保守管理業務
しばらく立ち尽くす。何だったんだあのモンスター……やたら強かったし……。係員の声が
「双子のハーピー四天王を倒したのでターン終了です。かかった戦闘ターン3。赤き空の四天王を倒した者、代理四天王を倒した者の称号を獲得。お待ちください」
また称号か……というか二つ目の称号いい加減だな……まあ、良いか。ようやく周囲を見渡せる余裕ができたので見回すと、真っ白な空間で遠くに何か色々と落ちているのを発見した。
近づいていくと、薄い本……雑誌かこれ……書いている文字は読めない。他にも皿に入った食べかけの焼菓子、アンジェラが持っていたものに似ているちょうど手のひらに収まる程度の金属の塊が二つ、座れるくらいの柔らかいボール、そして分厚い解説書の様なものが落ちていた。とりあえず雑誌を手に取り開いてみる。どうやら女性のファッション誌らしく、見たことのないファッションの薄着や厚着の美人達が微笑みながらポーズを決めている。絵ではない、全て写真だ。しかしよく考えてみればこれは、ハーピー達が散らかした後だよな……あいつらハーピーだったのに人間の雑誌読んでたのか?
「……」
しばらく謎の雑誌を読んでいると係員の声で
「ナランさんのターンですが、四天王を3人倒したので強制的に最後の1人の場所へ飛びます」
俺が何か応える間もなく、身体を紫色の光が包み込んだ。
……
目を開けると手元には雑誌は無く、重装備に戻っていた。山のように聳え立つ漆黒の城塞が数百メートル先に見える。周囲はまるで鮮血が染み込んだような色の荒野で、所々さっき見たような崩れた見張り塔が建っている。稲光が轟音と共に数十メートル先に落ちると、いつの間にか現れた、細身で金髪を七三分けした黒いコートとブーツ姿の男がゆっくりと近づいてくる。
男は俺の数十メートル手前で立ち止まると黒い目がギラついている鋭い顔を俺に向け
「……素晴らしい。レベル99でフル装備か……ここまで鍛え上げられた冒険者は初めて見た……だが」
男は数秒溜めると
「……リースは渡せないなあ……」
顎を上げて舌なめずりしながら言ってくる。俺は驚くより早く
「リースを捕らえているのか!?」
男はニヒルに笑い
「この、レットメタルホーク……奇面カイザー2号である俺を倒すことができたら教えてやる!変身!」
ピカーッ!と全身を赤く発光させると、師匠そっくりな、しかし全身が真っ赤なスーツと真っ赤な鷹のような金属頭の怪人に変身した。
つい見惚れてしまった俺が
「かっこいい……すげえ……かっこいい」
と言ってしまうと怪人は誇らしげに胸を張り
「冒険者よ!お前はヒーローたる必殺技を使えるはずだ!私に使ってこい!」
すげえかっこいい怪人からそう言われては使うしかないので、俺は黙って腰を落とし、必殺技を使いたいと強く念じた。すると全身が青く光り出す。同時に怪人の全身も赤く光だし、同じように腰を落としてきた。どこかから熱くなるような音楽が流れ出し、意欲が満ちあふれた俺が拳を怪人に突き出しながら
「アイス!ナイカッツオ!」
と叫ぶと、何と怪人も
「フェニックス!ビルカンテオ!」
全く同じ赤い光に包まれた一撃を俺の拳に向け放ってきた。
俺と怪人の拳の光がぶつかり合って激しくハレーションとスパークを繰り返しながら押し合いだした。早くも弾き飛ばされそうだ。しかし!リースを……リースを取り戻すためには!ここで絶対に退くわけにはいかない!強い気持ちで怪人と拳を突き合わせていると、怪人が
「……切なさより、過ちより、生きる意味より、大切なことがこの世界にはある」
何か凄まじくかっこいい事を言ってくる。
「ある時わかることになる。いつか気づくことがある。私は待っているぞ、若者よ」
そう言い切ると、俺の必殺技の青い光に押し切られて消えていった。
凄い……かっこよかった……去り際の謎セリフも全然意味わからんけど、とにかく超かっこよかった……人生で一番かっこいい決闘に勝ってしまった。ちょっと待てよ……。
「リースは?」
いや倒したらリースのことを教えてくれるって……絶望してしゃがみ込んでいると空からヒラヒラと紙切れが舞い降りてきたので手に取り読むと
リースのことは魔王城の玉座の間に行けば分かる。行け!真のヒーロー、ナランよ!
