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冴えない俺が、何でも教えてくれる魔法を手に入れたけど……  作者: 弐屋 丑二
宿主の精神領域拡張による負荷テスト

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分からされてる

 いつまで経っても宮殿に着かない馬車の中でリースが真剣な様子で

「盟友契約を解呪して、婚約しないとダメだよね」

そんな契約もしてたな……と今さら思い出した。

「あっ!ナラン!ついでに私もそろそろ奴隷契約解除してよ!別に逃げないし!」

「できるのか、ちょっと明日尋ねてみる」

もちろんリブラーに。今は使う余裕がない。

「そうしてね」

ニコリと微笑んだミヤの次にミャーマが

「ナラン様あ……ミャーマあ……永久お妾契約したいですう」

「そんな契約は無いって!」

リースが顔を真っ赤にして文句を言った直後、ミヤが外を指さし

「もはや街じゃん!すごー!やば!全部お庭でしょう!?姉貴の家の敷地もこんな広くないって!」

屋敷や店舗が立ち並んでいる左右の景色を見回す。リースは恥ずかしそうに

「……凄いのはお父様であって……私は王都では何も……まともに動けるようになったのは最近だし……」

ミャーマが同情した様子で

「リース様あ……ご苦労なされたんですねえ」

「そうなの、ありがとう……って!ミャーマちゃん、馴れ馴れしくしないで!ナランは私の!」

「お友達にはなれそうですねえ。良かったあ」

「なんなのこの子……」

なんでか知らないがまた意識が薄くなりつつあるのは、これ、リブラーのせいだよな……お前また勝手にスキル入れ替えまくってるだろ……目の前で繰り広げられる夜中でも元気な女子達の勢いに押されているだけかも知れないが……。


 朦朧としながらリースに手を引かれ、停車した馬車から出ると、夜中なのに真昼のような煌びやかな巨大宮殿が目の前に聳え立っていた。光石やサーガ国で見た輝石がこれでもかと使われた外壁はこの世のものとは思えない程美しい。煌びやかな宝石の様な高い塔も夜空へ幾つも伸びている。ミャーマがうっとりしながら

「ここがあ……私の新しいお家い……」

「だから!普通の貴族のお屋敷はこの数十分の一なんだって!あなたに説明してたら何か私が凄い嫌味な王族みたいになるでしょ!」

リースは本気で怒りつつも、しっかり半身を俺にくっつけてミャーマから離している。ミヤも苦笑いしながら、リースとミャーマの間に入り

「まあまあ、喧嘩しないで?あっ、執事さん、この宮殿のお風呂入りたいなあ。ありますよね?」

宮殿の入口から多数のメイドや衛兵達と駆けつけて来た、汗まみれの執事に軽く尋ねると、彼はハンカチで素早く顔を拭き

「もちろんご用意しています。リース姫様、ナラン様、そしてご友人方、どうぞ、こちらにございます」

執事が先導して、周囲を頼もしそうなメイド達や筋骨隆々とした衛兵達に囲まれ、俺達は煌めく巨大宮殿に足を踏み入れていく。


 朦朧としているので、ちょっと現実感がなさすぎて幻を見ているのかも知れない。入口すぐのホールは宝石が散りばめられたシャンデリアが真昼のように照らし、正装したヘグムマレーやリースがリアルに描かれた大きな絵画が目立つ位置にかかり、若い頃の髪があるローブ姿のヘグムマレーが、凄いかっこいいイケメン騎士と邪悪な赤黒い鱗を持つドラゴンに立ち向かう絵画も、最も目立つ一角にかけられていた。俺の手を強く握ったリースが

