状況整理
引き抜いた立て札を自宅裏の倉庫に入れて、前の道路で待っていた姉妹に
「サナーを起こすと煩いので、もう夜ですし……また明日にでも」
赤い髪のスヴェナの方はすぐに俺が帰りたいと察し頷いてくれたが、青髪のノヴェナは俺の手を取って
「ナランさーん……ちょっと私ねえ」
「はい……」
「この世界の身体で遊ぶことを学んでてえ……」
俺の手を自分の薄い右胸に当てようとしてくる。スヴェナが黙って間に入り生真面目な表情で
「ノヴェナ、ナランさんはリースさんを愛しているし、サナーさんという、そういうことを専門で処理する地位の低い人もいる。当然、異種族であるミヤさんともそういう契約をしているし、他国の王族であるアン王女と金と身体と王籍のために重婚もするのよ?」
「う、うん。モテモテだよね。知ってる」
「……」
なんかとんでもない勘違いしてませんか?あと言ってること全部事実だとして、それモテモテって言えますか……?鬼畜なだけでは?
スヴェナは妹の手を取り
「ナランさんは上級者過ぎるの。もっとボニアスさんと学びなさい。ナランさんに相手をして貰うのはそれからよ?」
「そうだね姉さん!さっそくボニアスさんに連絡だ!朝まで特訓頑張るぞー!」
「その意気よ!」
姉妹は丁寧にお辞儀をして、隣の家に帰っていった。言ってることほぼ全て間違っていたし、ボニアスとの特訓なんて絶対にろくでもないが、正直、今すぐ二度寝したいくらい早くも精神的疲労しているので、もう放っておくことにする。
家に戻って2階へと上がろうとすると、テーブルで突っ伏して寝ているサナーが「クシュンっ」とくしゃみをしてソファの背もたれにあったタオルケットをかけてやると、寝言で
「リースー……私があ……最初の嫁だからなあ……永遠にだ……うふふふ」
「……」
俺が寝てる間、リースに散々マウント取ってたであろう光景が頭に浮かんでくる。まあ……いいか……もっかい寝よ。
2階へ上がり寝室に入ろうとすると、パジャマ姿でボサボサ髪のミヤが隣の部屋から出てきて
「あっ……」
声を上げようとするのを、俺は自分の口に指を当てるジェスチャーで必死に止め、近寄ると小声で
「もう一回寝たい」
「……あの、私、ナランにすぐに話したいことがあって……起きてすぐでごめん」
「……何?」
ミヤは真顔で
「下で待ってて」
足音を立てずに小走りで一階に降りていった。そしてトイレの扉が閉まる音がする。中々寝られそうにない。
寝ているサナーをソファに移してタオルケットをかけていると、ミヤが来て
「ホットミルクとか要る?」
黙って頷くと、エプロンを着て火を起こし、鍋を温め始めた。そして背中を向けたまま
「私、高校に進学したいと思ってる」
そう言ってきた。黙っていると、ミヤはミルクの入ったコップを俺の前と、テーブル向こうの自らの席の前に置き
「この数ヶ月、地上で学んだ色んなことを活かせば、きっと人生やり直せると思うんだ」
「そっか……応援するよ」
つまり、自分達の世界に帰るということだろう。ミヤの人生なのでやりたいようにしたらいいと思う。寂しいが仕方がない。ホットミルクを飲み干し、立ち上がろうとするとミヤは慌てて
「あの……帰るとかじゃなくて……えっと、私みたいな落ちこぼれでも入れてくれるヒトの為の高校が、実はこの地上にあるって姉貴に教えて貰って……いや、落ちこぼれじゃなくても色んな事情で入ってるヒト多いらしいんだけど……」
「……?」
ミヤは頭をかきながら言いにくそうに
「レポート書いて郵送で送るのがメインで、二週間に一回スクーリングに行けばいい通信制高校で……ほら、飛行船があるでしょ?あれで二週間に一回私を高校まで送迎して欲しいかなって……」
恥ずかしげに上目遣いでこちらを見てくる。
「……えっと、可能なら全力で手伝うけど、ちょっとまだ起きたばかりで状況整理が……一回寝ていい?」
ミヤは何度も頷く。
俺はボーッとした頭のまま、2階へ上がり、服を脱いでベッドに潜り込んだ直後にリースから抱きしめられ
「……寂しかった」
「ごめん……」
抱きしめ返して寝ようとすると
「ナランは1週間寝ていたの……」
「……何か状況は変わった?」
「アンリミテッドボードから出たらね、お祭り騒ぎになっていて、アンジェラさんと私は逃げるようにナランを抱えて飛行船で帰って来たの」
「ありがとう……」
「戻って来たらサナーちゃんの手足が治ってて、すっかり元気になってた。モノラースが方針を変えたのかもってアンジェラさんが……」
リースの柔らかい身体を抱きしめてウトウトしながら頷くと
「2日後にはアン王女が共和国の王族用飛行船で政府関係者を引き連れて、傭兵会社を尋ねてきて、会社で社長とお父様と会見して……それでね」
黙っているとリースは言いにくそうに
「ナランの側にいるために、すぐそこに自分の自宅兼大使館を建てちゃって……凄かったのよ?」
黙って聞いていると
「魔法土木の専門家を共和国からたくさん連れてきて三日で屋敷を完成させたら、すぐに引っ越し準備のために共和国に帰っちゃった。サナーちゃんは一人で建設反対運動してたけど……無視されてて」
そうか……と言葉にしたいがもう口がうごかない。そのまま寝入ってしまった。
……
扉を叩く音がする。直後にローウェルの声が
「おーい、起きたって皆に聞いたぞー」
上半身を起こす。ベッドには俺しか居なかった。
「おっさん、服着たら行く」
「悪いけど、会社で鑑定だ。すぐ終わるから外に来てくれ」
「分かった」
急いで準備をする。服はベッド脇に畳まれていてすんなりと着ることが出来た。急いで1階へと降り、外へと出て行くと馬車に乗ったローウェルがこちらを見ていた。黙って荷車に飛び乗ると、会社の方へと進み始めた。
ローウェルは隣家や屋敷をのんびりと見ながら
「お前の町になりつつあるな」
「そうかな……」
「好きにしろ。サーガ共和国での件はリースちゃんに聞いた。フォッカーはエロマン姫と行方不明だ」
「……フォッカーの事だから、またどっか旅に出てるんじゃないか?」
心配する必要はない気がする。
「だろうな。または姫から必死に逃げてるか」
「ありえるな」
空は晴れていて、馬の規則正しい蹄の音が心地よい。
「皆は会社に?」
「ああ、もう応接室に居る。起きたばかりのお前の為にな」
「何か……悪いな」
早めに鑑定を終えられるように配慮してくれている様だ。申し訳ない。




