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冴えない俺が、何でも教えてくれる魔法を手に入れたけど……  作者: 弐屋 丑二
宿主の精神領域拡張による負荷テスト

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さっそく鑑定

 傭兵会社の本社屋敷前ヘとローウェルは馬車を停めると

「今日は俺も会社側で同席する。ちなみにシーネは出張中だ」

「……分かった」

ローウェルの案内でいつもの応接室へと向かい、扉を開ける。


 既にテーブルを挟んで奥側には、車椅子に座りニヤついている社長、自らの前に大量の古びた分厚い本を積み上げ緊張した面持ちのシャルロットが座っていた。そして入口側に、嬉しそうに振り向いたサナー、右隣に一席空けてリース、更に右隣に一席空けてミヤが座っていた。応接室奥の窓際にはローブ姿のヘグムマレーと黒尽くめにサングラスのアンジェラが立ったまま深刻そうな面持ちで何かを話している。


 

「挨拶は省略だ。恐らく、今回は長くなるからな」

ローウェルに促され、サナーとリースの間に俺が座ると、ヘグムマレーがリースの横に座り、アンジェラがミヤから最も離れたサナー側の逆隣に座ってきた。社長が嬉しそうに

「ナラン、寝ている間の話は一通り聞いたな?」

黙って頷くと、社長は満足げに

「よろしい。さっそく鑑定だ。後がつかえている。シャルロット、頼む。リース様と社員2人と派遣のミヤだけでいい。絶対にアンジェラさんは見ようとするな」

シャルロットは緊張した面持ちで頷くと、テーブルに本を広げ、サナーを見ると安心した面持ちで

「……ケイオスソルジャーレベル50です」

ヘグムマレーは顔を覆い、ローウェルは軽く舌打ちをする。聞き慣れない言葉にサナーが思わず

「何だそのかっこいい職業は!」

シャルロットは落ち着いた様子で

「……スキル構成は……”南方剣術レベル8””ゴブリン語レベル7””氷属性の使い手レベル5”……それと……」

シャルロットは古びた分厚い本を取り出すと素早く手繰り、更にモノクルをかけてサナーをもう一度見つめ

「……”英雄を目指す者”のレアスキル……”ナランへの愛”の人格スキルも発現しています」

サナーが思わず俺に抱きついてきて

「レアスキル!私が!レアスキル持ち!?それにナランへの愛!よしっ!」

黙ったままのリースをドヤ顔で見つめる。

「サナー……喜ぶのは後回しにしろ」

ヘグムマレー達の様子が何かおかしい。サナーは嬉しそうに座り直し、シャルロットは真剣な表情で更に

「ここからは全てマイナススキルです。”舌禍レベル5””悪意ある扇動者レベル2””絶壁から蔑む者レベル4”の3つと……」

サナーは今度は震え出して俺に抱きついてきた。ヘグムマレーは天を仰ぎ、ローウェルはイライラした様子で立ち上がると窓際へ行き、窓を開いて外へ顔を出して煙草を吸い始めた。


 シャルロットは更にサナーをジッと見つめ

「……後は性的なマイナススキルが2つほど発現していますが、プライバシーの為に後で御本人にだけお伝えします」

サナーは必至に首を横に振り

「やだ!ナランと一緒に聞く!」

シャルロットは頷くと、変わらず落ち着いた様子で

「その2つのスキルについてはご心配は無用です。どちらもレベル1ですし、自然消滅すると思います。これは鑑定士としての真剣な助言なのですが……」

サナーはとうとう俺の膝の上に乗って震えながら抱きついてきた。シャルロットは軽く咳払いをすると

「サナーさんが戦場でのジョーカー役や野盗のリーダーを目指さないのであれば、マイナススキルを全て除く為、今日からでも、良い師匠に付いて修行をするべきです。マイナススキルを全て削除出来れば、パラディンへの転職条件を充分に満たしています」

そしてわざわざ振り向いて、窓際のローウェルを見る。彼はこちらを見ずに軽く右手を上げて応えた。


 膝に乗って震えているサナーの横のリースを見たシャルロットは、少し俯いて腕を組み真剣に何か考えた後、ミヤの方へと向き直り、手元の本を入れ替え素早くページをめくりながら

