王都への飛行
ミヤが少し恥ずかしげに
「高校にも連れて行ってくれる?姉貴が願書出したって。入学はいつでもいいんだって」
ヘグムマレーが頷くと
「そうじゃな。王都の近くらしいから、纏めて行くかね」
「あの……どうやって……」
俺が尋ねると、リースが少しナイーブな笑顔で
「飛行船あるでしょ?あれを我が家の王族専用船としてお父様が登録したの。会社の側に繋留されてるわ」
そういうことか……。ヘグムマレーは立ち上がると
「ベラシール家に寄り、ルカさんも連れて行くかね。私と共に宮廷へ行けばベラシール家の格も多少は上がるが」
「……良いんですか?」
リースが俺にまた抱きついてきて
「……皆で行こ。私、正直、王都苦手で」
ミヤが決心した表情で
「リースちゃんの為に姉貴も釣ってみる。ヘグムマレーさん、良いよね?」
「うーむ……まあ、今の王都はボンクラしか居らんから偽装していけば問題なかろう」
ヘグムマレーは真剣な表情で頷いた。
一度、自宅に3人で戻り旅支度を始める。ミヤは「セーラー服」という吸引屋のヒトから貰ったという不思議な服装に着替え
「……正直、スカート丈も短いし恥ずいんだけど。入学の為の正装、これしかないから……ついでに姉貴を釣るって感じ。一回だけにしよ……中はスパッツで……絶対姉貴下も撮るでしょ……あームカつく」
何とも言えない表情でブツブツ言っていた。リースは黙って旅装に着替える。王都のヘグムマレー所有の本宅で正装にするとのことだ。
会社近くの広い更地に発着場が出来ていて、飛行船は地面から伸びた4本の太い碇で繋留されていた。少し離れた一階建ての広い管理小屋から、青い作業服を着た赤鼻の小柄な中年整備士が出て来て、人懐っこい笑顔で俺に
「ナランさん、グスタフと言います。会社の社員です。飛行船の専属整備員兼パイロットに任命されました」
「あ、どうもナランです。よろしくお願いします」
握手をしているとヘグムマレーが
「マシーナリーレベル75の強者じゃ。サブ職はアサシンじゃろう?」
グスタフは照れ笑いしながら
「公には隠せませんなあ。盗賊の解錠スキルが機械弄りに便利で……色々技能を伸ばしていたら、つい上級職に……」
そう言うとポケットから取り出したリモコンで飛行船下部の扉を開き、タラップを伸ばした。
直後に殆ど瞬間移動の様な速度でアンジェラが現れ、興奮した様子で左右にそれぞれカメラと四角い鉄の塊を持ち、ミヤに向け「カシャカシャ」と音をさせながら光を連射し始めた。ミヤはため息を吐きながら
「姉貴、これから高校入学するんだけど一緒に来ない?」
アンジェラは感動した面持ちで
「……!例え、リースちゃん達の相談役として釣られているだけでも、その言葉が聞けてお姉さん嬉しいわ!」
「全部わかってる上で来るならいいよ……」
ミヤは項垂れながらタラップを登って行った。アンジェラも両手の機械から光を乱射しながら付いていく。俺たちも飛行船内へと続いて入って行った。
不安げな様子のリースの隣に座り手を握っていると外から「ガシャン!ガシャン……」と恐らく、碇を取り外していく音が響いてきた。同時にタラップがこちらに向け縮まって来るのが開きっぱなしの入口から見え、グスタフが一気に跳躍して乗り込んで来ると扉を閉め、操縦室の前方に向かいながら
「すいません。何せワンオペでやってるもんで。私の動きが煩いですがお気になさらず」
わざわざそう断りつつ、立ったままリモコンを前方にはめ込んだ。アンジェラが横に行き、2人は飛行船の操縦について話し込み始めた。ミヤはヘグムマレーと操縦室後方で、上昇していく景色を見ながら王都について話しだした。俺は急に疲れが一気に襲って来てリースにどうにか
「ごめん……ちょっと寝る」
告げた直後、意識が途切れた。
……
「あーん……ナラン様あ……」
「ちょっと!それ以上ナランに近づいたら死刑だから!」
「えー……怖い……」
「ミャーマさん、今、娘はナイーブでな。本当に死刑にしかねぬ。離れてくれんかね?」
「はあーい。ウィス公様あ……ミャーマ、王都でお貴族様のお妾になりたいですう」
「うーむ……いくらでも紹介してやれるが、ろくな貴族が居らんぞ?」
