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Prologue : 空の光

 

 ––––かつて宇宙には、地球という星が存在した。


 豊富な天然資源にあふれ、多種多様な生命が芽吹く類い稀な環境を持つ惑星。

 そんな地球はいつしか、宙の向こうへ旅立っていった側と母星に残った側に別れ、その箱庭はある日現れた宇宙怪獣によって壊滅させられたという。


 その実物と考えられている星の残骸からは、諸輩もよく知るだろう乳育人種の一部の祖先であると思われる遺伝子情報が発見されている。


 ––––「死滅星の生前環境 : アールケイニオ・ブリッツバーグ著」––––




 〜〜〜〜〜




 ––––オードロス宙域・大規模民間用惑星型コロニー「シプレル」


 惑星を模して建造された巨大な鉄の住居星。

 民間人だけでも実に7億人の生活を可能とするそのコロニーの一角、宇宙船の入出港のための地区の上部待機所にある親子がいた。


「ねえ母さん。父さんはまだ来ないの?」

「もう少しだと思うわ。予定よりちょっと船が遅れてるのかもしれないわね」


 そこには5、6歳程と思われる小さな男児と未だ強く若さの残る母親の二人がいた。

 周囲には外から家族の到来を待つその親子と似たような様子の人間が大勢おり、大小様々な船が港を行き来する中で、また大勢の人間が見渡す限りの場所で出会いと別れを繰り返す光景が広がっている。


「それよりマクス、今のうちに渡しておきたいものがあるの。受け取ってくれるかしら?」

「え? なになに?」


 なんにでも興味を示す年頃らしい息子の様子に微笑みかけながら、母親は首元に掛けていたネックレスらしきものを外して息子へと手渡した。


「これって、ずっと母さんが付けてたネックレスだよね? 僕が持ってていいの?」

「ん……そうね。父さんと会える記念のようなものよ。きっと彼もマクスに持っていてほしいって思ってるわ」


 それは質素な紐に似合わず楕円(だえん)形の美しい光沢を放つ純白の宝石らしきものだった。

 光り物にあまり関心のなかったその少年も、実際に間近で目にしたその宝石の美しさに少しの間見入ってしまったようだった。


「ふーん……あっ、なんか光ってるよ!」

「ええ。綺麗でしょう? 昔父さんにプレゼントされてね。それから母さんの宝物だったの。マクスもこれを大切にしてね?」

「うん! 僕も大人になってもずっとこれが一番の宝物だ!」


 二人が笑い合っていると、港から巨大な生き物の唸り声のような重い警笛(けいてき)の音が響き渡った。

 その場の誰もが後の方へ目を向ける。そうして見えた港の外側には、三つの船体が三角形に組み合わされたような非常に巨大な軍艦が存在した。


「すっげぇ。宙央(ちゅうおう)政府が開発した最新兵器らしいぜ。タイタン(最大)級の戦艦より小さいのに3倍以上も戦力があるんだってよ」

「へぇ……そんなのがなんでこんな民間コロニーに立ち寄るんだ?」

「さあ? 燃料補給じゃねぇの?」


 甲板に特殊な形の主砲を構える威容を観客に見せつけるように佇むその艦を、他の者たちと同じように先ほどの親子も見物していた。


「かっこいいなー! 僕も将来は軍人になってあの船に乗るんだ!」

「……そう、ね。きっと立派な大人になるのよ」




 〜〜〜〜〜




「はあ〜〜〜……」


 所変わって、今多くの人々に注目されている軍艦の内部では、一人の人間が溜まった不満を吐露するような深いため息をこぼしていた。

 それは白いシャツと背中に”Officer”の文字が描かれた緑のジャケット。ズボンの上に銃器や通信機といった装備を身に付けた年若い女性だった。


「おいおい随分辛気臭そうな顔じゃないのエリーちゃん。そんなに軍艦(ここ)の配属になったのが不満か?」


 艦内の食堂で幸運を逃がしているその女性を見かねたのか、同じような服装の壮年の男性が話しかけていった。


「当然です。私は世の悪を正すために警官になったのに、訓練学校を主席で卒業したそばからどうしてこんなところに来なきゃいけないんですか……」

「これも立派な仕事だっての。それに次世代の最新艦の駐在員として選ばれてんのも、並大抵じゃない能力があるって認められてるようなもんだし」

「警官の軍艦務めなんて実質的な警備員じゃないですか! その能力を活かす価値のある場所に配属しない必要性が理解できない! 体面上は対等な立場の軍人に()(へつら)うのが慣わしとかいうのも最悪だし!」

