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5.「ラムネって宇宙みたいだと思わない?」

「ねえ少年、ラムネって宇宙みたいだと思わない?」


 小屋から出て、また瓦礫まみれの草原を歩いていると、空のラムネの瓶があった。お姉さんがそれを拾い上げて、カランカランと音を鳴らしながら言う。


「ラムネって宇宙みたいだと――」

「二回言わなくていいから」


 こんなに共感できない問いかけも、なかなかないなあ。


「今はお昼だけど、ラムネ瓶を月明かりで照らすとさ、星たちの煌めきのように感じるのよ」

「ごめん、さっぱりわからん」


 確かに、ラムネの瓶というのは結構綺麗だとは思う。水色の瓶に透明なビー玉が入っていて、光に照らされると反射してきらめく。月明かりに照らしてみたことはないけれど、綺麗そうだ。そこまでは共感できるんだけどなあ。


 お姉さんはため息をつく僕をよそに、歩きながら太陽にラムネ瓶を透かしている。


「まあ綺麗だけどさ」

「もし宇宙をこんな瓶に閉じ込められるとしたら、それって怖いことだよね」

「その発想も怖いけどな」


 僕が言うと、お姉さんが控えめにふっと笑う。


「このビー玉が地球だとして、光を受けて光ってるここを太陽としてさ」

「うん?」

「反射する光が、ここが土星、火星、水星、木星みたいな」

「土星から言う人あんまいないと思う」


 お姉さんに額をつつかれた。ちょっと痛い。僕が何をしたというんだ。


「情緒がわかんない子ね」

「情緒というか、発想がね」

「理解しようと努力してね」

「努力はするよ」


 言われて、改めてラムネ瓶を見てみる。確かに青く光るこのビー玉は少し地球っぽいかもしれないし、光を受けているところは太陽に見えなくもない。どちらにしても、綺麗なことには変わりなかった。それをうっとりとした顔で見つめているお姉さんの顔も、いつもより綺麗に見える。


「宇宙を手のひらサイズに閉じ込められたら、もしかしたら私達もラムネ瓶の中のちっぽけな存在かもしれないよね」

「急に哲学になった!?」


 綺麗だなあという話じゃなかったのか。そっちの方向で理解しようと努力していたら、会話が明後日の方向に飛んでしまった。ジェット機でもついてるのか、この人の会話パターンは。


「だけど、そのほうが私は心地いいって思うな」

「あ、ちょっとわかる」


 なまじ世界が広すぎるから、人間という存在がひどく矮小に思える。けれど、世界自体も小さくて自分たちがもっと小さい存在だと思えば、なんだ、そんなもんかと思えるような気がした。まあ、結局大きさの比率は変わらないんだけど、こういうのは気分の問題だから。


 僕が頷いていると、お姉さんが笑顔で僕の頭を撫でた。


「ようやくわかりあえたね少年」

「あの、事あるごとに頭撫でるのは何なの?」

「嬉しくないかい?」

「嬉しいけど」


 その言葉に機嫌を良くしたのか、瓦礫の草原の中で抱きしめられた。苦しいような、心地いいような不思議な感覚に包まれていると、ふと、視界に何かが映った気がした。木々だ、なんか森の入口みたいなところが見える。


「森だ」

「え、森?」

「ほら、そこ」


 僕が指すと、お姉さんは僕を抱きかかえたまま、指が示す方向に振り返る。「おお」と、短い声を漏らし、僕を離した。


「行ってみよっか」

「そうだなあ、瓦礫ばっかじゃつまらんしな」

「よし、じゃあ行こう」


 お姉さんが僕の手を引いて、森の中に入っていった。瓦礫しかない草原を抜けて、今度は自然の中へ。なんだか、変な旅になりそうだ。

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