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猪突猛進フルコンボ



「はい5レベェ!」


 イチノセとの弾丸旅行で失った時間を取り戻すべく、街に面するフィールド『始まりの竜原』でひたすらに飛んでくる豚型モンスター、バウンピッグをしばいていた。


 バウンピッグはバネのようになっている足が特徴で、変則的な軌道から鋭い突進が売りのモンスターだ。

 なかなか厄介なモンスターのようで、戦いに不慣れなプレイヤーがあちらこちらで変則的に跳ねる動きに翻弄されている。

 厄介とは言ってもそこかしこにいる初心者と俺は明確に違う。

 MMOは初といえどVRで3Dアクションゲームをするのは大の得意だ。


 この程度の変則機動なら簡単に捉えられるがそれじゃ効率が悪い。

 敢えて他のバウンピッグに近付きながら目の前のバウンピッグを捌く。

 適度に挑発してどんどんと周囲のバウンピッグを一つに纏めてゆく。

 突進してくるやつを倒すなら捕まえるよりも……


「いらっしゃいませこんにちはァ!」


 突っ込んで来たところをまとめて叩き落とした方が早い。

 右に左に手に取るようにバウンピッグの動きがわかる。

 モンスターと言っても短気なプレイヤーと大して変わらない。

 挑発すれば乗ってくるしすぐに隙を晒す。

 ターン制のゲームであればそれで十分なんだろう、でもここはVR、ドラグラだ。

 

「はい7レベェ!」


 しゃがんでから突き上げるようなパンチを繰り出し、跳んで来たバウンピッグのお腹を捉える。

 控えめに言って敵無し。素手で十分だった。

 

「はい10レベェ!」


 効率を追い求めた結果、一度のパンチで2匹のバウンピッグを屠り、殴り飛ばしたバウンピッグを別のバウンピッグに当てることで回転寿司のように次から次へと経験値が突っ込んで来るようになっていた。

 

「うーん、流石に渋くなって来たなぁ……」


 レベル上げスタートから30分。早くもバウンピッグの限界が見えてきた。

 最適化されてるとはいえこれをやり続けるよりもう少し美味しい敵を探した方がいいだろう。

 始まりの竜原の手前のエリアから奥のエリアへ移動する。




 そこはさっきまでとはプレイヤーの質が違った。

 手前のエリアとは違い、動き回る敵に振り回されることなく自分を軸に戦っていた。

 どうやらバウンピッグは始まりの名を冠するこのフィールドに出現する最初の壁として大いに役割を果たしていたようだ。

 

「ちょっとは骨がありそうか?」


 人というには小汚く、亜人というには肌の緑が深すぎる。

 デフォルメされていても所謂ゴブリンと称されるそのモンスターは棒に石を括りつけたような鈍器を手にしていた。


「先手必勝!」


 ギャヒ!?


 驚きに染まる顔にまずは1発。

 続けて繰り出した俺の十八番、足払いはゴブリンに転ぶ暇すら与えず宙に浮かせる。

 浮いた体に肘を当て、叩き落とし、跳ねた体に再度拳を突き出す。

 越冬仕込みのトレモコンボだ。

 もちろん完走すれば倒せるだろうが、ドラグラにまで越冬をしに来たわけじゃない。


「ここからはオリジナルだァ!ゴブ公!」


 ゴブリンの腹に掌底を叩き込むと同時にその原始的な得物を取り上げる。


「返してやる、よっ!」


 吹き飛ぶゴブリンを無視して原始的な鈍器を空に向かって投擲。

 水を切る石の如く地面を跳ねた後、ゴブリンは自分が蹂躙されている事実に気付き肩を震わせる。


「悪いなゴブ公、チェックメイトだ」


 怒りを露わにするゴブリンに俺は親切に空を指し示してやる。

 ゴブリンは律儀にハンドサインに従って上を向き……遅れて帰ってきた自分の得物に頭を潰されポリゴンとなって霧散した。


「うーん?あんまり美味しくないな……」


 粗悪な天剣降臨を決めた俺は必要な手数の割りに美味しくない経験値を見て更に奥の方を目指した。

 



 奥とは言ってもさほど歩く事はなかった。

 それは何故か。


「これは……何事だ?」


 頭にでっかい薔薇を咲かせ、その身を茨の鎧で覆った巨大な猪豚、ブラッディローズボア……とそれに群がる大量のプレイヤーがいた。

 パッと数える限り10、20……あ、1人死んだ。

 だいたい30人ぐらいでブラッディローズボアとやらを囲っていた。

 あ、また死んだ。


「へいアルボ?あれは何?」


「はいご主人なんの……ってどわああああ!人がいっぱい、いっぱいいますっ!」


 困った時はアルボに聞くのが1番だ。

 1番のはずだが今回に限ってフリーズしてポンコツ化していた。

 なんだ?モフっていいのか?そういうことなのか?


「おーいアルボ先生、生きてるかー?」


「……はっ!なんですかご主人!」


「あの集まりはなんだ?」


 叩かずとも直る、流石うちの子だ。

 しかしモフり損ねたのは痛い、あの謎の集団に対する好奇心が抑えられなかったのが原因だ。


「始まりの竜原にブラッディローズボア……わかりましたっ!あれはフィールドボスです!」


「フィールドボス?」


「マップで見ればわかりやすいですが、フィールド上に一体しかいない強力なヌシのことです!」


 とどのつまりあれか、中ボスが各フィールド毎にいるという話か。

 え?このゲーム、ボスを集団でしばけるの?


 ──周辺チャットを傍受しました。音声を聞きますか?


 あ、チュートリアルでやったところだ。

 街の中とかと同じようにうるさくなり過ぎないように文字として閲覧するか音声として聞くか選べるらしい。

 戦闘中、文章を読むなんて器用なこと出来る自信がない。ここは多少うるさくても音声で行こう。


 ──どんどん突っ込め!死んだやつからマラソンだ!

 ──アホか!薔薇豚の前と後ろには立つな!消し飛ばされるぞ!


 薔薇豚て。

 離れた位置にいるにもかかわらず指示を出す声が頭の中に直接響いた。

 目の前は既に戦闘の真っ只中だ、

 勇敢なバカを弔うように指揮を取っているおじさんは声を荒げる。

 時には死んでいったバカを嗜め、反面教師として言い聞かせる。

 まさしくそこは戦場だった。


 ──なにボーッと立ったんだそこの初期装備!復帰したなら突撃だ!

 

 指揮を取っているおじさんに目を付けられた。初期装備でも駆り出すのかよ。

 突撃?当たって砕けろ?

 随分と脳筋な指示を受け俺はアルボを戻す。

 漲る感覚を確かめ、戦場に走り出した。


「やってやらァ!」


 郷に入っては郷に従え。

 脳筋戦法は嫌いじゃない、これが多人数戦闘のやり方というなら喜んでやってやろう。


 周囲のプレイヤーの面構えを見て悟る。

 人海戦術?いやいやこれは。



 ────ゾンビアタックだ。



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