君の為だけに
国王はヘグムマレーを見つめ
「叔父さん、テルナドとハイエドの問題にそろそろ決着をつけたいんだが」
ヘグムマレーは深く頷くと
「リースの婚約者のナランじゃ。彼の知恵を借りよう」
リースとミャーマと立っている俺の方を振り向いてきた。反射的に俺は
「リブラー」
と呟いていた。直後にいつもの声が
テルナドさんとハイエドさんは2人とも王族で王国北部に並ぶナミツ州とドランスライド州の管轄者であります。2つの州には北部に跨るようにウインター地区という豪雪地帯があり、西のナミツ州側にアーゲイン市、東のドランスライド州側にフォールズ市が隣接しています。2つの市の境界は冬の豪雪、そして春先の洪水と泥土により地形が不安定で、長年確定できず、州同士の諍いの種になってきました。……ナランさん、ヘグムマレーさんの右横に座ってください。そして国王の顔を見てください。
一瞬、戸惑ったが、覚悟を決めて座り、ジッと国王の顔を見ると、彼は意外そうな表情で
「線が細い割には度胸があるな。叔父さん良いのか?ナランは勝手に王族の集う円卓に座るという不敬を働いているぞ?」
ヘグムマレーは俺の肩を右腕で抱くと
「王よ。いや、親族が多いので敢えて言うが、デュランよ。ナランは実に有能じゃ」
国王は疑っている顔で顎を上げながら俺を見つめてきた。リブラーの声が
領地は二股の巨大マツの木を中心にまっすぐ南北に分けるべきです。フォールズ市が領土的には若干損をしますが、フォールズ市東部のトリル山には未採掘の金脈があり、アーゲイン市西部には未採掘で放置されている、鉄鉱石が大量に採れるイアタイ山があります。ヘグムマレーさんに今述べた事を小声で教えてください。そして少し怪しげに笑いながら国王の顔を見るのです。
言われた通り、ヘグムマレーに小声で領地と鉱山の事を告げると笑い出し、俺はすぐにヘラヘラしながら国王を見つめる。彼は明らかに興味が出た表情になり
「気持ち悪いやつだな……あっ、すまんな、リース!座れ」
リースは丁寧に会釈をするとヘグムマレーの左隣に座る。ヘグムマレーは自信に満ちあふれた表情で
「ナランが解決の為の材料を揃えてくれたわ。テルナド、ハイエド!二股の巨大マツを目印にまっすぐ南北へ領地を分けよ」
貴公子は満足げな表情をするが、黒尽くめの美男子が片眉を上げ
「公よ、私の管轄地が僅かばかり減ります」
ヘグムマレーはニカッと笑い
「貴公が納得するのなら、フォールズ市東部の未採掘の金鉱の場所を教えよう」
美男子は目を見開き、こちらを見つめる。ヘグムマレーは更に貴公子の方を見つめ
「貴公にもアーゲイン市西部の未採掘の鉄鉱山の位置を教えるが?苦しんでいた財政問題が解決するのではないか?」
貴公子は満面の笑みで頷き
「……多少、フォールズ市に譲りましょう。均等になるように」
そう提案してきて、国王が思わず噴き出し
「……調子が良いな!良いだろう!地図の確定を別室でせよ!また揉めたら叔父が2つの鉱山の場所は教えぬからな!」
王族達は立ち上がると、国王とヘグムマレーに深く頭を下げ、退出していった。
国王は俺の方を見つめると
「ナラン、覚えたぞ。リルガルムの息子と聞いたが」
「……そうでございます、国王様」
俺がどうにか答えると、彼はリースを見つめ
「やはり頭が良いのか?混沌を包み込む聖母持ちのなのは聞いている」
リースは微笑みながら
「ひたすら優しいのですよ。それだけです」
国王は少し、腕を組み考えた後
「……まあ、結婚承諾が暗黒地帯と引き換えなのは変わらぬが……そちらの美女も座りなさい。叔父さん、彼女は?」
ヘグムマレーは立ち上がると、代わりに自らの席にミャーマを座らせ
「養子にした。ミャーマじゃ」
国王は驚きで立ち上がると、大柄な身体で我々を見下ろし
「叔父さん、正気か?ハニートラップ?」
正直に想いを口に出し、心配してきて、リースが思わず噴き出した。ヘグムマレーは苦笑いしながら
「正気じゃわい。私をたぶらかすことが出来る女性はそう多くないぞ?」
国王は納得した様子で座り直すと
「養子にした理由は?」
ヘグムマレーは外に向け
「すぐにスキル鑑定士を呼べ!最も経験豊富な者が良い!」
そう言い放った。
半時間も経った頃、毅然とした老文官のスキル鑑定結果を聞いた国王は愕然としながら
「下がって良い。この子と叔父に話がある」
そう言って文官を下がらせ、ミャーマの横に自ら座ると
「ミャーマと言ったな?」
ミャーマはキリッとした顔で黙って頷く。
「声を聞かせてくれ」
ミャーマはしばらく戸惑った後
「ミャーマですう……」
いつもののんびりした口調で声を発した。その瞬間、国王の頬が赤く染まり、俯きながら
「叔父さん、養子は取り消せ……」
ヘグムマレーが心底不快そうに
「もはや登録は済んでおるが」
国王は立ち上がるとミャーマを碧眼で見つめ
「嫁だ!俺の王妃にする!叔父さん!この子の家は何処だ!?この超絶素晴らしいスキル群と、とてつもない可愛らしさだ!フーンタイ州の大きな貴族の出だろう!?ご両親に明日すぐご挨拶に行かせてくれ!」
リースと俺、そしてヘグムマレーが国王を見つめ、口を半開きにして固まっていると、彼はミャーマの手を取り立ち上がらせ
「……君のことが全て知りたい。今日は君の為だけに空けよう。政務も会食も取りやめだ」
「……国王様あ……ミャーマあ、ヘグムマレー様のお話も聞いて欲しいかなあ」
国王はすんなり頷き
「叔父さん、我が部屋で3人で話そう。我々の輝ける将来について」
ヘグムマレーは大きく息を吐くと
「良かろう。リース、ナランと共に私の執務室へ行き、代理で政務を執行せよ」
無茶な言い付けを残し、国王達と去っていった。
2人で会議室に取り残された。
「ミャーマ、国王様射止めちゃったよ……」
「デュランお兄ちゃん……若い頃に女性不信になって……長かったのに……」
「そうなのか?」
「うん。若くして国王を継いだから、女の人が大量に言い寄って来て……色々あったって、調整が大変だったってお父様が……」
「……リース……毎日、凄すぎない?」
「そうね……とりあえず、お父様の執務室に」
「そうだな……」
リースに手を引かれ、俺は会議室を出て行く。