「お、おい声がデカいって……」


 新進気鋭の優秀な警官として過ごす日々を期待していたその女性にとってこの采配はどうしても納得がいかないらしく、不平不満が口から出て止まらないようだった。


「そ、それにしてもこの艦は実際すげぇんだぜ? おまえはまともに資料に目ぇ通してないだろうけど、甲板にドンと置いてある205cm三連装レールガンとか、左右の翼艦にある炸裂式散弾砲も今までの兵器とは一線を画す威力だとか。開発者はこれなら単独で宇宙怪獣とも戦える! なんて豪語してたらしい」

「へーー」


 少しでも軍事技術に関心のある人間が聞けば、多少なりともその革新的な兵装に反応を示すのだろう言葉を耳にしても、その女性は不貞腐れたようにまるで興味がなさそうな返答を返すばかりだった。


「まあ聞けって、なにより一番すげえのは積んである統制補助AIらしい。なんでもほとんど未来予知みたいな空間予測が可能らしいぜ」

「はあ? なんですかそれ」

「俺たち警官にゃ詳しい情報は降りてこねえよ。ただ実験の段階ではいくつかの思考実験を経て、どんなシチュエーションでも予測では説明がつかないレベルの先読みをほぼ的中率100%でやってみせたんだと」

「そういう映画みたいな技術って、実現するのにあと200年は掛かるって言われてませんでした?」


 男性の懸命な呼びかけの成果か否か、少しは気が紛れたらしい女性が二人で談笑をしていると、突然室内にあるランプが赤く点灯しけたたましいサイレンの音が鳴り響いた。


「なっなんだ!?」

「この警報は、緊急危険事案……!」


『艦内に正体不明の侵入者を確認! 監視装置を妨害され現在位置特定できず! 全ての武装した乗員は犯人を捜索、直ちに拘束せよ!』


 艦内放送によって発生した事態を理解した人間は、全員がすぐさま身につけた武器の簡易的な点検を行い、慌ただしくその場を後にし始めた。


「いいかエリー! あくまでも指示は拘束だ! 武器の設定は必ず非殺傷・非損壊モードにしておけよ!」

「わかってます! 私は下階の捜索を!」

「犯人を見つけても(はや)らずに応援を呼べよ!」


 女性警官は同僚と別れて銃を構えながら階段を下っていく。

 そして下へ行くほど人手が少なくなっていくことに気付いた彼女は、思い切って船底部の最下層を捜索することにした。


「(といってもこんな区画に重要な部屋はないはずだけど……上は人手が多すぎるくらいだしね……)」


 侵入者の目的がなんであれこんな場所にいる可能性は低いことに、彼女は目的の階層まで降り切ってから気付いたようだった。

 しかし人手の薄い場所を補完するという一応合理的な理由はあることで、気を取り直して捜索に集中することにした。


「(あっ、でも船底部にエンジン室が置かれてる場合もあるんだっけ。この船は……うーん、資料ちゃんと見とけばよかった……ていうか無駄に広い……)」


 彼女は廊下から繋がる扉を開く限り片っ端から開いて内部を確認していく。

 油断も(おこた)りもしてはいないが、自身の予想していた通り目ぼしいものは見つからなかった。

 しかし暫く確認を続け小さな倉庫の中を見回っていたところで、貨物に囲まれて目立たないような場所に隠された扉を発見した。


「これって、隠し扉? 犯罪組織のアジトじゃないんだから……でも、もしかしたらなにか……」


 侵入者が狙うとするならこういう場所に隠された何かなのではないか、などというなにも根拠はないものの、彼女自身はどこか確信めいた予感を覚えながら、ゆっくりとその扉の向こう側に足を踏み入れていった。


