表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/41

エピローグ:結婚式①

 

 その日の陽の光はどこか柔らかくて、わたしの頬をかすめるそよ風まで、なんだか甘い香りがする。


 エンジュ陛下――じゃなかった、ええと、最近は人前じゃないときは「エンジュ」って呼んでいいことになったので……エンジュは、珍しく忙しそうじゃなくって、わたしと庭を散歩をしていた。


「あたたかいな」

「そうですねぇ……昼寝したい」

「午後は公務だぞ」

「わかってますってぇ……でもちょっとだけ」


 そういって、ばふっと彼にもたれかかるとぽんぽん、と肩を叩かれる。

 そんな軽いやり取りができるようになったのは、たぶん――あの“告白”以来だ。

 もともと真面目すぎるくらい真面目な人だけど、最近はちゃんと、笑ってくれるようになった。

 それだけで、わたしは嬉しくて胸がぽかぽかする。


 帝国の中庭には動物たちもいて、モフモフしてるその姿は癒される。

 ふわふわしっぽのリス。もちろん鳥たちも集まっている。

 寒い帝国の気候にあわせてなのか、どこか動物たちもみんな身体が大きいなぁ……なんて思っていた、その時だった。

 エンジュがふいに立ち止まって、わたしの方をまっすぐ見て言った。


「キーラ」

「はい?」

「ずっと考えていたのだが」


 でたよ!

 エンジュの”ずっと考えていた”。


 エンジュは、もともとすごく熟考するタイプみたいで、公務の時はまぁ、たぶん色々頑張ってなんとか速度をあげているんだろうけれど、こうしてふたりきりで話しているときは、時々テンポがずれてとんでもないことを、とんでもない時に発言したりする。

 そして、それは今回も。


「なんですか?」

「ちゃんとした式を、挙げよう」

「……へ? 式?」


 一瞬、なに言われたのかわかんなくて、思考が真っ白になった。

 それくらい、さらっと言ったのだ。

 わたしが、木の幹の影から顔をのぞかせたリスを見て「わー、かわいい!」って騒いでたときに。


「……し、式って……あの、結婚式、ですか?」

「ほかに何がある」

「いや、ないですけど……えっ、えええっ!? だって、わたしもう“皇后”って肩書きあるじゃないですか!」

「だが、式はしていないだろう」

「してないですけど……。そもそも! 式がなかったのは、陛下のせいじゃないですか! それは!」

「だからだ」


 エンジュは、真面目な顔で、すうっと目を細めてわたしを見つめた。


「君を“政治のための皇后”ではなく、“人生の伴侶としての妻”に迎える式を行いたい」

「…………っ」


 言葉が、胸の奥にすとん、と落ちた。 

 ずるい。今さらになってそんなこと言うなんて。


「……でも、いいんですか? わたし、家柄とか、そういうの全然ですし、式なんて、むしろ必要ないっていうか、ほら、もったいないですし……」

「俺は君が欲しい。君と共に人生を歩むと、きちんと誓いたい。そして、君が皇后としてではなく、“一人の女性として”祝福される日があってもいいと思った」


 エンジュの手が、わたしの指に触れて、そっと握られる。


「国民からも、キーラ様を祝福したいと――式を望む声が多く寄せられているとスオウからの報告もあってな」

「えっ、ほ、ホントですか?」

「嘘をついてどうする」

「…………っ」


 その言葉だけで、涙腺が破壊されそうになった。

 やめてください、陛下、こういうの泣きますから!!



「キーラがのぞまぬのなら、やめておくが」


 しゅんと下がり眉になるエンジュ。

 わたしの前でしか見せないその表情に胸がキュンとなる。


「わたしも……式、挙げたいです。ちゃんと、みんなに祝ってもらえるやつ」

「そうか」

「で、でも……あんまり予算は裂かないでほしいです。帝国の皆のお金だから」

「そうだな」

「でもケーキは食べたいです」

「……そういうと思った」

「え?」


 くすっと笑って、エンジュはわたしの額に唇を落とした。


「……君が笑ってくれるなら、どんな式でもいい。だが――君に一番似合う日を、用意しよう」



(続)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