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第22話:未来は光の中に

 

 苦しさが、遠のいていく。

 光に包まれて、次に目を開けたとき、わたしは――


「……っ、はぁっ、は……!」


 大きく息を吸い込んで、現実に戻っていた。

 空気が、温かい。


 あの豪奢なお兄さんたちの部屋。

 あの煌びやかだった部屋が、見るも無残な姿になっていた。

 板間が剥がれて飛び散った木の床、家具という家具はめちゃくちゃに壊れたり倒れたり。そして崩れかけている壁、そして――


「……キーラ!」


 わたしの身体を、ぐいと抱きとめる力強い腕。

 ――エンジュ陛下だった。


「陛下……」


 かすれた声でそう呟くと、彼は眉間にしわを寄せて、怒ったような、苦しそうな顔でわたしを見つめた。


「お前の声がして、その、おもいっきり壊せと――」

「はい」

「槍で、壊した。……これで、よかったのか?」

「はい!!!」


 目の前に転がる壊れた匣――もう、匣ですらないそれ。

 取り込まれるところだった、今更ながら、ゾッとする。


 陛下が槍を振るえるまでに回復していて、わたしの声が聞こえるほどまでには心がつながっていたからこその、この結果。

 人生は、なにがどうなるかわからない。

 ただあの毎晩の治癒は、重ねた日々は、けっして無駄じゃなかったのだ。


「キーラ……体が、震えている。医者を」

「平気です、だい、大丈夫、です……」


 わたしはふるふると首を振った。

 頬に触れる手が熱い。今更ながらドッとあれこれが押し寄せてきた。


「陛下。わたし、匣の中で……見たんです。お兄様たちの想い……。怒りも、嫉妬も、憎しみも、たしかにそこにありました。でも……その奥にあったのは、寂しさでした」

「寂しさ……?」

「陛下が後継者に選ばれたこと、そしてシュリちゃんや皆に慕われていること。それが本当は羨ましくて仕方なかったんでしょう。自分たちの価値を、自分で見失ってしまっていた……そして暴走してしまった。そんな……呪い、でした」


 わたしの言葉を、陛下はただ静かに聞いていた。

 強くて、まっすぐで、でも本当は優しくて――誰よりも、ひとの心の痛みに敏い人だ。

 

 原因なんて、言わない方がよかったかもしれない。

 でもきっと陛下の気持ちが宙ぶらりんになってしまうし、薄々と悪意を感じながら曖昧になってしまうのは、余計によくないと思ったから。


「ありがとう、キーラ」


 低く囁かれたその声に、わたしははっとして顔を上げる。エンジュ陛下は、わたしを見つめてかすかに笑っていた。


「それでも俺は、兄たちを廃した選択を後悔してはいない」

「ええ。わたしも……陛下が、そうしてくださってよかったと思います」


 わたしは頷いて、そっと陛下の手を取った。

 長くて、しなやかで、強い手だ。

 槍を握るこの手が、今はわたしを守るように包んでくれている。


「呪いは……もう、完全に消えたと思います。媒介が失われた呪いは作用しませんから」


 エンジュ陛下の瞳が、わずかに揺れた。

 暗くて冷たかった空色が、少しだけ、静かな波紋を描くようにやわらいでいく。


「……ありがとう。お前がいてくれて……本当に、良かった」

「いえ……陛下。陛下も助けてくださってありがとうございました」


 明るく笑ってみせると、エンジュ様は少し照れたように目を伏せて、すぐにまたわたしを見つめ直した。


「……これでようやく、国のために全力を尽くせる」

「はい」

「キーラの、おかげだ」


 わたしは両手で、彼の手をぎゅっと握った。

 やっと、強くて優しい皇帝陛下が、この国に帰ってくる。


 エンジュ陛下の瞳が、まっすぐにわたしを映していた。

 呪いに覆われていた部屋の空気が、いや、帝国の空気そのものが――ゆっくりと、けれど確実に、清らかに晴れていくのがわかる。



 今日からの帝都は、きっと明るいだろう。

 陛下の未来は、もう、光の中にある。



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