 入ってすぐのところにあった梯子(はしご)を上り、ハッチを音を立てないよう慎重に開けてその空間に身を滑らせた。

 そこは所狭しと様々な電子機器が並べられた部屋であり、彼女が予想していたよりもだいぶ広い場所のようだった。


「(これは、署のサーバールームに似てる……もしかしてここって、例のAIのコアデータ管理室……?)」


 その部屋の奥から微かに物音が聞こえたことで、彼女は気を取り直して銃を持ち音の正体の元へ向かっていく。

 部屋の突き当たりが見えてくるというところで、大きな機材に身を隠して様子を伺ってみると、こちらに背を向ける形で厚手のコートを羽織った何者かが、厳重なセキュリティが敷かれているであろうなんらかの装置で作業をしている姿があった。


「……こちらデマリウス巡査。犯人と思われる人物を発見しました。確認できたのは現状1名のみ。場所は船底部にある倉庫の……」


 推定的に犯人と見て間違いないだろう人物を発見し直ぐに取り押さえたい気持ちが表に出かかるが、一度深呼吸をしてから通信機で同僚警官に小声で状況を報告する。


「……!」


 が、わずかに相手の耳にその声が届いたのか、犯人はバッと体ごとこちらへ振り返った。

 そうしてコートに覆われた犯人の体が見えたのだが、体に張り付くようなレザースーツから浮き出た体は、線の細い体から曲線を描くスタイルがはっきりと確認できた。

 頭には電子仮面を被っており特徴と言える特徴は伺えず、強いて挙げるなら女性警官よりも一回り高身長といった程度のものだろうか。


「(っ気付かれた!)」


 相手に存在を気取られたことで、彼女はこのままでは逃走を許す可能性があると判断し、物陰から飛び出して銃を犯人へ向けた。


「動くな! 警官です! 手を挙げて投降しなさい!」

「……」


 律儀にバッジを見せつつ警告を投げかけるが、犯人は動じた様子もなくこちらへ銃を向けてきた。


「くっ……!」


 彼女は“非殺傷仕様に限り武器を持つ相手への先制攻撃を許可する”という規則に従い、点検時に仕様を切り替えたことを思い出して咄嗟に引き金を引いた。


「チッ……!」


 その銃口から発射された光弾は真っ直ぐ飛んでいくが、犯人は横に飛び込むように躱してしまう。

 的を外した光弾はそのまま直線上にあった犯人の目当てである機械に命中し、当たったところから激しい火花を散らし、AIのシステムに影響があったのか、照明や周囲の機器の光が点滅し始めた。