「……レベルは40前後……サキュバスではないですね。ノービス……所謂人間の基本職の一つに該当すると思います。スキル構成も”掃除レベル4””家計管理レベル6””調理レベル3””人生を楽しむ者”の人格スキルと……ほぼ人間のものです……あれっ……」

シャルロットはモノクルをかけ直すと片目を瞑ってミヤを凝視し始めた。離れた席でアンジェラが軽くため息を吐いたのが聞こえる。シャルロットは言おうか迷った末に

「……勘違いでした。コホンッ」

軽く、咳払いをするとリースの方を向いた。


 すぐにシャルロットはかなり苦悩している顔をヘグムマレーに向けた。ヘグムマレーは優しい表情で

「シャルロットさんや、全て明らかにしなさい。王家の者は国民の血税で生活しておる。そんな我らが隠し事をしていては国は富まぬ」

シャルロットは今度は泣きそうな顔で社長の方を見る、社長は豪快に笑いながら

「ウィズ公が良いと仰っているのだ!責任は無い!」

シャルロットは決心した表情で深く頷くと古く分厚い辞典を開き、ゆっくりと

「……神職かみしょくです。エケドナ……レベル31……」

リースが立ち上がると

「ナラン!ナラン!やった!私やったわ」

サナーが抱きついたまま膝から退かないので、立ち上がれない俺の背中に抱きついて来た。

「……リース良かったな。俺と並んだよ」

素直に嬉しい。リースは俺の頬に口づけをすると

「凄い!ナランに付いて行ったら私とっても成長出来たよ!お父様!私!こんなに早く神職かみしょくになれました!」

ヘグムマレーは微笑んで頷くと、冷静な表情で

「……リース、座りなさい。良いかね?落ち着いてシャルロットさんの言うことを聞くのじゃ。リースはナラン君と結婚し、いずれ我が家の広大な管轄地を相続する。言っている意味は分かるかね?」

リースは嬉しさを爆発させたように

「はい!夫のナランと共に!ウィズ王家でも有数の王族になります!」

ヘグムマレーは苦笑いして首を横に振り、ゆっくりと優しく

「これから聞く話程度で一喜一憂すべきではないと言っている。リースはナラン君と共に多くの民を背負わねばならぬ。恥や外聞に振り回される小さき人間である自らを、時には空高くから見る癖をつけなさい」

リースは不可解な面持ちで席に座り直すと、冷や汗を拭っているシャルロットを向き直る。


 シャルロットは突然立ち上がり

「……少しお待ちください。お花摘みに行ってまいります」

小走りに応接室を出ていった。社長がヘグムマレーの方を向き

「ご心配なさらず。うちの姪は最後までやり遂げる子です」

余裕を持った表情で言い切った。ローウェルが会社側の端の方の席に座ると

「……正直なあ。傍から見てると、今回はリブラーがナランの厄払いをして、その分、周りが厄を存分に押しつけられてる感じがするんだがよー?」

遠くの席のアンジェラが苦笑いしながら

「厄の概念がこの王国にもあるのね。どうにかするんでしょう?」

「まあ……サナーちゃんは任せとけ。ミヤちゃんは良いのか?」

アンジェラは黙って俯いているミヤを見ると

「そうねえ……高校に……こっちの言葉で言うとハイスクールよね。ハイスクールに通うことで、ちょっとヒトとしての自覚を取り戻してくれればなーって」

「ヒト用だとするならあそこか……まあ、悪くはない」

シャルロットが小走りに戻ってくると素早く席に着き

「……失礼いたしました。鑑定を再開します」

明らかに無理して作った笑顔でリースを見つめた。


 シャルロットは大きく深呼吸をすると

「エケドナ、レベル31、神職かみしょくです。先ずは人格スキルから、”ウィズ王家との絆””ナランへの愛”の2つです。不遜ながら申し上げますと、王家との絆スキルがはっきりと発現したのは王族としての自覚が芽生えたのだと思われます」

