夏の日の布団
今日はとても暑い。
どう考えても寝苦しいに決まっている。
汗をかいて寝るのは嫌だけど今日も寝るしかない。
しかたがなく布団に入る準備をした。
扇風機をまわすと生ぬるい風が体にあたった。
これでも少しは涼しくなると
かけ布団を蹴飛ばしてとりあえず寝転がる。
寝転がった瞬間、布団の表面温度は熱くないが
少し時間が経つと自分の体温を吸い込んで熱くなる。
だから、体勢と位置を変える。
少し涼しい。
しかし、また涼しい場所を見つけたと思うと
すぐに熱くなる。
それでまた体勢と位置を変える。
ぐるぐる。ぐるぐる。
「あ〜!これじゃ〜眠れない!」
僕は鉄板の上で焦げないように
焼かれるステーキのようになっていた。
毎回、こうやってもがきながら眠りについて
蹴飛ばした布団のせいで体が冷えて風邪をひく。
だから、極力は布団をかけておきたい。
しかしそれはステーキに
ワインをかけるようなもの。
寝苦しさの炎が燃え上がってしまう。
焦げてしまってはまずい。
そんなことを思っていると暑さのピークが過ぎたようで
部屋の温度が少しだけ下がって涼しくなってきた。
それとともに眠気がやってくる。
そろそろ眠る時間かもしれない。
よし、寝よう。
僕は目を閉じた。
ほら、砂漠の先にはオアシスがあるよ。
もう少し頑張れば水がたくさん。
美味しそう。
僕は走り出した。
しかし、足が動かなくなる。
どんどんと足が吸い込まれて砂に埋まっていく。
なんで〜。
乾いた砂に沈んでいく感覚とともに
はっと目を覚ました。
1分間の短い夢だった。
つまらない夢だ。
なんでこんな夢を見てしまったのだろう?
口の中がカラカラで苦しい。
息がしづらくて水分がたりない。
「喉が渇いた〜」
晩ご飯が少し味の濃いものだったからかもしれない。
美味しかったような覚えはあるが。
水が飲みたい。
しかしここは2階。
冷蔵庫があるのは1階。
起きて水を飲みに行くには
階段を降りて行かなければならない。
やっと快適に眠れそうな感じになったのに
ここで布団から出てしまうのは嫌である。
しかし、生きるためには夢でも見たように
水を目指して砂漠を進むしかない。
それにこのまま喉が渇いたままで眠っても
どうせすぐにまた目が覚める。
どう考えても布団から出て水を飲みに行くべきだ。
僕はしかたがないと嫌々布団から出る。
そして闇に向かう真っ暗な階段を
音を立てないように注意してゆっくりと降りた。
トコ。トコ。
そしてキッチンについた。
ペンギンの形のタイマーがくっついてこちらを見ている。
暑い日の宝箱。冷蔵庫。
その宝箱をゆっくりと開けると
気持ちがよい冷たい風が吹き抜けた。
熱い体に染み込む涼しさである。
なんて気持ちがいいのだろう。
このまま浴びていたいと思った。
ダメなのは分かっているけど。
すると、その涼しい宝箱の中に美味しそうな
見たことがないミックスジュースが置いてあった。
なんとも色鮮やかな南国のデザインである。
南国への旅を誘っているようである。
きっとこんなに喉が渇いている時に飲む
ミックスジュースは格別である。
幸せを感じるに違いない。
とても飲みたくなってきた。
だが、夜に甘い飲みものは飲まないようにと
お母さんから言われている。
やはり今はダメである。
南国のジュースも涼しい宝箱もお預けである。
しかし、ダメなのは分かっているけど、
家族はみんな寝ている。
今、ここで涼しい宝箱の中身を盗んで
南国気分を感じても僕以外誰も知らない。
ならば、大丈夫。
これは飲むしかないと思った。
恐る恐るペットボトルのキャップをひねる。
開けられるまで緊張していたジュースも
深呼吸して肩をおろす。
あと少し。
あっ そういえばコップを取りに行かなくては。
そう思った瞬間、手が滑ってキャップを
落としてしまった。
スルッとすり抜けて、コロコロ。
キャップは床を転がっていく。
慌ててキャップを追いかけた。
しかし、キャップは待ってくれない。
どこまでも転がっていく。
「待ってー!」
僕は追いかけるのに必死。
それでもコロコロと転がっていく。
そのまま、家族が寝ている寝室に入っていき
そこでパタリと止まった。
なんてことだろう。
面倒なことになってしまった。
天国から地獄へ転がったキャップを拾うのは
大変そうである。
しかし、拾わなくては
南国の秘宝を手にする作戦は失敗となってしまう。
家族が起きないようにキャップの奪還を
試みるしかない。
しかたなく、そろりそろりと寝室に入った。
小さな明かりに自分の影が揺れる。
まるで泥棒にでもなった気分である。
ゆっくりと気が付かれないように
慎重にキャップへ手を伸ばす。
あと、少し。
あと少しで拾える。
変な体勢で体がプルプル震えながらも
あと少しである。
あと少し。
もうちょっと!
「あっ! 」
バターン。
残念ながら作戦失敗である。
体勢を崩してしまい、
そのまま顔から床に倒れてしまった。
「あ、イタタタタ、、」
体に痛みが走った気がした。
「ん? いや、痛くない!」
これだけ派手に転んだので痛そうだが痛みはなかった。
どうやら柔らかいものに包まれているようである。
守られているような気がした。
もしかして天国にでも行ったのだろうか。
いや、違う。
どうやらここは布団の上である。
はっと気がついた。
目に映るのはいつもの部屋の中。
時計を見る。
前に時計を見てから3分経過。
これも夢だった。
3分間の夢。
今も布団の中で喉が渇いている。
喉が渇いている時に見た
喉が渇いて水を飲みにいったという内容の
紛らわしい夢である。
なんて、面倒な夢なんだ!
もう、いい。
布団から出て水を飲みにいこう!
そう思った僕は
ちゃんと布団から出て
階段を降りて水を飲みにいった。
ものすごく体が水を欲していたので
水を飲んでいると生き返っていく気がした。
これで頭からつま先まで水分補給完了である。
体に水、悪夢を見ず、快適に眠れそうである。
布団に戻り、改めて目をつぶる。
さっきまでの寝苦しさとは違って
プールにプカプカと浮かんでいるような
気持ちよさがあった。
なんだか南国気分!
いろいろあったが今は涼しさを感じてゆらゆら。
そのまま波に揺られるように眠りについた。
読んでくださってありがとうございます!