ミシュデア
シリアスなボニアスの顔を見つめていると
「リースちゃんの現状を見よ」
自らが創り出した宙に映った映像に顔を向けた。そこには、確かにリースが映っていたが……。
「嘘だろ……」
リースは高いステージに1人立たされ、半透明な身体のラインがよく分かるローブ1枚だけで、つま先立ちで腰を横に妖しく揺らし、手を左右にブラブラさせる変な踊りをさせられていた。時折後ろを向いて尻を突き出したりもしている。汗だくで耳まで真っ赤だが、目はトロンとしていて、口は半開きだ。
ボニアスは大きくため息を吐いて、パチッと指を鳴らし映像を消すと
「今のイベントは元々は魔力を高めものじゃったが、リースちゃんのマイナススキルが強すぎて、羞恥!スケスケローブ女!変態ダンス披露ステージ!にイベント内容が書き換わってしもうた……」
「何だよ、それ」
ボニアスは真剣な表情で
「羞恥!スケスケローブ女!変態ダンス披露ステージ!と言うとろうが。あの子に性的なマイナススキルは無いはずじゃが……発現しかけておるぞ」
「まずいだろ……」
俺が焦り出すと、ボニアスは目を細め
「……リブラーじゃったかな。お前に寄生している古代遺物がリースちゃんを使い、このアンリミテッドボードで何かしようとしているのではないか?」
「いや応答がないし、リブラーに影響なのか、サナーはこのボードゲームに来てるけど」
ボニアスは驚いた表情で
「おるのか?」
「うん。あと4ターン……このターン含めると5ターンとか出産イベントで動けないけどな」
「……ちょっと待っとけ。ゲームマスターに詳細なゲーム状況を問い合わせてくる」
そう言うとボニアスはその場から体ごと消えた。
それから、かなりの時間、俺は玉座の間で待つ羽目になった。目の前で消えたボニアスには驚いたし、リースもひたすらに心配だが、とにかく動けないので最終的には俺は魔王の玉座に座って寝入っていた。ボニアスの声が
「ナラン起きろ。ゲーム状況を把握したわ。お前みたいなセンスの無い人間のサポートをするのは癪に障るが……仕方ない」
驚いて起きると、玉座の隣に立ったボニアスが自らの胸を指し
「今から真剣な質問をする、これは魔王としてじゃ。お前は全力で悪い答えを考えて答えるのじゃ」
悪い答え……?起き抜けに言われても困る。ボニアスはニヤリと笑うと
「世界の半分をやるとわしが言ったらどう答える?」
……世界の半分?俺が大悪人なら……少なくねって思う気がする。よし……こうだ。
「どケチ魔王」
ボニアスは嬉しそうに頷き
「世界の全ての恨みを魔王であるわしが背負い、勇者から倒されることでこの世界を浄化するつもりだという悲壮な目的を知ったら?」
……言っていることが複雑すぎて分からない上に、すげー押し付けがましい気がする。
「そもそも悪さすんな。クソ捻くれ魔王」
ボニアスは拍手をすると
「無こそあるべき世界、わしは魔王として全ての生を否定する」
うーむ……これは難しいと思う。そもそも生きることの意味とは……いや少なくともリースともっと愛し合いたいし一緒に居たいよな……サナーだったら無こそあるべき世界とか聞いたら爆笑するだろうし……よしサナーの気持ちで
「生の喜びを知れ!色々遊ぶと楽しいぞ!悩みすぎだろ!人生なんてそんな大したもんじゃねえぞ!ダメ魔王」
ボニアスは堪えきれず爆笑しだすと
「……まあ、サナーちゃんの人格模写じゃが良かろう」
そう言ってから真顔で
「……最終質問じゃ。この世界に魔王としてのわしは寄生しとる。エネルギーが乏しく、もはや1人では生きていけぬからじゃ。そして定期的にわしは世界を滅ぼす。なぜなら、この世界のエネルギーは美味いので他の寄生魔王達もエネルギーを吸いに来とる。他のやつらが邪魔なので滅ぼす。お前はどうする?」
な、何かとても大切なことを言われている気がするが……深い意味は考えても仕方ないので
「止める。世界が滅びたら、俺もみんなも死んじゃうだろ?」
ボニアスは満足げに
「よろしい。その自らと周りしか考えないエゴイズムこそ人間である。ナランよ、よく覚えておけ」
ボニアスはグッと顔を近づけ
「な、何だよ」
「……広い視点を持ち、できるだけ多くの他者や、世界全体を考えることが、お前個人の幸福や生存に繋がる」
難しいことを言われているので黙っているとボニアスは更に
「個人的な利益や快楽は大事ではあるが、そこにばかり目を向けてはダメじゃ。陰謀や嘘を見抜き、真に必要なものは何か、考えろ。良いな?」
圧が凄いので、つい
「押し付けがましいぞ。物知り性犯罪者」
言ってしまうとボニアスはまた爆笑して
「よろしい。倫理観テストは終わりじゃ。Bマイナスといったところじゃな。転送してくれ」
係員の声が
「ナランさんのターン終了です。次のターンまでの間、ボニアスさんとミシュデアへと転送します」
俺の意識は急激に薄れていく。
……
目を覚ますと真っ白な壁と天井を持つ部屋の青いソファに座っていた。本棚や大きな四角く薄い金属が壁に並んでいる。大きな窓からは青空が見えていて、磨りガラスの扉で外へと出られそうだ。
「……」
立ち上がろうとすると、扉が開き、手足の長い何も着ていない青い髪をツインテールにした痩せた女性が入ってきて
「あれ……?さっきの冒険者さんだ」
少し前に見たハーピーそっくりな顔の青い目で見つめてくる。固まっていると女性は俺の横に全く恥ずかしげもなくスッと座り、俺の頬や肩を触りまくりながら
「あれー……実体がある。バグじゃない」
続けて扉から、体型が似ている赤髪碧眼のポニーテールの何も着ていない女性も入ってきて、俺を見ると驚いた表情になり
「……ちょっと、あの……お尋ねしますけど」
慌ててこちらに近づくと、近くにしゃがみ込んだ。俺は薄い胸を見ないようにしながら
「はい……」
「服を着るべきですよね?」
「そうだと……思います」
赤髪の女性が青髪の女性の肩を叩くと次の瞬間には2人とも白いショートパンツと白いシャツ姿になっていた。青い方が不機嫌な表情で
「姉さん、家で服着るとか窮屈なんだけど」
即座に脱ごうとするのを赤髪の女性が肩を触って止めると
「地上の人は、物質的な身体を大事にするの。壊れたらそこまでだからね。無限に修理できる半仮想世界のこことは違う」
「なるほどー。やっぱり感じる?」
青い方が俺の頬を両側から触ってきて
「か、感じますけど……どこですかここ」
あと、この人たち誰だよ!ボニアスも居ないし……魔王城もどこいったんだよ……。混乱し始めていると、青髪の逆隣に静かに座った赤髪の女性が真面目な表情で
「ここは、我々エシュリキアコーライの住む世界であるミシュデアです」
と言ってきた。