「あの絵は、お父様が先代国王様と、邪竜グレニードを討伐した時のものよ」

執事が颯爽と歩きながら

「ヘグムマレー様は、ウィズ王家の知恵袋であり、輝かしき討伐実績を誇る大魔導であり、そして国内有数のスライム研究者でもあります」

俺がボーッとした頭で

「よく存じております……」

ミャーマも感心した様子で

「……全部ほんとだあ……すごーいお貴族様のお屋敷で嘘が無いってえ」

「お父様に嘘なんてあるわけないでしょ!……あっ……おほほほ」

慌てて上品な笑顔に切り替えたリースを見て、何と泣いているメイドや衛兵達も居る。リースが元気になって本気で嬉しいのだろう。


 さらに進んで行き、差し掛かった回廊から広大な菜園が見え、若干目眩がする。色とりどりの大きな果物や野菜がそこら中で実っている。リースが自慢げに

「お父様が元々あったお庭をスペースの無駄だと言って、全て菜園に変えたのよ。お陰で我が家はほぼ自給自足してるの」

「……ヘグムマレーさん……いや失礼、ウィズ公様、スケール大きいよな」

知れば知るほど、何か怖くなりつつある。


 回廊を過ぎるとようやく風呂場のある区画へとたどり着き、メイド達が

「姫様とナラン様は王族専用のお風呂です。ご友人達はお客様用の方へ」

有無を言わさず引き離され、俺達は広い脱衣場へと入っていく。メイド達が控えている中で脱ぐのはちょっと……と思っているとリースが

「皆!ナランと私は自分でやれるし!2人ともレア上級職の経験豊富な冒険者よ!一旦、お外で待機してね?何人かは魔力変動で私達が無事かはわかるでしょう?」

メイド達は直ぐに頭を下げ出て行った。リースに感謝を告げ、丁寧に服と下着を畳んで近くの椅子に置くと、リースが服を裏表で汚く脱ぎ散らかしているのが目に付く。

「畳まないで良いのか?」

何も着ていないリースは輝く笑みで

「そんなに綺麗に畳むとナランが貴族ではないことがバレるけど?」

そう言いながら俺の服を裏表にして、床に放り投げ始めた。唖然としていると

「高位貴族程、使用人達の仕事を敢えて作るのよ。汚したりしてね。そういう所に一切気を回さないことで、大きな仕事ができるわけね」

「すげー世界だな。うちも大きかったけど貴族じゃないから、礼儀や躾は厳しかった」

リースは俺の手を取って

「普通の世界のことも、私はお父様から教えてもらっていたし、両方知っているからこそナラン達との生活も出来たでしょう?」

「だな。今度は俺が合わせる番か」

頷いたリースはすっかり機嫌が良くなり、俺を風呂場へと連れて行く。


 風呂場の扉を閉めた瞬間、脱衣場へとメイド達が一斉に入ってきて片付け始めた。気にしないようにして風呂場を眺めることにすると、これ……ほんとに造り物か?という光景が広がっていた。天然の露天風呂のような自然な岩の並びに囲まれた広い湯船があり、手前には当たり前の様に滅多に見られない水道の蛇口が幾つも岩の間から出ている。足元も岩場だが全て完璧に磨かれていて絶対に怪我をしないようになっている。リースが微笑みながら

「風呂場全体に、転倒防止の魔法がかけられているわ」

「……もう言葉が出ねえ……」

この風呂場だけで屋敷が建つのでは……。


 2人で身体を洗い合って、静かに並んで湯船に浸かっていると外でメイド達が

「こ、困ります!ご友人様!姫様とナラン様専用です!」

「……ミャーマあ……ナラン様のお家の奴隷なんでえ……身の回りのお世話する契約なんですう。ご主人様にい、怒られますう」

「そ、それは失礼いたしました」

あっさりと何も着ていないミャーマが脱衣場を突破して、風呂場へと入って来た。リースが絶句して俺に抱きつく。確かにちょっと怖い……。


 ミャーマは丁寧に自らの身体を洗うと、何事もないかのように、湯船の前に足を折りたたんで上品に座り、微笑みながらこちらを見つめてくる。本気で我々の世話をする気の様だ。リースは