胸が熱くなるような激しい文字でそう書かれていて、即座に遠くに見えている魔王城に向かおうとすると係員の声が
「レッドメタルホークを倒したのでナランさんのターン終了です。かかった戦闘ターン2。悪に堕ちた四天王を倒した者の称号獲得しました。お待ちください」
響いてきて、これ……ボードゲームだったな……と思い出し、少し冷静になるが、紙切れは大事に畳んで懐に入れておく。
待っていると割と早くターンが開始され、サイコロを振ると合計で2が出て、遠くの魔王城へと向け俺の足は自動で進んでいく。魔王城の巨大で禍々しい城門前まではたどり着くと、自動で門が左右に開いていき、緊張しながら中へと入って行く。
魔王城の中はとてつもなく綺麗だった。黒い壁や床は隈無く磨かれて、禍々しいシャンデリアのかかった天井も光り輝いている。皺一つない真紅の絨毯が真っ直ぐ階段へと伸びているので行先は迷いそうもない。慎重に階段を登ると、また長い階段があり、それを登り切るとまた階段があった。
ようやく階段が途切れると、今度は長い通路を歩かされる。左右の壁にはおぞましい絵画が等間隔で飾られていて……今さら思い出すのもアレだが、ヒト達の世界で数日暮らした魔王城と比べるともうちょっとシンプルな作りだ。それほど怖がらせようとしていない。通路を歩き切ると、苦しんでいる人々の顔が無数に浮き出ている金属扉が音もなく左右に開いた。
遠くの高い玉座には、漆黒のローブを纏い、つばの広い魔導士が好むような漆黒のとんがり帽子を目深に被った小柄な……恐らくは老人が座っていた。あれが魔王か……紫色の絨毯をまっすぐ進み、ゆっくりと近づいていく。
玉座の下まで近づくと、魔王は大きくため息を吐いた。そして
「ナラン、正直、リースちゃんはこのゲームに向いておらん」
「ボニアス!?」
よく知っている地元の物知り性犯罪者がとんがり帽子を上げ、憂うつな眼鏡顔を見せてくる。
「さんを付けろ。年上には敬意を払え」
「じいさん何で居るんだよ!?」
ボニアスは面倒そうに顔を歪めると
「保守管理業務の手伝いじゃよ。この世界の住人達はかなり呑気でなあ。自分達の住居の亜空間を維持するためのエネルギー吸引装置であるアンリミテッドボードをいい加減に使っておる。なので時折、修理と調整をしておるのだ」
「いや何言ってるか全然分かんねーよ!」
ジジイ本気で何者なんだ。俺が幻でも見ているのか?いやそれよりリースだろ!この物知り性犯罪者に捕らえられていたとか冗談じゃねえぞ!リースホースもリースバニーもどうせこいつの変態趣味だろ!絶対に許さん!
俺がボニアスを睨みつけると、彼はダルそうに両手を横に広げ
「リースちゃんはお前一筋じゃし、あの手の真っ直ぐな子に手を出すほど愚かではない」
「サナーには出してたじゃねえか!!」
指を差しながら反論するとボニアスは余裕の笑みを浮かべ
「あんないい女はおらんと言っておろう。サナーちゃんと一緒に居ると楽しくなる。だが、お前以外の男がリースちゃんと居て楽しいかね?」
「……確かに」
ボニアスの屁理屈に速攻でねじ伏せられてしまって黙ってしまう。ボニアスは玉座の間から立ち上がり宙を浮きながら、俺の隣まで降りてくると、宙を指で四角く区切り、その中に何処かの景色がぼんやりと見え始めた。
「ナラン、お前には二つの方法がある。魔王役のわしを倒し、リースちゃんを一時的に救うか」
ボニアスは俺の肩を叩くと
「ゴールをして、アンリミテッドボードそのものを救うかじゃ」
意味不明なことを言ってきた。