「痛いこととかあ……酷いことされなければいいですう。お願ーい、お・じ・いちゃーん」
「お父様!こいつ不敬罪で死刑にします!もう許せない!」
「待て待て。リース、こういう方向性で人生を真剣に頑張っている者たちも多くいるのじゃよ」
「優しーい!おじいちゃーん大好き!」
「こら!お父様から離れなさいって!気軽に抱きつかないで!」
騒がしすぎて起きると、目の前の光景に驚いた。
夜空を飛んでいる飛行船内、煌々と照明に照らされたこの操縦室には元々のメンバーに加え、真っ青な顔でオロオロしている正装したルカ兄と、緊張した様子の我が家の若いメイド達が10名程乗っていて、更に後部では元村長もミヤとアンジェラと何か真剣に話している。前方では明らかにグスタフが関わらないように気配を消し操縦を続けている。
そして俺の座席の目の前では
「あーん……ナラン様あ……起きたのお……」
恐らくは俺が実家で最も縁がなかったはずの、我が家の元奴隷と使用人の中で最も美しい姿形をしている女子が、リースに羽交い締めにされて尚、俺へ色目を使ってきていた。輝く長い金髪、大きな碧眼と潤んだ唇の愛らしい顔つき、真っ白で長い手足と……大きな胸と尻、引き締まった腰、そして短い丈のメイド服。余りにも美しいので兄達が持て余し、何処かへ派遣されていたと聞いていたが帰って来たのか。というか……飛行船に乗って王都へ一緒に向かってるよなこれ……実家にはもう寄ったんだな。
ルカ兄が巨体を折り曲げて俺に近寄って来ると、小声で
「……先日、我が家は奴隷解放しただろう?それで、派遣先の州都の高級サロンに残るか尋ねたんだよ」
「う、うん」
「そうしたらな。お前の妾になるか、王都で貴族の妾になるかしか興味が無いと言って来てな。困っていた所にちょうど、ウィズ公が尋ねて来られたので、公から呼ばれた私と共に王都へ連れて行こうとしたら……」
ルカ兄は、背後でこちらをソワソワしながら見つめている若いメイド達を振り返る。
「10人程付いて来たと……」
ついでに元村長までも……。
「そうだ。……正直、今は私としても彼女達に幸せになって欲しいと思っている。我が家に無理に縛り付けていたからな」
「ルカ兄、立派だよ。弟として誇りに思う。ルカ兄こそ、我が家の当主に相応しいよ」
「……今の言葉でようやく落ち着いたよ。至らぬ兄ですまんな。ナランが優しい男で良かったよ」
ルカ兄は黙って下がると、アンジェラとミヤが次々取り出してきた金属製の折り畳み式の椅子を自ら並べ、メイド達を座らせ始めた。
やはりルカ兄は、残酷な長兄が居ないと本来の優しさが出るんだなと感心しつつ頼もしくも思っていると、リースの羽交い締めを柔らかい身のこなしで抜け出たミャーマが俺の膝にスッと座ってきて
「ミャーマあ……ずっとサナーちゃんが羨ましくてえ」
「サナーが?」
「ちょっと!そこは私の膝……じゃなくて!ナランから離れなさいって!ナランも離れてよ!」
リースが顔を真っ赤にして退かそうとしてくるので、俺が立ち上がり、ミャーマを席に座らせ、抱きついてきたリースと見下ろすと、両手をむき出しの長い膝に添えて可愛らしく座ったミャーマは、上目遣いで
「サナーちゃんー……ナラン様とずううっと一緒でえ、私、話かける隙なかったんですよお」
リースが本気で怒り出し
「嘘吐かないで!ナランはずっといじめられてたのよ?今更言うのは卑怯でしょ!?」
ミャーマは本気で困った表情になり
「私い……サナーちゃんみたいに頭良くないしい。十三からずっと派遣でえ……ナラン様と離れちゃってえ」
リースは絶句して黙ってしまった。ヘグムマレーが俺たちの横に来ると
「君の婿選びも我々が請け負うとしよう。しかし、ナラン君は娘と結婚する。それで良いかね?」
「……おじいちゃん優しい。うん、我慢してみるう……」
ようやくミャーマが納得したので俺とリースは離れた座席に座ろうとすると、ミャーマが物欲しげな顔ですぐ隣に近寄って来て、またリースに手を引かれ離れてを繰り返すことになった。疲れる……こんな状態で人生初めての王都に行って大丈夫なんだろうか……。




