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後日譚③ 舞踏会なんて柄じゃない!③

 

 大成功で王国との舞踏会を終え、再び日常が戻ってきた。

 シュリちゃんは王国のどなたかと意気投合、仲良くなって文通をはじめるとか!

 うんうん、なんかいい感じ。嫁いできたかいがあったのかも、なんてちょっと嬉しくなる。


「姉さま姉さま! お返事がきたのよ! それでね、その内容が姉さまにも是非みていただきたいもので」


 シュリちゃんが嬉しそうに手紙を抱えてわたしの部屋まで走ってきてくれる。

 ううん、かわいい。目を細めて一緒にその手紙をながめて――わたしは、固まった。




 ■




「……ねぇ、エンジュ」


 其の日の夜。

 寝室でのわたしの声が妙に上ずっていたのは、たぶん動揺が隠せていなかったからだと思う。


「どうした」


 そっと寄り添ってベッドに寝転んでランプの明かりで本を読んでいるエンジュ。

 その仕草ひとつ取っても様になっていて、ふと胸がきゅうっとなる。ランプの光に照らされる鳶色の髪と空色の瞳がきらめいていて――うーんやっぱり格好いい――だけど。

 今はそれどころじゃなくて。


「その……ええと、あのね。この前の舞踏会でわたし、途中で転びそうになったでしょ? それでエンジュが抱きとめてくれて……ちょっとこう、情熱的なポーズになった……あれ」

「……ああ。俺の愛の力が発揮された瞬間だな」


 さらっとそんなふうに言われて、わたしは一気に顔が熱くなった。

 違う。そうだけど、ちがーう!

 エンジュはこういうことを真面目に言うから困るのだ。


「そ、そう。その愛の力の発揮された瞬間……」

「何かあったのか?」


 落ち着いた声。でもさすがの皇帝陛下もこれからいうことにはびっくりしてくださることでしょうよ!


「……その、シュリちゃんがね、仲良くなった王国の方と文通を始めたらしいんだけど」

「ほう」

「それで、手紙が来たみたいでね、喜んでて」

「ふむ」

「……最近、王国の舞踏会で“あのポーズ”が流行ってるんだって。『あのポーズを取り入れると、ダンスパートナーと結婚できる!』って。ふたりの信頼と情熱の証、とか言って……!模倣するカップルが後を絶たないらしいの!」


 ついでにあのポーズに「エンキラポーズ」という名前がついたことも伝える。

 エンジュとキーラ。あわせてエンキラ。

 うーん……さすがに恥ずかしい。



 しかしわたしの堂々たる皇帝陛下はこんなことでは動じなかった。


「当然だ」


 即答した。そしてやっぱり動じていない。


「えっ」

「俺たちの、いやキーラのあの華麗な舞踏だ。広まるのは自然なことだろう」

「まってまってまって! あれは……ただのアクシデントよ!? わたしが転びそうになって、それを助けてくれたから、たまたまああなっただけで……!」

「その“たまたま”が美しかったから、広まったんだ。キーラの美しさと優美さのなせる技、帝国だけにとどめておくには惜しいからな。よかったじゃないか」


 これを嫌味でも冗談でもなく言ってのけるから、エンジュはエンジュなのだ――と思い知らされる笑顔だった。

 すごく、いい笑顔。うーん格好いい……。


「うぅう……!」

「どうしたキーラ、体調でも悪いのか?」

「ちがーう!」


 わたしはごろりと寝返り枕に額を押しつける。


「わたしの……人生初の舞踏会の……あの失敗が……王国中に……それになんかこう、なんかいい感じで広まってる……」

「大成功だろう、あれは」


 エンジュはぐるんとちょっと強引にわたしの身体を自分の方へ向き直させると、わたしを見つめた。

 ランプ越しの透き通るエンジュの瞳に、わたしの顔が映る。


「……何より、あのときのキーラは本当に綺麗だった。愛しの我が妻だ」


 囁くような声で真顔でそんなことを言うから、わたしはもう口を真一文字に引き結ぶしかなかった。


 うーんこの! 本当にもう!


「もうっ、ほんとにそういうことサラッと言うのやめて……」


 顔が熱くて仕方がない。たぶん耳まで真っ赤になってる。


「そういうこと?」

「その、い、いとしの我が妻、とか」

「愛しいのは本当だろう」

「あとはその、優美とか、美しいとか」

「本当にことだ。キーラは世界で一番美しい。俺は事実を言っているだけだ」


 うわ、でた……エンジュの無自覚爆弾。

 それでも、彼の手がそっとわたしの頬に触れ、優しく撫でられると、胸の奥がほわっと温かくなって恥ずかしいより嬉しいの方が強くなる。


「……そんなに恥ずかしがることじゃない。王国の人たちも、俺たちが仲睦まじいと思ってくれているんだろう?」

「そ、それは……そうかもしれないけど……」

「また踊ってみせないといけなくなるかもな」

「ちょ、ちょっと、エンジュ!?」

「明日、練習するか?」


 くすりと笑った彼が、わたしの身体をしっかりと抱きこむ。


「~~~~っ! ……うぅ、もう、ほんとに……もう」


 どうしてわたしはこの人に、毎回こんなにも振り回されるんだろう。

 でも――エンジュの甘い言葉に弱いわたしは、今日も赤くなりながら幸せを受け止めている。


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