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冴えない俺が、何でも教えてくれる魔法を手に入れたけど……  作者: 弐屋 丑二
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デバッグルート

 係員の声が

「ナランさんのターンです。魔王を倒し、新たな魔王になったので、他プレイヤー全員に5ターン魅了の効果が発生します。ナランさんは5ターンの間、他プレイヤーを操ることができます」

アンジェラから事前に聞いていたので、俺は迷うことなく彼女から空蝉の羽根を受け取り

「アンジェラさんと共にアン王女の居るマスへ行く」

と言うと、辺りの景色が歪んで薄れていった。



 ……



 気付くと、俺とアンジェラは、崩れた高い天井から砂が絶え間なく落ちているセピア色の遺跡の回廊に立っていた。回廊から左に見える庭園では、スケルトン達が枯れた木々の世話をしていて、骨だけの魚が所々泳いでいる。目の前には座り込んだアン王女が恨めしげに俺たちを見つめていた。


 アンジェラはにこやかにアン王女に近寄ると

「ナラン君、王女にミリオンボードを使わせて」

アン王女は慌てて立ち上がり

「いやっ!もう少しなの!もう少しで私は一族初のクリア者になる!そうすれば……出来損ないの私も……皆に……」

アンジェラは微笑むと、アンの肩に手をかけ

「……ミリオンボードに呼ばれた私が、幼いあなたの人生をどれだけ助けたか覚えているでしょう?従いなさい」

「うう……アンジェラ様あ……私の愛しい悪魔様あ」

なんとアン王女は頬を染めてアンジェラに抱きついた。アンジェラはアン王女の頭を優しく撫でながら

「ナラン君のためにミリオンボードを使うの。ナラン君もアン王女に言って」

よくわかっていない俺が戸惑いながら

「アン王女、俺のためにミリオンボードを使ってください」

「はあい……」

アンジェラの身体から離れたアン王女は、トロンとした目で胸元から眼鏡を取り出し、顔にかけると、目の前の何もない空間を四角く区切った。


 なんとアン王女が区切った空間には文字が縦横に並んだ真っ白なボードが出現した。アン王女はボード北端にある「スタート」という文字に右手の人差し指を置くと

「ボードさん、ボードさん、ナランさんがゴールするためにはどうすればよろしいですか?」

アン王女の指が動き出し文字の中から「リ」「イ」「ス」と指さすと「エンド」の所に動いて止まった。アンジェラが大きく息を吐き

「どうやら、リースちゃんが大事らしいわ」

俺は頷くことしかできない。


 係員の声が

「リースさんのターンになりました。ナランさんは、リースさんを魅了しているので、一時的に同じマスに飛び、リースさんの状況を直接見ながら操ることができます。どうしますか?」

もちろん俺は

「いきます!」

アンジェラが苦笑いで

「リースちゃんの所持アイテムやレベルとか状況をできるだけ調べてね。こちらに戻ったら作戦を立てられるかも」

俺はその言葉を聞きながら、歪んでいく景色の中、頷いた。



……



 辺りは木々が囲んでいて、狭い道が上へと伸びている。山道の様だ。足元に体温を感じて恐る恐る下まで見ると、紐ビキニだけを着た裸足のリースが四つん這いで佇んでいる。慌ててしゃがみ

「リース?」

リースは半開きの口から涎を垂らしながら、光の無い両眼で俺を見つめると、次第に正気に戻った表情になっていき、俺だと理解した顔になった瞬間、驚いた表情で

「ナラン!!ナランー!」

泣きながら強く抱きついてきた。俺はリースの背中を撫でながら

「大丈夫。もう大丈夫だから」

リースはしばらく泣き続けた後

「こ、怖かった……ずっと……変なことさせられていて……どんどんエッチに……私……恥ずかしいことが気持ちよくなってて……」

「ごめん。外で待っていて貰うべきだった」

俺が強く抱きしめるとリースは首を横に振り

「……違うの。私もナランと同じように役に立ちたくて……」

「ありがとう。ごめんな」

しばらく2人で抱き合うと落ち着いたリースは、ここまで何があったか話し出した。


 リースは最初のターンで沼地に進むと襲いくるスライムの大群に服を溶かされ、そのまま沼地の中を沈んでいき、気付くと魔王城の玉座の前だったらしい。座っていたボニアスは驚いた顔で

「デバッグルートを通ってくる者が居るとは」

とリースに言うと、即座に服を渡した。更に次のターンで魔王に挑むか取引をするかの選択肢が出るが、リースはレベル1で勝てないので取引をして、魔王軍運営のカジノで数ターン働き、レベルを上げつつ報酬のカジノコインで装備を獲得すれば今後楽になると親切に教えてくれたらしい。


 次のターンにボニアスの言う通りにすると、カジノに飛ばされたが、変な格好をさせられモンスターレースに出場し続けることになった。数十回のエロコスプレレースに耐えていると、急に客席から居ないはずのサナーが嬉しそうに煽っている姿が見え、心が折れかけたが、俺とも目を合わすことでなんとか正気を保った。