「えっ、この威力は……! なんで通常モードに……!?」


 非損壊仕様の武器は限りなく人工物への被害を抑えることができるものだが、彼女が今確認したところ、なぜか己の銃の非損壊モードが解除されていることがわかった。


「フッ!」

「!? しまっ……」


 そしてこの不測の事態への動揺と、照明が点滅していることによって姿を見失っていたことが要因となって、死角から現れた犯人の接近を許してしまった。

 その人物は並外れた身のこなしで彼女の持つ銃を蹴りで叩き落とし、間髪入れずに胴体を打ち据えて大きく体勢を崩させた。


「うぐ!」


 背中を打った痛みを押し殺してすぐに立ち上がろうとするが、その隙を与えられることもなく眼前に銃口を突きつけられてしまった。


「あ……」




 一方同艦の甲板では、その全体像を見た時最も存在感のあるソレに異常が現れていた。


「……む? おい、レールガンの砲塔を動かしているのは誰だ? 元の位置に戻せ」

「……だ、誰も操作はしていないようです……! 勝手に動き出しています!」

「なんだと? 制御系の電子回路に不具合が起きたか?」


 艦の前方に鎮座する巨大な三連装レールガン砲が唐突にその砲塔の向きを回転させ始めたのだ。

 半自動化された兵装の制御は艦橋部のこの司令室からのみであり、この場の誰の仕業でもないとなると船側に異常が発生したという事態が考えられる。

 しかし砲塔が回転しているだけならまだ慌てるほどの状況ではない、はずだった。


「ほ、砲弾が自動装填されます! 電力充填始まりました!」

「おいおいおい……! まさか暴発するというのか!? 周囲にかなりの数の民間船も飛んでるんだぞ!」

「いや……それより砲塔の回転止まりません! このままでは砲弾の飛んでいく先は……!」

「こ、()()()()()()()()()……!? 今すぐ向こうの管制室に警報を送れ!!」

「電力80%! 充填バカ速いです!」

「無駄に高性能だなクソが!! 緊急停止だ! 非常用の停電コードがあるはず!」

「マニュアルに記載されてた記憶がありません! 構造に詳しい設計者か技師を連れてこないと!」

「そちらも間に合わん……! とにかく発射角から着弾点を予測して応急的に人員の避難を始めさせるしかない!!」


 大慌てで事態の収束を急ぐ軍人たちだが、血も涙もない兵器はそんな奮闘(ふんとう)に反応することもなく発射準備を進め、まるで何かを訴えかけるように、無防備な鋼鉄の星へ無慈悲な凶弾を撃ち込もうとしていた。



 そして狙いの的になっているコロニー・シプレルの港では、入出口が防衛用隔壁で閉ざされそこら中で警報が鳴り響き、自動二輪(バイク)に似た宙に浮く車両に乗った警官たちによる避難誘導が始まっていた。


「なに……? 母さん、なにがあったの?」

「さあ、一体なんでしょうね……とにかく誘導に従って避難しましょう」

「父さんがまだ来てないよ! 父さんはどこにいるの!?」


 白い宝石のネックレスを持つ少年とその母親もまた避難を始めようとしていたが、ふと男児が隔壁によって閉ざされた港の出口に目を向ける。


 その瞬間、隔壁が中央から光り始めた。

 いや、正確には光を放つほど赤熱し、一瞬の内に膨れ上がりまるで手を突き込んだ紙のように食い破られ、目に映らないほどの速さで三つの凶弾が反対側の壁に突き刺さり、そこにいる誰もが悲鳴を上げる暇もなく港は巨大な爆発に呑み込まれていった。




