メッセージ
シャルロットはモノクルで俺をしばらく見つめ
「あー……そういうことですか……」
口に出すと、真剣な表情で社長の耳元に何か囁いた。社長は手を叩いて爆笑しだし
「罪悪感はあるということだな。面白い」
シャルロットは俺に向き直り
「ナランさんの鑑定結果の発表を始めます」
落ち着き払った様子で言ってきて、少し安心する。どうやら今回は大したことはないようだ。
シャルロットは冷静な様子を保ったまま
「では人格スキルからいきますね。”リースへの愛””ウィズ王家”との絆に加えて”導く者”そして”サーガ王家との絆”が発現しています」
「……」
俺は呆然としてリースは慌てた様子で
「でも!ナランはアン王女とは何も……」
シャルロットは微笑んで
「絆系スキルは異性愛とは限りません。様々な形で深く関わると発現いたします。それに例えば、人格スキルに”アンへの愛”や”アンを従えし者”またはマイナス性的スキルの”獣欲を撒き散らす者”などが発現していないのでご心配には及びません」
リースは安心した様子の後、俺と握っている手の力を強めた。
シャルロットはリースに余裕ある笑みを向けてから、俺に向き直ると
「通常スキルにまいります。”幸運の使者””混沌を包み込む聖母”以上になります」
「……えっ」
思わず声が出てしまう。リブラーにしてはシンプル過ぎないか?シャルロットは軽く息を吸い込んで吐くと
「ここから鑑定発表させていただくスキル群も通常スキルではありますが……先に謝っておきますと、申し訳ありませんが、社長である叔母にリブラーについては一通り教えて貰いました」
「知っていたんですか」
シャルロットはニコッと笑って頷くと
「その事情も鑑みると、これから私が鑑定発表する新規スキル群はリブラーによる我々へのメッセージだと思われます」
室内の空気が変わる。社長とシャルロット以外が緊張したのが伝わってくる。
シャルロットは余裕のある笑みのまま
「では私に見えている並びの順のまま参ります。”ゴミ拾いの達人レベル1””面倒を厭わぬ者レベル1””アトリエの陽射しレベル1””喜びの道標レベル1””仕組みを知る者レベル1”以上です」
リースが慌てた表情で
「アトリエの陽射しは芸術系のレアスキルだし、仕組みを知る者は工業の天才の……しかも喜びの道標は娯楽や医療、宗教関係者が生涯をかけて追い求めるレアスキルですよね?でも何で全部レベル1……」
シャルロットは嬉しそうに頷くと
「リース様が賢きお方で助かります。しかし私が見たところ、このスキル群をリブラーが付けた意味は単純なメッセージ以上のものではないと思われます。目的を達成した後は消えるでしょう。なので職業鑑定でも考慮しません。今からその意味を発表いたしますね」
俺が緊張してシャルロットを見つめると、彼女は軽い調子で
「ゴミ拾いの達人のゴ、面倒を厭わぬ者のめん、アトリエの陽射しのアト、喜びの道標のよろ、仕組みを知る者のしくを合わせると……」
シャルロットはわざわざ言葉を区切り
「ゴめんアトよろしく。となります」
俺はその瞬間、緊張していた全身の力が一気に抜けて「ゴツンッ」と頭を打ち付けた音がする程、テーブルに勢い良く突っ伏してしまった。リースが
「だっ、大丈夫?」
慌てて声をかけてきて、サナーがポツリと
「私達で遊んでる……」
最初からずっと気配を消し黙っていたミヤが椅子から立ち上がる音が聞こえ
「あははは!もうダメ!面白過ぎる!あはは!」
大笑いしながら小走りに応接室を出て行った音が聞こえる。ローウェルとヘグムマレーの深いため息も同時に聞こえた。
シャルロットはそのまま
「新規スキル群がレベル1なのは鑑定士である私がメッセージに気づきやすくするためでしょう。つまり古代遺物が私を認識しているということで、興味深いです」
俺が顔を上げるとシャルロットは真顔になり
「……では職業を発表いたします」
