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元図書委員長は一人になりたい

「わかりました。ではウチが……こほん、私がいきましょう」


 ゆるふわとした青髪の少女『魔法仙のヒナタ』は、その依頼を少々被せ気味に承諾した。


 少女というのは外見上の話で、実際は35歳。アラサーさえ過ぎたアラフォーである。


「いやしかし!」


「百人単位の国王軍兵士をかり出して全滅なんですよね。これ以上被害を出すわけにはいきません。私なら一人で片付けられます」


 C級のモンスター討伐依頼。


 デスラッシュ。ヒナタが元いた世界ではイノシシによく似たモンスターだ。

 本来は王国お抱えの英雄が出張るべきものではない。

 だが、今のヒナタにとってはわたりに船だった。


「帰らずの樹海の中で唯一通れた道に、現れるようになったモンスター。倒さなければ経済にも重大な支障が出ます。早めに対処しなければ。これは国事でもあります」


「では——従者をすぐに用意いたし」


「いいですいいです! 私が一人でいきますから! はい! じゃあ、決まり! 早速向かいます。あ、雑事は任せましたよ!」


「デスラッシュの他にも、別働隊の報告によると新種の紫色の植物系モンスターが現れて全滅したとのことです。念のため人をつけたほうが」


「いえ。かえって邪魔になります。いいですから。ジュダークは私の残りの仕事を片付けてください。お願いしましたよ!」


 きっちりと釘を指し、「かしこまりました」と頭を下げるジュダークに背を向けヒナタは執務室を後にした。かつかつと豪奢なシャンデリアが天井に吊らされている廊下を歩く。


「最近のウチは〜事務交流会事務交流事務事務……! 休みが! ない!」


 なにを隠そう、ヒナタも正成と同じ地球からやってきた異世界人だった。


 ブラック企業に就職し、ある日電車を待っているときに、『こんな世界はいやあああああああ』とわめいたとき——こちらの世界にやってきた。


 それから諸々な騒動を経験した。


 SS級の魔物『インフィニティドラゴン』を倒し、魔軍討伐合同軍遠征では相手方の将軍『絡み手の骸骨』という伝説のリッチーを合同軍のパーティで打ち取って以来、ヒナタはいわば国宝扱いされていた。


 ヒナタはヒナタで、生来の真面目な気質のせいで、その肩書きに見合った仕事をしなければと変な使命感をもっていた。本来する必要がない仕事をいつのまにかこなすようになっていた。


 多忙の毎日。


 いつも誰かの顔色を伺う日々。


 たまには一人になりたい。


 我慢の限界に達したとき、まるで天から舞い降りた蜘蛛の糸のような依頼が舞い込んだのである。


「はあ」


 なぜこうなった……。


 異世界転移したときは、こんな生活を送るようになるなんて思いもしなかった。


 それまで、ブラック企業でゾンビみたいな生活をしていたヒナタにとって、異世界転移は楽しさすらあった。まあ、楽しさだけではなく、それ相応酷い目にもあったのだが。


 なんにしても、気がつけばブラック企業にいた頃と変わらない生活をしていた。


「違う。ウチはそんな生活をしたいわけじゃない!」


 自分の部屋の扉をどんと開け、瞬時に全裸になる。

 ふくよかな胸を揺らしながら拳を握りしめてヒナタは叫んだ。


「ウチは自由になりたいんだ!! 本とか日長一日中読んでいたい! そう、図書委員長の頃と同じような生活を! 送りたいだけなのよおおお」


 チャイナ服のような戦闘服一式を着込み、七節棍を腰に巻き付ける。


 暇になったら読もうと思っていた異世界の物語が書かれた本をたらふく袋に詰め込んだ。


 ヒナタ特製の空間魔法を駆使して作った袋である。


 ちゃんと必要なものを取り出すこともできる。


 これで、帰らずの樹海の旅中読むものには困る事は無い。


「さて行きますか!」


 ふと、ヒナタは昔のことを思い出した。


 こちらでもう既にできた人間関係に不満はないが、ふと元の世界にいた両親や友人を思い浮かべることは何度かあった。


 しかし今回は違う。


 図書委員長の頃、好きだった男の子のことを思い出していた。


 告白して断られて、いっぱい泣いた恥ずかしい想い出だ。


 でも、今でも、あの男の子の横顔を思い浮かべるとこの胸のどっかが痛む。


 不思議な感覚だった。


 いつかまたどっかの街角ですれ違ったりしないかな、なんていうことをふと思っていた。


「変なの」


 さすがにこの世界で会う事は叶わないだろう。だからだろうか。


 やけにセンチメンタルな気分になった。


「ウチらしくないなこんなの! よし、街で美味しいものを食べて出発しよ」

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