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後日譚① これが初夜!?

 


「……あの、ちょっと、話を聞いてください……!!!!!」


 わたし――しっかりきっちり帝国皇后になりました、キーラ=ブランチェスカは顔を真っ赤にして必死に訴えていた。

 目の前には、あらあら、うふふふ、なお顔をした侍女さんたち。



「今まで、毎晩陛下のお部屋に通っていたのは、その、ええと、ちがうんです! その、そ、そういう、え、えっちな目的じゃなくて! 解呪の儀式で、こう、治療をしていただけなんです!」


 わたしの言葉にザワザワザワ。侍女さんたちが色めき立つ。


「えっ、じゃあじゃあ……皇后様……」

「陛下と皇后さまの、今夜が……ほんとのほんとの、初夜……!?」

「だから、そうだってさっきから言ってるじゃないですか!」



 なんで、こんな話を侍女さんたちに説明しなきゃならないんだろう……!?

 頭が、痛い…………。






 というのも。





「おめでとうございます、皇后様。今夜の準備ですが……初夜といいましても、ねぇ……?」

「皇后さまと陛下は、夜の相性もばっちりでいらっしゃいますものね~」

「ほら、ずっと毎晩通っておいででしたし……」


 とかなんとかニコニコしながら言われて、固まってしまったのが始まりだった。

 ばっちりとか、相性とか、違うんです。

 えっちなことなんて、これまで一度もしてないんです。


 だから今夜が、本当に「初夜」なんです!!!



 そう訴えた瞬間、侍女さんたちの目がギラリと光った。

 この光り方は、なんかまずいぞ。そう思ったけれど、肩と腕をがっしりホールド、掴まれてしまった。



「ということは――!」

「急いで! 湯の準備!」

「帝国秘伝の美容クリーム持ってきて! 特上の!」

「ランジェリー、いやナイトドレスは例の“特別な方”を……!」


「?! え、え、ええええ????!!!」



 そんなわけで。

 わたしは今、ふんわり甘い香りが立ちのぼるお風呂あがりでつやつやになった肌に、やわらかすぎる布――いや、これは布じゃない、ほぼ空気! みたいなスケスケドレスを着せられて。

 一応ガウンは羽織らせてもらって、ふらふらになりながら寝室へと向かっている。



 侍女さんたちの「わたしたちやり切ったわ!!」っていうあの顔が、まぶしかった。




 ■




「キーラ」 


 もう何度来ただろう、寝室の扉を開けたら、エンジュはいつものようにベッドに座っていた。わたしを見て、にこりとほほ笑む。

 見慣れた鳶色の短髪、淡い空色の瞳。軍服でも礼服でもなく、今夜は黒の軽い寝間着――なのに、逆に色気が増しているの、どうしてだろう?


 そして、この部屋――エンジュの寝室が、そのまま夫婦の部屋になった。

 これまでも何度も来たけれど、泊まるのは初めて。

 今日からは、“通う場所”じゃなくて、“二人の場所”なんだって思うと、心臓が変な跳ね方をする。


「……その格好は」

「見ないで!」

「もう見たぞ」

「それでも! そこをなんとか見なかったことに」

「もっと近くで見たい」

「え、ええ、えっと……」


 この皇帝様、直球だもんなぁ。まいっちゃうよ。

 逆らえなくて、わたしはすごすごと寝台に上がってやけくそでガウンを脱ぎ捨てた。


「侍女さんたちが、張り切ってくれました」

「そうか。……それで、今日のキーラはいいにおいがするのだな」

「えっ!? えええ!?」

「キーラはもともと、いいにおいがするが」

「ちょ、ちょっとまって」

「今夜はとくに、甘い香りがする」


 すっと大きな体から太い腕が伸びてきて――そのまま抱きしめられてしまう。


「エンジュ、ちょ、っとまっ」

「待てない。……今までだって、この距離で一緒に過ごしていただろう」

「そ、それは! 治療だから! 今夜は、ち、ちがうじゃないですか……」

「そうだな。違うな」


 相変わらずだ。なんでこの人、こんなに動じないんだろう。


「……なんでそんなに動じてないんですか」

「動じている」

「えっ」

「これ以上ないくらい、動じているが、キーラが美しいから……腕が勝手に動いた」


 どくん。

 確かに。わたしと密着してるエンジュの鼓動は、爆発しそうに激しい。

 まるで、わたしの身体に「好きだ」と直接告げているみたいに、強く、熱く。


「エンジュ……。ふふ……心臓で告白されてるみたい」


 そう言って笑うと、笑いが止まらなくなってしまう。

 せっかくロマンチックな恰好で、抱きしめてもらっているのに、台無しだ。

 くすくす笑ってしまうわたしに、抱きしめたままでじっとしているエンジュ。


「ご、ごめん……笑っちゃった」

「キーラの笑い声は可愛いな。ずっと聞いていたいから問題ないぞ」

「え?」

「キーラ……。愛している」


 ちょと、ま……ってくれなかった。

 そのまま、エンジュはわたしをそっと寝台に横たえて、唇を重ねる。


 優しい。唇だけ触れ合う、そっと重ねるだけのキスだ。

 笑ってたせいか、全然怖くない。

 緊張も、こわばりも、何もなくて――ただただ、甘いキスだった。


 これが、“愛してる”のキスなんだって、わかる。



「……エンジュ」


 そっと唇が離れて、見つめあって。


「これで終わりではない」

「――ですよね」

「覚悟はいいか?」

「陛下、戦場じゃないんですから」


 ふふ、っと笑ってしまう。エンジュの柔らかい笑い声もわたしの声に重なった。



「……その、あの、やさしくしてください」

「任せろ」

「えっ……その、あの」

「愛する人を、全力で大切にする自信ならあるからな」


 まっすぐな空色の澄み切った眼差し。

 誠実と優しさと、たまに見せる、不器用なところも。

 全てがいとおしい。


 ああ、もう、ほんとうに――

 エンジュが好きだと、心から思う。

 可愛くて、誠実で、優しくて、不器用な、大切な人。



「わたしもそれには、自信がありますよ」


 そう言ってわたしから今度は唇を寄せる。

 エンジュの手がわたしの銀の髪を梳く。わたしもエンジュの鳶色の髪に指を差し入れた。



 いつかの日と同じように、月だけがわたしたちを見ている。



 

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