もう何でもいいよ……もうどんなこと言われても大丈夫……。人に勝手に付けたスキルでメッセージ送るとかリブラーお前何なんだよ……舐めてんんのか。力が抜けすぎて、もはやシャルロットに目の焦点すら合わないが、どうにか顔を向けていると
「ドラゴンハート、レベル31が適正であるかと思われます」
突然ヘグムマレーが
「何と!亡き兄と同格であると言うのか!」
楽しげだが覇気と威厳ある声をシャルロットにかける。シャルロットは冷や汗を垂らし社長に助けを乞う視線を送った。社長は落ち着き払った様子で
「……公よ。レベルが違います。偉大なる先代王は99レベルの名君でありましたが、ナランは三分の一にも達しておりません」
ヘグムマレーは恥ずかしそうに笑いながら
「いや、すまん。つい嬉しくなってしもうて。この親にしてこの子ありじゃな。お恥ずかしい。スライム好きのジジイに戻るわ」
瞬時に部屋の空気が緩むとシャルロットは真っ青な表情で
「あの……腰が……どなたか……私この後、たくさん予定が……貴族の方々との会食も……」
ローウェルがサッと立ち上がり
「シャルロットさん、社長から事前に言われて既に予定に組み込んでる。今日から数日、俺と女性の助手達が忍術と秘薬で腰のケアと、護衛と送迎、荷物持ちをする。これは報酬とは別の会社からの完全無料のサービスだ」
「……ローウェルさん、叔母様ありがとうございます」
ローウェルは広げられた大量の分厚い古書をたたみ、素早く丁寧に大きな鞄に詰めるとそれを肩にかけ、軽々とシャルロットを背負うと風の様に応接室を出て行った。社長は上機嫌でヘグムマレーに
「強い子です。お気になさらず」
と言った。
しばらく呆然としていると、再び会議室の扉が開いて手ぶらのローウェルが顔を出し
「サナーちゃん!行くぞ!」
サナーは察した様子で素早く立ち上がると
「一緒に護衛か!?シャルロットが言ってた修行だな!?」
「そうだ。給料も俺が出してやる。護衛用の装備付きでな。しばらくプロの生活に付き合え。楽しいぞー?」
「やったー!ナラン行ってくる!」
俺が頷くと、サナーはローウェルと勇んで出て行った。社長は真顔でアンジェラを見ながら
「悪いが押してくれないか?社長室で話がある」
そう言うと、明らかに楽しげなアンジェラに車椅子を押されながら会議室を出て行った。直後にミヤが戻ってきて
「姉貴行ったね。いやー今回は楽しかったー」
背伸びをしながらサナーの居た席に座ってきた。リースが真剣な表情で父親に
「ドラゴンハートって……」
ヘグムマレーが真顔で
「複数の国を繋ぐ英雄の職業名じゃ。この絆が更に増えると別の職業名にもなり得る」
「国を繋ぐって、サーガ共和国にはちょっと飛行船で行ってリアルボードゲームで遊んでただけですよ?」
思わず言ってしまうと、リースが俺の背中を優しく抱きながら
「落ち着いて聞いてね?アン王女によるとね……」
「う、うん……」
「サーガ共和国のサシュー国王とアールズ議長が、アンリミテッドボードのパーフェクトクリア者であるナランと是非会いたいって言っているそうよ」
「ぱーふぇくとくりあって何……?」
「えっと……アン王女が言うには……」
リースは悲しげな表情で俺に抱きついて黙ってしまった。ヘグムマレーが代わりに
「要するにアン王女が、そのように言いふらしておるわけじゃ。君と大々的に結婚するためにな。これは……こちらでの式を急がねばならぬな。仕方ない。皆で王都へ向かうか。ローウェルさんがサナーさんを自然に遠ざけてくれたからのう」
「……?」
首を傾げていると、ミヤが笑いながら
「リースちゃんと先に結婚しないとダメでしょ?」
「……先に?」
ヘグムマレーが真顔で
「恐らく君はこのままじゃと、アン王女と結婚することとなる。その前に、正式に娘と結婚して貰わねばならぬ」
「も、勿論そのつもりですけど」
その前にって……。リースは強く俺に抱きついたまま
「うちは王族の中でも特に大きな家だから、王都で王に直接結婚許可を貰わないとダメなの……」
あれ……?何か話が大きくなってないかこれ……。




