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6.「自然を見ると不安になることない?」

 森の中は、鬱蒼としている。瓦礫ばかりだった草原とは違って、こっちは木やら背の低い植物やら植物の蔓やら……とにかく自然ばかりだ。自然しかない、と言ってもいいかもしれない。お姉さんの歩く速度が、心なしか速く感じられる。


「ねえ、自然を見ると不安になることない?」

「わかる」


 珍しく、お姉さんの言葉に心から共感できた。背が高い木々に見下されて、葉っぱが揺れる度に陽の光の差し込む角度が変わる。足元には鬱陶しいほどの草花が生い茂っていて、足を絡め取ろうとしてくる。こういう光景の中を歩いていると、胸の奥がキュッと締め付けられ、自身の存在が揺るがされたような気持ちになる。


「特にこう自然に囲まれてると不安になるよなあ」

「そうそう。世界には自分たちしかいないんじゃないかとか」

「わかるわかる」

「お前は矮小な存在なんだと言われている気持ちになったり」

「めっちゃわかる!」


 お姉さんがふう、とため息をつく。歩く速度がどんどん速くなっていって、ついていくのが大変だ。木々のざわめきと、僕たちの声しか聞こえない。鳥のさえずりも、草むらで動物が動いたような音も何もないこの森は、なんだか自然の恐ろしいまでの雄大さが強調されるようで、やっぱり居心地が悪かった。


「こんな世界でも、大自然は大自然で、人間は人間なんだなって」

「当たり前のことを言ってるなあ」

「当たり前のことって、改めて思い知らされるとしんどいのよ」

「まあ、わかるけど」


 足早に歩くお姉さんの歩調に合わせて、僕の歩幅が大きくなる。僕の短い足では、もつれそうになるけど、精一杯ついていった。景色は変わっているんだか、変わってないんだか、よくわからない。それすらも、僕らを見下しているように感じるのは、自意識が過剰なんだろうか。


「人間がどれだけ文明を持っても、技術を持っても、コントロールできないんだよな自然って」

「そうね……そこも腹が立つのよ。お前らなんか、どれだけ頑張っても大自然の足元にも及ばないんだぞ、みたいな」

「悪役が言いそうやな。でもわかる」

「それで人間の友、みたいな面してるのも腹立つわ」

「味方面した敵キャラみたいなな」

「そうそう!」


 いつになく、お姉さんの声が弾んでいる。会話が弾んでいるからだろうか。親が以前、「嫌いな奴の話ほど弾むものはない」と言っていたけれど、こんなところで実感してしまう日が来るとは……。聞いたときは、嫌な言葉だなあと思っていたのに、今は心の底からわかってしまう。


 だけど、お姉さんとの会話が弾むのは、嬉しい。


 だから、いいかな。もう少しだけ、こんなクソみたいな大自然の中でも。


「ま、君がいるから悪くないけどね。ね? 少年」


 お姉さんが急に立ち止まって、振り返った。その瞬間、木々がざわめき、木漏れ日を彼女の笑顔に落とす。木漏れ日に照らされたお姉さんの顔は、やっぱり綺麗で、ビールの泡のように儚げだった。

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