「な、ナラン……ミャーマちゃんに後ろを向くよう命令して」

た、確かに色々ちらついて落ち着かない。

「ミャーマ、背中を向けて座ってくれ」

「はあい」

後ろを向いたミャーマの背中から下半身のラインも見事で、焦ったリースが

「な、ナラン!こっち頭で床にうつ伏せで寝かせて!もう横にして見える面積を減らすの!」

「……ミャーマ、悪いけど寝てください……お湯で床温めてから……何かすまん」

「いいですよお」

リースと俺が必死に床にお湯をかけ続け、温めた所にミャーマはうつ伏せになり、こちらをジッと見つめてくる。リースはため息を吐いて

「ナランあのさあ……」

「はい……」

「王族の私でも永遠に勝てないものがあるって思い知らされてる……分からされてる」

「うちの実家の子が、ホントすいません……」

ひたすら謝るしかない。

「ミャーマちゃん……」

ミャーマはうつ伏せのままこちらを見て

「リース様あ……なんでしょうかあ」

「この場は負けを認めたから……出ていって貰えるかな?」

ミャーマは黙って俺を見てくる。

「ミャーマ……いや、ミャーマさん、頼むから別のお風呂に入ってゆっくり温まってください……」

頭を下げて頼むと、ミャーマはにっこり微笑み

「ナラン様あ、そうしますう……」

スッと立ち上がるとあっさり出て行った。そして完全に気配が消えるのと同時にリースが強く抱きついて来ると

「やっぱり!あんな子に負けないんだから!ナラン!ナランーッ!」

発情した表情で俺に情熱的にキスをしてきて、そこからは……うん……湯船の中や外で散々絞られた。空になるまで絞られた。いつもより更に積極的で情熱的だった。ミャーマが努力家のリースの心に火を点けてしまったらしい。



……



 気付くと寝間着でベッドで寝ていた。しっかり横には寝間着のリースが抱きついて寝息を立てている。クローゼットとダブルベッドしか無いが、とても広い部屋だ。見回したがさすがにミャーマは居ない。鳥の囀りが聞こえ、明け方だと気付く。リースの腕を解き、ベッドから出ると

「ナラン様あ……起きられましたあ?」

扉の外から声がして、一瞬俺は驚きすぎてジャンプしてしまった。怖怖と扉を開くと廊下にメイド服を着たミャーマが座っていて

「あのお……警備させて貰ってましたあ」

「……」

これは俺が寝ている間、リースと何かあったな。どうしようか……と思っていると、廊下の向こうから

「おお、ミャーマさん、ナランさんと密会かね?」

ヘグムマレーとアンジェラが部屋の前までは足早に来て安堵する。


 廊下に出てヘグムマレーに

「あの……いつの間にか寝てて……なんもないです」

一応申し開きをすると、ヘグムマレーは微笑み

「分かっておるよ。だが娘とはあったじゃろう?すまんが、逐一報告されておるよ。仲良くて何よりじゃ」

アンジェラもサングラスを外し、微笑みながら

「人間の高位貴族にプライバシーはあってないようなものよ。しかも本宅だからねえ」

「……いや、お恥ずかしい……です」

上機嫌のヘグムマレーは、隣の部屋の鍵を開けると、全員を招き入れ、そして鍵を閉めた。


 室内は書斎で本棚には本がぎっしりと詰まっていた。ヘグムマレーは奥の古びたデスクの椅子に座ると、俺達にも好きなソファや椅子に座るよう勧め、全員が着席すると

「デュランが、少し厄介な問題を抱えていてな」

「国王様のことですかあ?」

ミャーマが尋ねるとヘグムマレーは苦笑いして

「そうじゃ。わが兄の息子、デュラン・ウィズ国王じゃ」

アンジェラが悩ましげに

「何とリースちゃんの結婚許可を交換条件に難題を押し付けてきたわ」

ヘグムマレーが大きく息を吐いて

「エルブキングス暗黒地帯の制圧を頼まれた」

と言ってきた。

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