リースは嬉しそうに何度も頷き、隣の俺も嬉しくなる。話が気になるらしいサナーの震えもようやく止まった。シャルロットは更に

「”物作りへの興味””槍術レベル4””格闘術レベル3”そして、”導く者”のレアスキルが発現しています。これは多くの人々を正しく導いた実績がある王公が持つスキルです」

リースは自信に満ちた輝く笑顔で俺とヘグムマレーを見てくる。多くの山賊を領民にしたのだから当然だろうと俺も納得する。格闘術はあれからリースは一度も素手で戦っていないので大きく下がっているのだろう。


 シャルロットは、まるで壁で自らの周りを囲うように開いた本を並べ直し、大きく深呼吸すると

「ではリース様のマイナススキルを鑑定させて頂きます」

そう言って言葉を区切り

「”神の見放した運気””精神世界の見えぬ者”そして”混沌”ですが……レベル8に下がっています。パートナーのナランさんのお陰でしょう」

リースは喜びでまた立ち上がると、俺に抱きつこうとして真顔のヘグムマレーから

「リース、最後まで聞きなさい」

と言われ、嬉しそうに頷くと綺麗な姿勢で座り直した。シャルロットはヘグムマレーの方を真剣な表情で見つめると頷き返され

「リース様、重ね重ねわたくし如きが不遜ではありますが、ウイズ公のご許可がございますので、今回追加された性的スキルとマイナススキル群を鑑定発表させていただきます」

テーブルに額が付くほど頭を下げると

「……人格スキルに”ナランの馬””ナランの兎”の性的スキルが発現しています。詳しい説明は控えます」

リースは真っ赤になって固まった。シャルロットは腹を据えた様子で

「”無数の目に悶えしもの”という性的マイナススキルが発現しています。これは……罵倒や侮蔑を快楽とするスキルです。感受性の鈍る中年以降なら、反転して良い効果になる場合も多いですが、リース様のご年齢での発現は危険だと言っても過言ではないです。堕落を招きます」

リースは前方を見たまま固まっている。更にシャルロットはもはや覚悟を決めた顔で

「……エケドナの核スキルである、レアマイナススキルの”偽りの蛇神”が発現しています。これは、自らを神だと真剣に思い込んでいる異常者に発現するスキルの一つです。極めて薄いので消えるはずですが、要観察です」

サナーが思わず

「ぶはっ」

と吹き出すと、スッと俺の膝から抜け出て上機嫌で自らの席に戻った。リースは青い顔で

「わっ……私、そんなこと思ったりしない……」

必至に俺を見つめてきたので、小声で耳元に

「アンリミテッドボードのゴールで少しの間、ラスボスの神役をしていた時の名残だろ?もう消えるよ」

フォローすると、落ち着いた顔になり小声で

「ありがと」

と言ってテーブルの下で手を伸ばしてきた。その手を優しく握り返す。シャルロットが驚いた表情で

「……今、偽りの蛇神スキルが消えました……ちょっと待ってください。職業名を変更します」

焦りながら、周囲の本の山を手繰り出した。


 リースと手を握ったまま待っているとシャルロットは落ち着いた表情になり

「申し訳ありません、神職かみしょくではありませんが、プリンセスという職業が適正であるかと存じます」

リースは思わず

「えっ!いいの!?」

社長が笑い出して

「おい!鑑定に手心を加えるんじゃない!」

シャルロットは毅然とした表情で

「……リース様はどちらを重視するかなのです。マイナススキル群を重視するとロイヤルピエロやユーズレスノーブル、またはインコンペテンスが適職ですが」

またサナーが

「ぶはっ」

と吹き出し自らの口を押さえる。シャルロットは気にせず

「マイナススキルを鑑みなければ、プリンセスレベル37が適正だと思われます。リース様、よくぞ短期間で人格を高められましたね」

リースは座ったまま俺に抱きつき、ヘグムマレーは安堵のため息を吐いた後

「……ナラン君と居れば、娘の新規マイナススキルは消えるかね?」

シャルロットは真剣な眼差しで

「できるだけ離れないことです。そうすれば短期間で消えるはずです」

断言してくれて俺も安堵する。社長の近くに座り直したローウェルが半笑いで

「んで、ナランの番だな」

と言ってきて、そう言えば俺、まだだったな……とようやく思い出した。

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