「あ……ぅ……」


 その少し前、隠し部屋で侵入者に銃を突き付けられている女性巡査は、目の前に迫る死の恐怖に身が(すく)んでしまっているようだった。


「…………」


 その銃の持ち主である女性であろう侵入者は、巡査の前にしゃがみ込みその顔を銃口で柔らかに撫で始めた。

 赤い鱗を持つ凶暴そうな生物の頭のような特殊な造形のその銃は、間近でそれを見せつけられている彼女の目に強く焼き付いた。


 と、そこで艦全体に大きな衝撃が走った。


「ッ間ニ合ワナカッタカ……!」


 電子音で声紋の解析を妨害する変声機特有の声をあげ、侵入者は何が起きたかを把握しているかのような様子で部屋の出口に向けて走り出した。


「……はっ!」


 少しの間固まっていた巡査だが、我を取り戻すと落とした銃を拾って構えるが、犯人は素早くこの部屋を脱出していくところだった。

 巡査もそれを追って隠し部屋の外に急ぐと、倉庫を出たあたりの通路に犯人が立ち止まっており、前方からなだれ込んでくる軍人や警官たちに銃を向けられていた。


「武器を捨てて這いつくばれ! 少しでもおかしな動きを見せれば容赦せんぞ!」

「…………」


 いくつもの銃口が自分を睨みつける中犯人はゆっくりと手を上げる仕草を見せるが、誰もが観念したかと考えた一瞬の隙を突き横の壁に銃弾を撃ち込んだ。

 また誰もが虚を突かれて判断を迷っている間に、銃弾の当たった壁がまるで四角の型抜きでくり抜かれたように穴が空いてしまった。

 犯人は外部へ繋がる穴へと吸い込まれるように、漏れ出た空気と共に船外へ放り出されてしまった。


「まっ、まさか! 最初からここが脱出経路だったのか!?」


 宇宙に放り出されたと思われた犯人は、穴のすぐ向こうで待機していた小型船にするりと乗り込んで当艦から離れていった。


「…………っ!」


 船に備えられた機能として壁に空いた穴と通路を分断するように半透明のシールドが現れ、自動的に作業ドローンが修復を始める中、巡査は居ても立っても居られないというように艦内を移動して警官用の小型船に乗り込んで犯人を追っていった。




 レールガンの砲弾が直撃したコロニーの港部分では、最新兵器の貫通力が高すぎるが故に、より奥の方へ砲弾が食い込んでいったためか、外部から見るよりも比較的被害は大きくないようだった。

 それでも見える限りの場所で瓦礫が散乱しそこかしこで火の手が上がる中、気を失っていたある人物の目が覚めたようだ。


「ん……あ、れ……?」


 それは先の母親からネックレスを受け継いだ男児であり、奇跡的に砲弾の爆発や瓦礫の崩落などから命を奪われずに済んだらしい。

 彼はまだ朦朧(もうろう)とした意識で周囲の状況を理解しようと辺りを見渡すが、やはり瓦礫と炎だけの景色を見るばかりでは幼い子供に事態を把握するのは難しいようだった。


「母さん……? どこに、行っちゃったの……?」


 男児はなんとか立ち上がり見当たらない母親を探し始めるが、その姿を背後にある瓦礫の向こう側から、電子仮面を被った人物が静かに見つめていた。


「…………」


 表情が見えないため少年を見て何を思っているのかはわからないが、その人物は港の外から追手が迫っていることを察知するとすぐ近くの小型船に乗って飛び去ってしまった。

 すぐにそれを追ってきたのだろう警官用の船がやって来たのだが、港の外へ向かう犯人を追うために切り返す一瞬の間に、ふと目を向けた先で巡査と少年が目を合わせた。


「(ッ! いや、今は!)」

「……」


 ほんの少しだけ救助すべきかと逡巡(しゅんじゅん)をした巡査だったが、コロニー側の警官や救急隊によって消火・救助活動が既に始まっているのを確認すると、エンジンを最大稼働にして犯人を追い始める。


 警官用の船はかなり高性能に造られているはずだが、トップスピードでも犯人の船はわずかに離されるほど速度があるようだった。


「やっぱり違法改造よね……!」

『エリーもうよせ! それ以上最大出力でふかし続けたら推力炉(すいりょくろ)が焼き切れるぞ!』

「こんなところで、逃してたまるか……!!」


 離されつつあるものの、“宙央(ちゅうおう)政府”から認められていない違法パーツばかり使って改造された船は、ガタが来やすく燃費が悪くなる傾向にあることを知っていた巡査は、このまま見失わないように追い続ければいつかは捕まえられると信じていた。


「フッ……」


 そんな考えを知ってか知らずか、犯人は不敵な笑みをこぼすと何らかの操作をすると、船の前方に異次元のような空間に繋がる穴が開いた。


「なっ、()()()()()()()!? あんな小型船がどうして開けるの!?」


「ジャアネ、子猫チャン」


 犯人の船はその穴に吸い込まれるようにして消えていき、穴から溢れる光に晒された巡査の船は 断続的な衝撃に襲われてエンジンが停止してしまったようだった。


「ぐ……くそぉ!!」


 最後まで手玉に取られてまんまと逃げられたことで、巡査は怒りや悔しさ、不甲斐なさといった溢れ出す感情を操作盤にぶつけて項垂れてしまった。




「…………」


 そしてその追走劇によって(ひらめ)いた()()()は、暗い宇宙を見上げる少年の脳裏に焼きついて生涯消えることはなかった。


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