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きっかけ


 それは不意打ちだった。


 中学校の、修学旅行の夜。


 クラスの男子の部屋に遊びに行こう、行くべきだと、友達同士で盛り上がった。


 コイバナをしているうちに気が大きくなったのだろう。


 告白したい。でも一人じゃ勇気がでない、お願い日向。


 そう頼まれたら、断れなかった。


 友達の意中の相手と日向はよく話す間柄だった。


 修学旅行という空気感に日向も浮ついていたのだろう。


 できるなら応援してあげたい、もしかしたらカップルができるかも。


 うわーそうなったらどうしよう。


 そんなわくわくした気持ちで率先して日向はその男子の部屋を尋ね、仲を取り持とうと画策していると。


——日向さ、おれと付き合ってくれない?


 自分が告白されることになったのだ。


 真剣な男子の視線と、泣き出した友達との間で板挟みになり、日向は居たたまれなくなった。


 ごめん、それだけなんとか口にし、日向はその場から逃げ出した。


 外の空気を浴びようと、ホテルから抜け出した。


 これから、どんな顔をして二人と話せば良いんだろう。

 もしかしたら、仲間はずれにされるかも。嫌われたかな。


 もやつく考えの断片が浮かんでは消える。


 とぼとぼ近くのベンチに向かうと、先に男の子が座っていた。


 男の子は、街頭の下、ぼんやりと宙を眺めている。


 無造作にのばした髪、少し眠そうな顔。


 喉仏がやけに目についた。


「あれ、正成くん」

「委員長か」


 委員長と呼ぶのはこの男の子ぐらいなものだ。

 男の子は、図書委員長だから、という理由で日向をそう呼ぶ。

 なにそれ、名前で呼んでよ、と言ったのだが変わらない。

 今日はなんか変な気分である。むずむずするような、そんな気持ちになった。


「どしたん、なんだか黄昏れてる表情してるね」

「そんな顔しているか」

「うん」

「そっちも、なんかあったのか」

「うーん」


 なんと言ったらよいのか考えあぐねた。


「ん、立ってないで、座ったらどうだ」


 少しベンチの端に寄ってくれた。

 自然と日向も横に座って、さっきあったことを話していた。


「ふーん。委員長もてもてだな。可愛いから仕方ないな」

「なにそれ」


 可愛いと言われて、うわずった声をだしてしまった。


「人気者は大変だな。おれみたいなのはそんな悩みなんてないから楽なもんさ」

「もう」


 わざとそうやっておどけてくれているような気がした。

 そんな気遣いが、なんだろう。日向にとっては息を吸って吐くような自然な気持ちにさせてくれる。

 なんだか眠くなってくるような安心感だ。

 それでいて、なんだかドキドキもする。奇妙な感覚だった。


「ウチの話は終わり。それより、正成くんはどうなの」

「おれ? そうだな。話、聞いてくれるのか。優しいんだな委員長は」

「別に、そんなんじゃないけど。だって気になるし」

「なんというか、おれの母親今度再婚するんだよね」

「ふーん」

「だからいろいろ考えてたわけですよ」

「いろいろって?」

「亡くなった父親のこととか、再婚相手との関係とか、再婚相手の連れ子のこととか」

「連れ子?」

「そ、妹ができるんだ」

「そうなんだ」

「色々と複雑な気持ちもあるんだけどさ、お母さんには幸せになってほしいし、でもおれちゃんと兄なんてできるのかな、みたいな不安もあってさ」


 街頭の明かりに蛾が群がっている。

 夜の風が吹き抜け、男の子の髪が揺れている。

 いつもと違う表情を浮かべる男の子の、真剣な顔。

 なんだか、魔法みたいだった。


「ん、ぼちぼち帰るか。みんな心配するだろうし。一緒に帰ると変な噂たつかもだし、先に戻るな。じゃ」


 あっさりと去って行く背中。

 もっと話したい、と言う言葉をぐっとこらえた。

 なんだか、無性に、その男の子の顔が、声が、眩しく感じたから。

 この気持ちを、どう処理すれば良いのか、どう向き合えばいいのかわからず。

 余韻だけがあって。


 その夜から、日向は男の子を意識するようになった。


 高校の頃告白して振られても——あのときの男の子との思い出は色あせることはなくて—。


 だから異世界でその男の子と再会したとき、日向は自然と決意していた。


 もう諦めたりなんか絶対しない、と。

 

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