驚愕され、大金が入って気前良くなっているローウェルから、朝食を街の定食屋で山ほどおごってもらい朝から満腹になってボーッとした頭で、いつの間にか四頭立てになっていた荷馬車に元村長とサナーごと乗せられて、これもいつの間にか、荷馬車の後ろに連結している広い滑車に乗っていたライトスライムリーダーとその体の上に乗る数匹の小さなスライムの子供たちに

「……おはよう……」

と手を挙げて挨拶すると、触手を挙げて答えてくれた。


ローウェルによると仕事に必要なので連れてきたそうだ。残りの大半の一族は廃墟群に置いてきたらしい。

ちなみに元村長は、何を尋ねても「私が村長です」しか言わないのでおちょくられていると思ったサナーから一度、胸ぐらを掴まれていた。

ローウェルによると、何かの病気やら呪いでそれしか言えないらしいが筆談はできるので、必要なら書かせて答えさせろとアドバイスされた。


四頭立ての荷馬車は、連結した滑車を引きながら人けのない平らな道を走る。

途中でローウェルは

「おっと、旗を立てとかないとな。高レベルのモンスター運搬してるからな」

と言いながら、荷台の上に四メートルくらいある太い鉄棒に巻かれた

「ウィズ王国認可、傭兵会社ハルン・バートフルの業務中です」

という文言が金の刺繍で書かれている、ド派手な旗を立てた。


更に進んでいくと、次第に道に馬車や荷物を背負った人たちが増えてきて支道から人が入り込んできているのも分かる。

スライムライトリーダーたちは発光している昼間でも目立っているようで通行人たちが二度見してくる。

サナーがワクワクした顔で

「な、なあ!州都にいくんだよな!?ってことは討伐任務じゃないのか?」

ローウェルは容易く四頭立ての馬車を御して、一定速度で走らせながら

「どうかなー。依頼なのは確かだ。とりあえず、州立大学に向ってるぞ」

「だ、大学……」

サナーは驚いた顔をして俺の顔を見てくる。

俺は面倒になり

「ああ、金持ちや貴族のガキどもが通う遊び場だな」

当然ながら兄貴たちは二人とも大卒だ。

せっかく実家から離れているのに今は考えたくもない。

ローウェルは笑いながら

「大学を何だと思ってるんだよ。ガキどもの保育園じゃねぇんだ。一定学力を超えた若者達への高等学問の伝授と、最新の研究をするご立派なな機関だぞ」

サナーは憧れの顔で

「ま、まあ、入ってみよう。奴隷の私が大学敷地内に入ることになるとは……」

「お前のが、貴族の大学生よりマシかもしれないぞ」

俺は少し皮肉を言ってしまう。ただ当たってないとも言い切れないのが……。

「そ、そうか?そうかなー?ここ数日で、私も成長したからなー」

まんざらでもなさそうなサナーにため息を吐くとローウェルが堪えきれずに爆笑しだした。

滑車に乗っているライトスライムたちは特に変わりもなく透明な発光しているゲル状の身体をうねうねさせている。

ちなみに元村長は、気配が消えていると思ったら皮鎧とブロンズソードを装備して正座したまま寝ていた。


荷馬車は走り続け、巨大な城門と左右に広がる城壁が遠くに見えてくる。

どうやら州都についたらしい。この街は俺も初めてだ。

「フーンタイ州の州都フーンタイだ」

「頭痛が痛いみたいな名前だな!!」

「言われてみればそうだな!!」

サナーとローウェルは爆笑し始めた。俺には何が面白いのか分からない。


すぐに開きっぱなしの城門をスピードをかなり落とした荷馬車と滑車は潜っていく。

サナーが頭上を指さし

「あ、あれドラゴンだろ!!しかも奥の宮殿の前に立ってるのはサイクロプスじゃないのか!?」

頭上を見上げると、緑色の鱗を持つ三十メートルは体長がありそうな竜が気持ちよさそうに空高く悠々と飛んでいた。

そして人波であふれかえっている通路のはるか遠くには遠近感がおかしくなりそうな体長五十メートルくらい一つ目の巨人が腕を組んで背後にそびえる豪奢で真っ白い宮殿の前に立っていた。

馬の手綱を握ったローウェルは煙草に火を点けて

「ああ、上に飛んでるのは、王国一級騎士ローズウェル大佐のドラゴンだ。州政府のある宮殿を守備しているのも王国一級騎士のガンズン中佐のサイクロプスだな」

サナーは興奮を隠せない声で

「すげー!すげー!そいつらドラゴンテーマーとサイクロプステーマーなのか?」

ローウェルは何となく皮肉めいた口調で

「副職業は確かにそうだな。本職はローズウェルはパラディンでガンズンはマジックナイトだ」

サナーは口を大きく開けて、ローウェルの背中を見ると

「上級職と……上級職をかけもちしてるのか……」

「本職のレベルが頭打ちになると、副職業を持つのはよくあることだ」

サナーが首をかしげて

「ってことは!おっさんも当然……?」

「秘密だ。本職は元忍者だ。今はただの送迎者だな」

サナーは希望に満ちた瞳で俺を見てくるので、とっさに目を逸らす。

「な、ナラン!私たちの未来は凄いかもしれないぞ!?」

「いや、死なずに細々食っていければいいだろうがよ……」

高望みするつもりはない。

とりあえず今のところリブラーのおかげでどうにか生きていられているだけだ。

ローウェルはゆっくりと速度を落とし、人波の中まったく問題なく荷馬車を左の道へと方向転換させそちらへと進みだした。

その方角に大学があるらしい。

元村長はいつの間にか起きて、辺りの様子を伺っている。

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