クラッキング
次の瞬間には、黄金の光に包まれたリースは消えていた。ボニアスは愕然とした表情で
「すまん……捧げさせてしもうた……」
その場にいる全員が固まり、俺がボニアスに近寄り
「ど、どうすんだよ……」
ボニアスは冷や汗を流しながら
「ナランよ……魅了効果がまだ1ターン残っておる……黄金都市に行けば魅了効果は復活するはずじゃ。次の最終ターンでリースちゃんをどうにかせい!いやゴールしとるからダメか……」
「どうにかせいとか言われても……ってかダメなのか?」
ボニアスも混乱しているようだ。
サナーが駆け寄って来て
「ナラン!もうこうなったらお前も次のターンに自分をささげろ!」
「……何言ってんだよ……」
サナーは真剣な表情で
「ボニアス!リースは今まで有り余るマイナススキルでゲームをエロい方向にぶっ壊してきたんだよな?」
ボニアスは気付いた表情で
「そ、そうか……黄金都市に一人で送り込まれたリースちゃんは、ゴール地点を盛大にエロく壊している可能性があるな……」
サナーはボニアスに
「ボニアス、見てこい。このボードゲームの管理をしてるんだろ?」
「そ、そうじゃな……」
ボニアスは俺たちの目の前から消えた。
ミヤをあやす以外もはや何も興味がなさそうなアンジェラ以外、全員がどんよりした雰囲気で一言も喋らずにボニアスを待っていると、俺の目の前に物知り性犯罪者が呆然とした表情で現れて
「ナラン……もう大丈夫じゃ……もはやアンリミテッドボードは壊れた……」
「大丈夫なのか、大丈夫じゃねえのかはっきりしろよ!」
つい突っ込んでしまうと係員の声が
「ゴールしたプレイヤーが出たので 、他プレイヤーはこれが最終ターンになりました。ナランさん、冥府イベントを再度実行してください」
ボニアスは決心した表情で
「ナラン!サナーちゃんを信じるわしを信じろ!自分を捧げるのじゃ!」
「もはやジジイが何言ってるか意味分かんねえけど!こうなったら捧げてやるわ!」
勢いで自分を捧げてしまうと、次の瞬間には、俺とサナーとミヤは黄金の光に包まれ、意識が薄れていった。
……
雲が高速で流れていく青空の下、全て光り輝く黄金でできたどこまでも続く廃墟群に、何も着ていない手足の長い男女が大量に歩いたり、座って楽しげに話したりしている。
「……なにこれ」
「ナラン、これはエロい……のか?」
「ばぶば……」
サナーが抱えているミヤも唖然としているようだ。遠くから見たことあるショートパンツとシャツ姿の姉妹が走って来て、2人がハーピー姉妹だと分かると
「おーい!ナランくーん」
青髪の方が楽しげに俺に近寄り
「何かさ!亜空間であるミシュデアとこのアンリミテッドボードが直接通じちゃって!皆出てきたの!本来は次元転換装置を使わないと来られないのに!」
赤い髪の方が真剣な眼差しで
「ナランさん、リースさんのマイナススキルの影響でテストプレイ用のボツデータだったラスボス、ゼンシンヨロイアタマドリルメンが黄金都市の奥に出現してしまっているので倒して貰えませんか?」
「……よ、よくわかりませんが……やりましょう!」
俺はミヤを抱えたサナーと共に、騒がしい黄金の廃墟の中を駆け抜けていく。
黄金の廃虚の奥には、オレンジ色の海が何処までも広がっていた。遠巻きに見物している人々も多い。砂浜を通り過ぎて波打ち際まで行くと、姉妹は俺に
「海に唾を吐いてください」
言われた通り吐くと、オレンジ色の海から巨大なリースの顔が出てきた。全体的に色を塗り忘れたように白黒で、額からは回転する巨大な角の様なものを生やしていて、人間サイズの様々な鎧が巨大な顔中に鱗の様に貼り付いている。
巨大リースの頭は口を開くと
「よくぞここまで来ました……」
砂浜に響き渡る声で語りかけてくる。
「神である私が創った世界に必死に抗う姿……とても滑稽で、面白かった」
つい俺が赤い髪の方に
「リースは何言ってるんですかね?」
「多分、そういうセリフを言う自動設定になってたんですけど、リースさんが混ざり込んでしまってて……」
更に巨大なリースは
「神である私が暇つぶしで創ったゲームで足掻く虫けらの様な人間達を見るのは楽しかったです……さあ、ゴミの様な貴様らに最期の審判を下しましょう」
