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冴えない俺が、何でも教えてくれる魔法を手に入れたけど……  作者: 弐屋 丑二
宿主の精神領域拡張による負荷テスト

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ルーモコドキドキ学園

 まるで要塞の様な、厳めしい三階建ての校舎1階へと外側の入口から皆で入っていく。ミヤはすっかり元気になっていて

「やばい!学校楽しみとか小学校以来かも!」

などと言いながら、アンジェラから手を離されても、はしゃいで付いて来ている。校舎には玄関で靴を脱ぎ並べ、スリッパに履き替えて入るらしく、ヒト姉妹が慣れた様子で履き替えるのを横目に、俺たちは少し戸惑って時間がかかった。


 廊下は冷たい独特な雰囲気で、学校といえば木造校舎しか知らない俺が長い廊下の向こうを眺めていると、アンジェラが

「こっちよ。ヒトの校舎は入口すぐが校長室と職員室になっているの。応対がしやすいようにね」

擦りガラス窓の付いた引き戸を横に開けて入って行き、俺達も続く。


 校長室内は、本棚の少ない書斎のようで、重厚なデスクの他、テーブルを挟んで2台のソファも置かれ、過ごしやすい感じになっていた。窓からは広いグラウンドも見える。ソファに皆で座って待っていると

「アンジェラちゃーん、お久しぶりですわあ」

軽い調子で、黒縁眼鏡で紫髪を短髪にした妖しげだが、妙に魅力的な男が入って来た。男は手足の長い健康的な身体のラインがはっきり分かる様な艶やかな紫のスリムドレスを着て、黒のアイラインと紫の口紅をしている。

「ルーモコさん、お久しぶりです」

アンジェラは丁寧に挨拶をすると、ソファに腰掛けたルーモコと呼ばれた男を見て

「これからミヤちゃんを入学させたいのですが」

「もちろんよ。待っていたわ」

ルーモコは目を細めミヤを見つめ、そして俺達を見回すと、まずヘグムマレーに

「ウィズ公、お初にお目にかかります。ヘッドアークデーモンのルーモコと申します。こちらでルーモコドキドキ学園を運営させて頂いております」

丁寧に頭を下げ、長い腕を伸ばし握手を求める。ヘグムマレーはその手を握り返すと

「ご丁寧にすまんね。アンジェラさんに聞いておるよ。ヘッドアークデーモンとは普通のアークデーモンとは違うのかね?」

ルーモコは上品に微笑むと

「公よ、ヘッドが付いているヒトは、管理者級です。私は国に委託された王都地方の監視任務が本業なのですよ」

ヘグムマレーは思わず笑い出すと

「大物ではないか!……何故高校を?」

ルーモコはアンジェラを見ると頷かれ、またヘグムマレーに視線を戻し

「……地上で足掻く沢山の無学なヒト達に、勉強する楽しみを知って貰いたいというのが一つと、彼や彼女達にもう一度人生のチャンスを与えたいというのもあります。後は……」

ルーモコはニカッと笑い

「私が、青春を感じるのが好きなのですよ。公よ、歳をとった後に思い出す学校は良いものでしょう?」

ヘグムマレーは嬉しそうに

「気に入った!代理管轄者ナランよ!この場でこの学校に非公式だが認可を与える!良いな!?」

突然、話を振られた俺は

「はっ、はい!もちろん!」

慌てて同意するしかない。ルーモコはまた丁寧に頭を下げると

「今から体育館でミヤちゃんの入学式をします。このルーモコドキドキ学園では、一人一人を大切にケアして卒業させることを目標にしています。入学式に皆様、是非ご参加ください」

そう言ってきた。


 グラウンドを囲んだ校舎の外の原生林に囲われ隠されるように、体育館とよばれる大きな箱状の建物があり、中に入ると一面磨かれた板張りで奥には大きなステージが設置されていた。アンジェラによると室内体操や競技を行う建物で、ヒトの世界では当たり前にあるものらしい。リースが感心した様子で

「こんなとこで遊んだら楽しそうよね」

ミャーマも高い天井やステージを見回し

「ミャーマあ……一緒に入学したいなあ」

などと無茶なことを言っている。


 パイプ椅子と言うらしい、飛行船にも積んであった折りたたみできる椅子を室内の倉庫から出し、ステージ前に並べ、ミヤを中心にし皆で座って待っていると、体育館内へゾロゾロと教員達らしき3人の悪魔達が入って来た。黒尽くめにマッシュルームカットの怪しげな小柄イケメン、黄色地に黒で呪文が描かれている体操着を着た中肉中背の丸坊主で片眉のない男、同じく坊主頭でジャケットを着てサングラスをしたダンディな中年男性も居る。アンジェラが小声で隣のヘグムマレーに

「小柄のヒトがイトオイ学年主任、黄色ジャージがサキクナサキ副校長、サングラスがワカフラル事務長ね。全員相当な実力者よ。特に事務長は天才ね」

ヘグムマレーは苦笑いして

「今日はこれ以上、ヒト達の営みに深入りする気はない。ミヤさんの為と我が娘達の経験の為じゃよ」

「ありがとうね。さっき、ルーモコさんとても喜んでたわ」

「いやいや。アンジェラさんには今後もお世話になるつもりじゃからな、安いものよ」

「ふふふ」

大人な会話してるなあと聞き流していると、ステージ袖からルーモコが出て来て、スタンドから伸びる金属の塊に口を近づけ

「では、ミヤさんの入学式を始めます」

拡声した声で宣言した。


 直後に左右のステージ袖から一斉に、ギターやバイオリンなどの楽器を手にした私服や制服、ローブ姿、サキュバスやインキュバスの思い思いの格好をした十数人のヒト達が現れ笑顔で

