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エピローグ:結婚式②

 

 ――花びらが舞う。人の声が、風の音が、祝福のように響いていた。


「すごい人数だな」

「え、エンジュもそう思う?」

「どうしたキーラ、青ざめているぞ。寒いのか?」

「き、緊張してるのよ……」



 思わず笑ってしまった。

 だって、見渡すかぎりの広場いっぱいに、帝国の人々がぎゅうぎゅうと――でも嬉しそうに並んでくれてる。


 空は晴れ。雲ひとつなく、気温もちょうどいい。

 大きな建物や豪奢な式場なんてないけれど、わたしとエンジュのために、帝都の広場は手作りの花飾りと色とりどりの布でいっぱいに彩られていた。


 そして、わたしのドレスは、どこまでもシンプル。

 だけど、胸元から流れる薄布に、前皇后さまがかつて使われたという繊細なヴェールを留めているのが、唯一の「豪奢」だった。


「……なんか、夢みたい」

「夢じゃない。現実だ。君が選んでくれた、君だけの式だ」


 隣に立つエンジュが、そっとわたしの手を取る。

 ぐっと熱が走った。


 もう、呪いもない。

 彼の手は、あたたかくて、頼もしくて――ちゃんと、わたしの手を握り返してくれる。




 ■



 結局、わたしの希望通りの地味な結婚式にならなかったのには訳がある。


 ことのおこりは、わたしが「豪華すぎる式は絶対にいやです!」と声高に主張した予算会議。

 家臣の皆さんは「まぁ皇后さまがそういうのなら……」という感じで、人前でやる式にはならない、はず、だった。そもそも大元締めである皇帝であるエンジュが「皇后が望むなら質素にすればいい」と言ってくれたのだけど――。


「大反対です」


 宰相のスオウさんは強かった。

 超真顔で出てきて、腕まで組まれて、鋭いあの赤い目を眇められたらもうこっちは蛇に睨まれた蛙だ。


「さすがに、陛下と皇后陛下がぺんぺん草の中で結婚式を挙げるというのは、帝国の威信にかかわります」

「ぺんぺん草は言い過ぎだよ、ひと気のない野原で挙げられたらいいなぁ、って言っただけです……!」

「一緒じゃないですか」

「でもでも、だって!」

「でもでもだって! ではありません、皇后陛下」

「スオウはキーラの物まねが上手いな」

「陛下。今はそこが主題ではありません」


 ……という押し問答の末、


「じゃあ国民と一緒にやる! 見に来てもらえば華やかになるよね? 布とお花は国庫じゃなくて募金形式とかどうですか? 貰った分だけってことで!」


 と提案したわたしの案が、どういうわけか満場一致で採用されて。

 こうして、いろんな人が、お花を持ってきてくれたり、飾り付けをしてくれたり、してできあがった結婚式はめちゃくちゃ豪華になってしまった。

 わたしとエンジュの結婚式は、ほんとうに、ほんとうにたくさんの「おめでとう」でできている。


「スオウと会議でやりあったんですって? キーラ、なかなかやるわね!」と後からシュリちゃんにお褒めの言葉(?)を貰ったことは内緒だ。




 ■



「……それでは、誓いの言葉を」


 広場に立てられた小さな壇上で、司祭さまの声が響く。


「皇帝エンジュ。あなたはこの者を、健やかなる時も、病める時も、富める時も、貧しき時も、愛し、支え、共に歩むことを誓いますか?」


 エンジュは、まっすぐわたしを見た。


「……誓います。この手と命をかけて、守ると誓う」


 声とその視線が、あまりにもまっすぐで――目が潤みそうになった。


「皇后キーラ。あなたはこの者と、健やかなる時も、病める時も、富める時も、貧しき時も、愛し、支え、共に歩むことを誓いますか?」


「……はいっ、誓います!」


 声大きかったかも……ちょっと張り切り過ぎたかな、と恥ずかしくなる。

 ちらりと隣を見ればエンジュが優しい笑顔で見つめていてくれた。


 言い終わった瞬間、ぱああっと拍手と歓声が上がって。


「キーラ」


 エンジュが、そっとわたしのヴェールを持ち上げた。


「……」


 少しだけ、目が潤んでた。

 わたしも、きっと同じ顔だったと思う。

 胸がいっぱいで、嬉しすぎて、ちょっと泣きそうで。


 色々あった。

 そして、――一緒に乗りこえた。

 最初は怖くて。よくわかんなくて。でも、ゆっくりとお互いを知っていって。

 わたしたちは惹かれあった。


 ――くちびるが、触れた。


 ほんの一瞬、でも、とても優しくて、ちゃんとあたたかい。

 たくさんのまなざしに祝福されながら、わたしたちの結婚式はおわった。



 そしてこれから――改めてわたしたちの夫婦としての日々が始まっていく。


 


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