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9.「少年は将来何になりたかった?」

 住宅街だっただろうところを抜けると、道路が広がっていた。道路にはそこかしこにヒビが入っていて、陥没しているところもあって、隕石が落ちたという話が事実なのだと僕に訴えかけてくるようだ。そんな状況でも、お姉さんはいつものように僕の手を引いて歩いている。


「少年は将来、何になりたかった?」

「え、急に?」

「あ、なりたかったという年でもないわね。何になりたい?」

「将来かあ……」


 考えたこともなかった、ような気がする。というか、思い出そうとすると頭がズキッと痛んで考えがまとまらない。昔のことはよく覚えていない。というか、自分が何者なのかすら、そう言えばよくわからないんだよなあ……。


 今は、どうなんだろう。こんな状況で、将来何になりたいかと聞かれてもな。世界が崩壊したと聞かされた後に、希望を抱けるほど図太い神経はしていないと思う。


「私はね」


 悩んでいると、お姉さんが笑顔で口を開いた。


「ある人のお嫁さんになりたかったよ」


 お姉さんの口から発せられた言葉に、喉がキュッと締まるのを感じる。


「かわいい夢だよね」

「自分で言う? 確かにかわいいけど」

「その人がね、将来はお姉さんのお嫁さんになるって言ったのよ」

「年下なんだね」

「うんと年下だね」


 お姉さんは、年下趣味なんだろうか。というか、そんな相手がいたのに僕にキスをしたのか……。その相手も、もういないと思ってのことなんだろうけど、なんだか複雑な気分だ。同時に、なにか申し訳なさのようなものを感じている自分もいて、困惑してしまう。


「少年が気にすることは何もないよ」

「う、うん」

「何にしても、将来の夢を持つことは大事だよ」

「こんな状況でも?」

「こんな状況だからよ。希望を持たないと、やってられないじゃない?」

「まあ、たしかにそうかも」


 僕が答えると、お姉さんがニカッと笑って僕の頭を撫でる。どうして撫でられているのかわからないけど、心地いいからこのままでいたい。


「今のお姉さんの夢は?」

「んー? 内緒」

「えー、ここまで話しておいて?」

「君に夢ができたら、私も教える」

「確かに、聞くだけだと不公平だもんな」

「そういうことだよ少年」


 夢、夢かあ。目標、と言い換えてもいいのかもしれない。今はとにかく、お姉さんとこうして話しながら歩いているのが楽しい。不謹慎かもしれないけれど、このままいつまでも二人で話しながら旅ができたら嬉しいと思ってしまった。


 だけど、これは夢じゃないな。今が楽しいから、それが続けばいいと思っているだけで、将来への希望とかそういうんじゃない。


「ま、ゆっくりと考えればいいよ」

「そうする」

「少年、最近あまり激しいツッコミをしなくなったね」

「え? まあ、そうかも」

「素直になっているということと受け取っておくよ」


 お姉さんが僕の頭から手を離して、また手を繋ぎ、歩き始めた。撫でられるのもいいけど、こうして手をつなぐのも僕は好きらしい。胸が踊るような思いがする。将来の夢は、追々考えていくとしよう。


 なに、こうして二人で話していれば、きっと近いうちに思いつくかもしれない。


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