異界転送(いかいてんそう)
1941年5月21日。
その日は、世界が変わった日だった。
東部戦線。スタグ・ドミニカ・ライヒ軍の最前線に位置する第零大隊は、日常の戦闘任務中に突如として姿を消した。警報も叫びもなく、ただ空気がねじれ、地面が震え、オゾンの匂いが辺りを支配した。
次に彼らが目を開けた時――そこはもう、知っている世界ではなかった。
「ここは……どこだ?」
ヴァイス中尉が冷静な声で尋ねる。
周囲は見たこともない植物。空は不気味な紫。羅針盤は狂い、無線機はノイズを垂れ流す。
動揺する兵たちの前に現れたのは、銀髪の男。光の繊維で織られたような外套をまとい、まるで神話から飛び出したような佇まい。
「ようこそ、異世界より来たりし者たちよ。私はラエル・オブ・ヴェーロン。この世界の均衡を守る者だ」
「我々の世界は今、破滅の瀬戸際にある。敵は《ヴェロシア》という魔族。君たちの力が、必要だ」
銃口が向けられ、疑念が飛び交う中、選択を迫られる兵士たち。
“このまま敵として排除するか――それとも、共に戦うか。”
そして、決断は下された。
これは、国家の命令ではない。祖国も存在しない異世界にて、自らが選び取る生き様の記録である。