俺はよくこんな偉そうなこと言えるな……と呆れていたが、隣のサナーが顔を真っ赤にして巨大リースを指差し
「おいリース!私達人間を舐めるな!お前は王族だから上級国民として自分が神と勘違いできたかもしれないが!」
「ばぶば!ぶぶばぶ!ばぶー!」
サナーに抱えられているミヤも何か猛烈に怒っている。
「皆、血反吐をはきながら生きてるんだ!今のお前が一番醜いぞ!人間を舐めるんじゃない!」
「ばぶばー!あばばば!ばぶ!」
「……」
なんだコイツラ……煽りに乗って怒りすぎだろ……と若干引いていると、姉妹が声を合わせて
「最終ボスとの戦闘開始!ナランさんのターンです!」
「あの……」
赤い髪の方が真面目な表情で
「ゲームマスターがバグへの対応でちょっと忙しいので、代理でやらせてもらってます。リースさんは倒せば解放されるはずです。気にせず戦ってください」
「そうですか……よろしくお願いします」
一応感謝しつつ、俺は七色に輝く剣を抜く。ここまで来たら信じるしかない。
このゲームとりあえず、剣振れば勝手に相手が当たっていたよな……。俺は剣を横に一閃すると、虹色の衝撃波がリースに向かって飛んでいき頬の当たりに当たるがダメージは入っていないようだ。怒りで顔を真っ赤にしたサナーが
「リース!人間の怒りを舐めるな!行くぞミヤ!」
「ばぶば!ばぶー!」
サナーはいきなりミヤを上へと放り投げると
「ばぶ!?ゔぁぶぶぶー!」
悲鳴を上げたミヤを気にせず、ブリザードソードを横向きに両手持ちして、全身を青く光り輝かせながら
「超連携!アイス!ナイカッツオ!クイックオーバーミヤドライブ!」
まるでバットの様に横にブリザードソードをフルスイングして落下してきたミヤをリースの頭目がけ、全力で打ち込んだ。ミヤは青い閃光と化して轟音を上げながら飛んでいく。
「ガンッ!キンッ!」
という音がしてリースの顔に当たったミヤは跳ね返り、そのままオレンジの海へと小さな水しぶきを上げて沈んで行った。サナーは額の冷や汗をぬぐうとニカッと笑って
「……尊い犠牲に乾杯……」
「乾杯するグラスもねえだろ……それよりもおい……ミヤ沈んでいったぞ」
助けないと……と思った瞬間にはリースの巨大顔の横に、同じようなミヤの巨大顔が出現していた。頭の角もグルグル回っている。
これは状況が悪化してないですかねえ……と呆然としていると、リースの頭の巨大回転角がスポッと外れてこちらへと飛んできたが、当然の如く当たらなかった。更にミヤの頭の角も外れてサナーに飛んできたが当たることはなかった。姉妹が声を揃えて
「2ターン目です!」
そして青い方がサナーの背中のチェンソーを チラチラ見ている。……あれを使えということか……!?剣を鞘に収めた俺はサナーに近寄ると、チェンソーを一本貰って、カジノで教えて貰った起動方法を試すとあっさり刃が激しく回転し始めた。
ヴイイイイイ!と激しい音を出して周り始めたチェンソーをサナーに返し、背中のチェンソーをもらって1本ずつ起動させて行く。チェンソーを2本それぞれの手に持ったサナーと、1本のチェンソーを抱えた俺は、同時に遠くのリースとミヤに向け、チェンソーを振り下ろした。
リースとミヤの巨大顔は嘘みたいに真っ二つに裂けていく。俺たちの手元のチェンソーも消滅した。
「……」
サナーと並んで呆然としていると、姉妹が声を合わせ
「ナランさん、最終ボスを撃破!ゴールです!」
「やったな!ナラン!」
サナーが感動した表情で抱きついてくるが、いや、これ、なんも解決してないよな……むしろリースとミヤが……と思った所でリブラーの声が頭に響く。
ナランさん、お疲れ様でした。防御機構の破壊に成功したのでアンリミテッドボードへのクラッキングを達成しました。サナーさんを媒介にして、アンリミテッドボードとモノラースの接続完了。新規下位機能としてのテスト開始します。
ナランさんの安全のために ”幸運の使者” のみ残し、他スキルを削除、ミシュデアの移送のために高コストマイナススキル ”亜空間の創設者” を付けます。スキル枠超過のため、2秒後に意識が落ちます。
おいリブラー!と言うまでもなく、周囲の景色が真っ暗になっていった。




