第4話:抱える痛み②
集中して。
魔力を流して。
場所を変えて。
手のひらを当てて。
また魔力を流す。
解呪の施術、って意外と単純作業の繰り返しなのよね。
「終わったか」
「は、はい……あの、今日のところは」
肩でぜいぜい、息をつくわたし。
相変わらず何一つ表情を変えない陛下。
陛下の肌にも汗が滴って、わたしも汗だくで、ベッドで向かい合って座っていて。陛下は上半身裸で(まぁ呪いの呪詛塗れではあるから別にぜんぜんいやらしさはない……)、わたしはスッケスケナイトドレス姿で(さすがに暑くてガウンは途中で脱いだ)、まぁ夜の1ラウンドを終えたように見えなくもない。
「……あの、えっと。陛下?」
「なんだ」
「その、……大変申し上げにくいのですが……この呪い、すごく複雑で……。無理です」
「――そうか」
そう言って、陛下は急にわたしに顔を近づけた。
こ、怖い怖い怖い!
何?!
殺される……?
「……無理なら、仕方ないな。国へ帰れ。王国の白魔術師なら解呪できるかと思ったが。離縁だ」
「ちょ、ちょっと!!!」
確かにわたしが言葉足らずだったけど、そんな簡単に離縁とか言わないで!
「どうした」
「ち、違うんです!! 無理なのは、今日中ってことです!!」
なんかちょっとムッとした。
何だこの人!
さすがにこんなに簡単に離縁とか言わないで欲しい!
「確かに言葉足らずだったのはわたしですけど、人の結婚、そんな簡単に、国へ帰れだの、離縁だの、っておかしいですからね!? わたしだってそれなりの覚悟をしてここに嫁いできたんですから!!」
「…………」
「わたし、絶対に治します! 陛下の呪い、解きますから! 離縁するにしたって、陛下の呪い、解いてからですからね!!」
言っちゃった。
い、いいい言っちゃったよ!!
一息にまくしたててしまったわたしに、陛下は一瞬目を見開いてぽかんとしていた。
あああ言っちゃった……。
でも、後悔はないの。
魔力を通してみて――この呪いに耐えている陛下の姿を見て、わたしわかっちゃった。
エンジュ陛下って、ただの怖い人じゃないと思ったの。
魔力を通すってことは、その人の身体のうちがわ――内面に触れるっていうこと。
治癒を通して、伝わってきたんだ。
陛下の心が。
この人は、怖い人じゃない。
どこか心が、うちがわが、あたたかかったから。
そう一息にいって肩で息を吐くわたしを、陛下は相変わらず怜悧な表情で見つめている。
そして、口を開いた。
「……そうか。……すまなかった」
「!!??」
あ、あや、まった?
謝った!
フソウ帝国の”冷酷帝”が??
「い、いえ……」
エンジュ陛下の言葉に、あっけにとられながら、わたしはただ頷いた。
そしてその日から――わたしは毎晩、表向きは皇后として、裏では解呪師として、陛下の寝所に通うことになったのでした。