 結局、一度もレースに勝てないばかりか着ていた服すら没収されまたボニアスの元に戻ると、即座に新たな服を渡され、ボニアスは申し訳なさそうに

「超強力なマイナススキルが正常なイベント進行の邪魔をしておる。ここはゲームオーバーになり、現実世界で待つのが得策ではないかね?宮殿内に居れば、アンリミテッドボード内に居るナランの混沌を包み込む聖母の効果範囲じゃよ」

ナランを知っていること明かして、更に親切な助言をくれたボニアスの言う通りにしたリースは魔王城タウンマップを逆走して、ハーピー姉妹に挑んで負けることにした。


 ボニアスから事情を聞いていたハーピー姉妹の全力の連携技で嵐が起き、空に舞い上がったリースは次のターンにはボロボロの服を着たまま青空を漂っていた。係員の声が

「申し訳ありません。想定外のシステム障害により、リースさんはデバッグルームと呼ばれる我々運営側のみ入れる空間に飛ばされました。こちら側のミスなので、補償としてレベル50への強化と、雷系魔導士のスキルを追加します。闘技場へと飛ばしますので、グリーンゴブリンを倒してターン終了してください」

そう言われた次の瞬間には、大きな闘技場に居て、目の前の痩せた小さなグリーンゴブリンと戦うこととなった。


 リースはグリーンゴブリンにあらゆる打撃やいつの間にか使えるようになった強力な雷魔法を駆使して攻撃を繰り返したが一度も当たることはなかった。数千ターンかけ少しずつ削られていき、最終的には着ているものを全て破られ青痣だらけで心も折れ、グリーンゴブリンの足元に跪いていた。


 次のターンからはグリーンゴブリンの奴隷として働かされ、屈辱的なリースホースの格好で様々な馬車を引くことになった。そして王と王妃の結婚式場に派遣された時、サナーが近づいてしゃがみ、あのセリフを言われた瞬間、目の前が弾けるような感覚があった。その後は毎ターン、恥ずかしいことをさせられるたびに気持ちよくなっていったこと以外、ほとんど記憶が無い。そして、気付くと山道でナランと出会っていた。


 俺はリースを抱きしめたまま話を聞き続け、呆然としていた。こ、ここまで酷いことってあるか……。ど、どうしたらいい。そ、そうだ!リースの現在地を聞こう。ここの名称と共に俺が本来居るマスとの距離も分かるはずだ。

「リースの位置を知りたい」

すぐに係員の声が

「ナランさん達3人が居る砂の遺跡から、東に12マス横のルダン高原へと続くテハール山道です。アイテムの使用がないので、リースさんのサイコロをナランさんが振ることができます。2倍効果も自動で付いています」

俺が右手に現れた2個のサイコロを振ると、あっさり合計12が出て、俺はリースを抱きしめたまま山道を高速で歩き始めた。


 リースを両腕で抱きかかえると、涙ぐんだ満面の笑みで

「やっぱり、ナランが居ないとダメね」

「そんなことないよ。俺もリースが必要だし」

2人で見つめ合ったまま、自動で歩き続ける俺の脚に任せて進んでいく。山道を抜けると、悪辣な表情の巨大な女性天使や、大きく筋骨隆々としたリザードマン達ががそこら中にうろついている起伏の険しい高原を何事もなく通り過ぎていった。……これって山道をリースが四つん這いで登りきった後は、この高原でモンスターに襲われるってことだよな……危なかった……。そう思いながら、所々人間の骸骨が散乱している険しい高原を抜けていく。


 高原を抜けると、洞窟の横路を通り過ぎ、寒村を抜けて、また洞窟の横の獣道を抜け、雪原へと入ると雪を踏みしめて進み、また寒村を抜けて、そして雪原の遥か西に渦巻く黒雲の下に聳え立つ氷の巨大城を横目に進み、凝った大河の上を滑っていき、また雪原を踏みしめて進むと次第に雪が減っていき、荒野を進んでいくことになり、そして砂漠に入り込みグルグルと流砂に呑まれたりしながら砂を踏みしめていると、いつの間にか、渓谷の下に造られた巨大遺跡の前だった。


 ずっと抱え上げられていたリースが、潤んだ目で俺を見あげていて、湿った唇から

「ああん……無能リースをお……安全に連れてきたナラン様あ……ナラン様あ……しゅきいなのお」

微妙に汗ばんだ身体を擦りつけながら言ってきた。驚きながら

「あの……リース?」

リースは正気に戻った表情になると

「あ、あれ……ここは?」

多分俺やアンジェラやアン王女が居る遺跡マスにたどり着いたと言うと、安堵の表情で

「良かった。ここで次のターンを待つのね?」

「いや、多分ここからはリースが遺跡を冒険する感じで、でも俺が居るから大丈夫……」

そう言っていると景色が薄れだし、次の瞬間にはアンジェラ達の元に戻っていて呆然とする。抱きかかえていたリースは居なかった。

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