「ミヤさん!ようこそ!ルーモコドキドキ学園へ!」

合わせて言った後、それぞれの楽器を構えると、ハミングしながら美しい旋律を合奏し始めた。


 驚いていると隣のリースが俺の手を握り

「うわあ……素敵……」

呟く。ミャーマは両手を握りしめ前のめりになっている。ミヤは口を空けたまま固まっていた。ルーモコが

「今日はミヤさんの新しい人生の出発にお集まりくださり、ありがとうございます」

頭を下げると

「新しい学園の仲間になるミヤさんの為に今日を祝いましょう!」

もうミヤは顔を真っ赤にしてステージを見上げている。


 その後、不思議な旋律と聞いたことのない言葉による校歌が斉唱され、ルーモコも腰を縦に振って妖しく踊っていた。アンジェラがヘグムマレーに

「ニホンゴね。太古の我が国の言葉」

「不思議な響きの言語じゃな。平坦というか、音が揃っておる」

などと話しているのを聞いていると、ミャーマがいきなり眠りだし、俺も同時に眠くなって意識が落ちた。



……



 気付くと飛行船の座席に座っていた。外は夕暮れで、静かな駆動音が聞こえる。飛行中の様だ。隣のリースが嬉しそうに

「起きた?お父様によるとね、リブラーが何か大量に魔力を使わせてたんじゃないかって」

「……多分、アンリミテッドボードじゃないかなあ」

「だよね。そう言っておいた」

リースに頷いて、周りを見回すと、後ろの座席で寝ているミャーマと、操縦しているグスタフ、そして後ろ手を組み充実した雰囲気で窓から外を眺めているヘグムマレーが居たが、ミヤ達姉妹が居ない。リースが微笑みながら

「ミャーマちゃんは寝不足。ミヤちゃん達はしばらく学校に残るって」

「良かった。気に入ったんだな」

「カリキュラムを組み直し、泊まり込みも考えてるんだって」

安心する。今日は全て上手くいった様だ。ホッとするとまた眠くなってきた。リースにそう言うと

「大丈夫、ゆっくり寝てて」

直後に俺の意識は落ちる。



……



「起きろ」

ティーン兄の声に驚いて起きると、見覚えがある心の本の本棚が目に付き、横の椅子にモノラースが座っていた。両腕がある。

「治ったのか?」

「ああ、ある程度の自由をリブラーが許可した。お前に話がある」

「……聞こう」

いつの間にか横に出現したパイプ椅子に座るとモノラースは

「サナーについてだ。今、あいつはシャルロットの警護任務を全力で楽しんでる。終えたら、お前らに自慢したいそうだ」

「良いことじゃないか?」

モノラースは皮肉めいた笑みを浮かべ

「……お前らが王都地方でやっているスケールのデカいことを聞いたら、あいつの心はまた壊れるぞ?裏切られたと思うはずだ。しかも2度もな」

確かにそうかもしれない。いや待てよ……。

「モノラース、サナーを心配してるのか?」

モノラースは俺を睨みつけ、舌打ちをすると

「俺の認めた女だ。とにかくな……」

「ああ、アイデアがあるのなら聞こう」

モノラースは復元した両腕を組んでしばらく考え込むと

「暗黒地帯の討伐にあいつも連れて行け。シャルロットの警護任務が数日後に終わる。今からサナーの身体をお前に預ける。横の席のローウェルと話せ」

「よくわからんが、やってみよう」

俺がそう言った直後、意識が落ちた。



……



「かんぱーい!」

ふくよかな熟女と筋肉質な熟女、そして嬉しそうなローウェルが肉料理とパンとサラダに酒で溢れた丸テーブルを囲んでいる。全員普段着だ。周囲は衝立がされているが騒がしく、飲食店……恐らくは居酒屋の様だ。俺はオレンジジュースが注がれたコップを置いて

「ローウェルのおっさん、分かるか?」

ローウェルは軽く息を吐き

「ナランだな。呼吸と言葉の抑揚が違う」

俺はホッとして、こちらを見つめている熟女達に

「あ、サナーがお世話になってます」

熟女達は微笑み返し、酒に口をつけ出した。ローウェルは目を細め

「で、用件はなんだ」

「少し長くなるが良いか?」

ローウェルはビールに口をつけて頷いた。


 ここまでの経緯を喋り終えると、飲み食いしながら聞いていたローウェルは天井を仰いで

「……それは、モノラースの言う通りだな。想像を超えてたわ。ヘグムマレーさんは早くもお前とリースちゃんに後継者としての教育をしてるよ」

少し考え込みそうになったが、とにかく

「シャルロットさんの警護を終えたら、サナーをこちらに連れて来られないか?」

ローウェルは熟女達と目を合わせ、2人が頷くと

「……しゃあねえな。俺がサナーちゃんを王都まで連れてく。2人に感謝しろよ」

俺が安堵した瞬間、また意識が途切れる。

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