後日譚② お忍びデート①
「正気ですか?」
「正気だぞ」
「……うーん、正気じゃない人ほど、正気っていうんですよね……」
真顔のエンジュと、その前で腕を組むわたし。
エンジュがさらっと、かつとんでもないことを言い出したのは、自室でお茶を飲んでる午後のことだった。
皇帝と皇后。
意外といそがしいわたしたち。
でもこうして隙間の時間は一緒に過ごすようにしている。
なんてったって、新婚ですからね??
「外に出たい。城の外、できれば町へ」
いきなりの爆弾だった。
「町って……お散歩ですか? さすがに皇帝陛下が町をウロウロはちょっと……あっ、見回り的な?」
「いや。そうではない」
静かに、まっすぐに。
でもなぜかちょっと目を逸らしながら言われて、ぴんと来た。
「……それってつまり……」
「……」
「デートですか?」
「……俺の口からそう言わせるのか」
わたしが椅子からガタッと立ち上がったのに対して、エンジュは微妙に視線をそらして、わずかに耳が赤くなってる。
可愛い。
ガタイのいいエンジュが照れている姿が結構わたしは好きだ。ノロケその1。
鳶色の髪が風にさやかに揺れ、空色の透き通る瞳がどこか所在なげにうつむいている。
「エンジュがわたしをデートに誘ってる、ってことですか?」
「他になにがあるのか」
「ふふふ嬉しいです、確認しただけですよ。でもさすがに町中デートはまずいんじゃ」
「それは……もちろん考えてある。俺なりに」
こほん、と咳払いしてエンジュが口を開いた。
「君は、よく民の話をしてくれる。市井の暮らし、好きなもの、風景や味のこと」
「まぁわたしはよく町行ってますからね」
町に行く、というよりも慈善活動の一環なのだけど。
帝国では女性はあまり政治にかかわっちゃだめっぽいんだよね。
王国は宰相様女性だったし、女性の騎士様もたくさんいらっしゃったから、なんだかなぁ~なんて思ったけど、魔術がほぼ発達してないこの国は、純粋な武芸の力量がモノを言うのかもしれない。
体格的な意味でも、女性が武芸で男性に敵うってなかなか難しいもんねぇ――というのは置いておいて。
「……正直、俺はそれをあまり知らない。だが君が話すと、俺も見たくなる。君の好きなものを、この目で見たいのだ」
「うーんそれは嬉しいですけど……」
それは嬉しい。
正直嬉しい。
エンジュのこの素直なところもわたしの好きなところだ。ノロケその2。
「でも、どうやって行くの? だってふつうに歩いてたら、すぐバレちゃうよね? エンジュ大きいし外見特徴あるし……」
格好いいし、と心の中で付け加える。
「ふむ。やはり、そうか」
「わたしもちょっと髪色とかで目立っちゃうし……変装が必要かも」
「それも見越して、宰相のスオウに相談してある」
「相談してるんですか!?!?」
一番の難関と見ていた、あの神経質そうな赤髪赤目の宰相様の顔を思い浮かべていた私はびっくりした。
「王国経由で簡易変化の薬を、調達済みだ」
「えええ~~!?」
確かに、王国にはそういった魔術を使った薬がそこそこあるけれど。
「そこまで用意するなんて……エンジュ、デートしたいとか思うことあるんだ」
仕事の鬼かと思ってた。
そうつぶやいたわたしに、エンジュは心底心外という顔で見つめてくる。
「毎日思っているぞ」
「……はい」
「キーラのそばに居たいとは毎時間思っている」
「……あ、う、うんわかった……」
「だがそういうわけにもいかないだろう、俺にも仕事がある。しかしキーラへの愛は」
「も、もういい、大丈夫、大丈夫! わたしもそうだよ!」
真っ赤になって叫んで返す。
そんなこんなで、わたしたちの“極秘お忍びデート”は、実行へと動き出したのだった。
ちなみにそのあと、言葉を遮られたエンジュはちょっとだけ拗ねていた。
(続)




