寂しい日の布団
とある静かな夜。
寝る時間になって
もっと起きていたかったけれどしかたなく
布団の中に入った。
全然、眠たくない。
目をつぶって眠ろうとしても
眠気が全く起きなくて眠れない。
眠ろうと無理に目を閉じていると
部屋の静寂な雰囲気を感じて
ポツンと1人でいるのが寂しくなってくる。
だから目を閉じているのは諦めて
小さな電球で照らされた部屋をなんとなく眺めていた。
すると、あるものに目がとまった。
鉛筆を削った残骸が残るゴミ箱?
いや、それじゃない。
その先にある図画工作でつくったダンボールの扉である。
もちろん、扉といってもダンボールの箱を一部切りとって
扉みたいに開くようにしているだけである。
それをペンで装飾している。
そんな作品を部屋の壁際に飾っていて
部屋の一部にしている。
なんだか謎の存在感があり、
その扉はどこかに繋がっていそうでもある。
しかし、この扉の奥に何があるかは当然知っている。
なぜなら、この扉の製作者は僕だから。
この扉の向こうに広がるのは
自分で描いた空想の世界の絵である。
だから、この扉を開けたところで何も出てこないし
どこにも繋がっていない。
出てくるのは僕が描いたうまいわけでもない絵である。
何もおもしろいものではない。
だけど扉の先が気になって自分で設計した
ストローでつくった鍵を開けたくなってくる。
鍵といってもストローをただ引っ掛けているだけなので
鍵の役割はしていないが。
やっぱり気になると
そんなヘンテコなストローの鍵に手を置く。
その鍵に何かの意味があるように慎重に。
鍵を外して、扉を開けようとした。
しかし、何かを思ってまた鍵をかけなおす。
やはり、この扉の向こうは
どこかに繋がっている気がして
簡単に開けても良い気がしない。
もし繋がっていなくても
誰かがこの中に潜んでいる気がした。
それはもしかしたら幽霊さんなのかもしれない。
この前、夢の中で木陰からゆらりと現れた人に出会った。
あの人は夢の世界の人かもしれないけど
とても不思議な雰囲気でそばにいてくれる気がした。
この扉を開いたら
そんな幽霊さんに出会えるかもしれない。
なんだかそう思える。
だから、幽霊さんを驚かさないように
ストローの鍵を外す前に扉をノックする。
「ちょっと寂しいからお話でもしようよ。」
そういってストローの鍵を外して扉を開いた。
そこには・・
あの架空の世界が広がる。
夢で見た森ではなく自分が描いた絵。
当然、何も出てこないし見えるのは
自分が描いた空想の世界の絵だけだった。
そんなことは最初から分かっている。
ただ、この一連の動作は心をドキドキさせて
眠れなくて寂しくて不安な時間を
楽しくさせようと考えただけの行動なのだ。
そうなんだけど、なんとなく扉の中に
「こんばんは。」と呟いた。
そして、布団の中に戻る。
「幽霊さんはいるのだろうか?」
ちょっとだけ考える。
幽霊なんて信じていないけど
もし、いるのなら友だちになりたい。
急に現れるとびっくりするので
驚かさないことを約束したうえで
こんな寂しい夜にはお話がしたい。
でも、話すことはすぐにつきちゃうから
小さな物語でもつくってきかせたい。
いや、幽霊さんの方がいろんな話を知っているのかも。
知らない話を教えてもらおう。
そんなことをずっと考えていたら眠たくなってきた。
今だったら眠れそうである。
そろそろ寝よう。
そう思って空想の幽霊さんとの会話をやめた。
ダンボールの扉を閉めるため、
もう一度扉を掴んでその中に呟く。
「幽霊さん、ありがとう。おやすみなさい。」
当然、なにも返答はない。
しかし、大切な人を見送るように扉を優しく閉めて
そっとストローの鍵を閉める。
そうして布団の中に戻ると
なんだか安心していつの間にか眠りについていた。
幽霊さんも扉の向こうで寝ているのかな?
夢の中であの人に出会えたのかは覚えていない。
読んでくださってありがとうございます!