武士道とは死ぬことと見つけたり、ただしペナルティがつく
「2度目ましてだバカヤロー」
体に血が通うような感覚で起き上がる。
ひと足先にリスポーンしていたイチノセに文句という名の挨拶をする。
「いやぁ〜、一矢報いたっスね〜!」
イチノセは心底気持ちよさそうに笑う。
殺されるぐらいなら自決しようってか?トンだ武士道精神を持っているらしい。
嫌いじゃない考え方だが、自決2人前は単なる無理心中だ。
「死んでもデスペナとかなさそうだからよかったけど、自決の強制は無理心中って言うんだぜ?」
「あーヨバルさんデスペナなかったんスね、よかったっス」
イチノセが怖いことを言い出した。
デスペナとは死んだ時に課せられるペナルティの事でプレイヤーに緊張感を与えるためにRPGなんかではよく使われているシステムだ、だいたいのゲームでは設定されていないか所持金が減るというものだが……
えっ、何その安堵した雰囲気は、何をロストしたの?
「え?あるの?デスペナ」
「お金とか経験値は減らなかったんスけど……所持アイテムが結構イカれたっスね……」
ドラグラにおけるデスペナはアイテムを落としてしまう事らしい、それって結構厄介じゃないか?
今ばかりは1レベで何も手にしていない事に感謝だな。
とすればイチノセが凹み気味なのはアレが理由か。
「大事なモノでも落としたか?」
「思い出とかそういうモノじゃないんスけど、せっかくまだ誰も手に入れることの出来ない素材でチヤホヤされるチャンスが……消えたっス」
邪だった。弾バカにも下心はあるらしい。
いや、名前に二つ名を入れるぐらいだ。下心の権化と言っても過言じゃないか。
しかし俺たちは一瞬とは言え最先端を走ってたのか、それは惜しい事をしたなぁ……
あと数フレーム反応が早ければガチ勢ひしめく初日にして1位になれたって事……ん?
「つまりイチノセがあの時焦ってたのってそれ?」
「そうっスね」
「あの、俺なにも持ってないんだけど……」
「……?まあパーティとか組んでなかったんでしょうがないっスね」
おいおいおい、そんなのありかよ。
自分で言うのもなんだが結構貢献したはずだろ?
あのクソデカゴーレムを地面にはっ倒し、スカイダイビングでは死傷者ゼロに抑えた、偶然とは言え俺が蜘蛛の糸を受けてなかったら最後の花火心中もなかったわけで……
それが、ゼロ?結構頑張ったぞ?それが1レベ?所持品なし?集合写真撮った時から変化なし?
おいおいおいおい……
「俺の手柄はぁぁぁぁぁああ!?」
悲痛な初心者の鳴き声が大聖堂全域に響き渡った。
「じゃあこれでいいっスか?」
ごねにごねた結果、俺はMMO初心者というカードを切ってなんとかイチノセから分け前にあずかる事に成功していた。
冷静に考えれば共闘しているとは言え赤の他人。システム的な恩恵を受ける事は難しいとわかるのだが、どうしても納得行かなかった俺はドロップした素材ではなく金をせびった。
「おう!ありがとなイチノセ!」
「またどこかで会えたらいいっスねー」
周りから突き刺さる視線に耐えきれず、イチノセに大きく手を振って大聖堂を後にした。
みっともない?なんとでも言うがいい、俺は賃金も無しで働く気は毛頭ない!
高くつくはずだった授業料をボーナスで相殺し、スキップで街を往く。
「なあアルボ、聞きたいことがあるんだが」
人の少ない道に入りアルボを召喚する。
「なんですかご主人?」
「さっき一緒にいたイチノセってやつの名前が黄色だったんだがあれは何?」
取引をした時にチラッと見たら俺の名前は緑色だったのにイチノセは黄色だったのだ。
イチノセはケロっとしていたところからMMOではごく当たり前のものなのだと推測出来るが予想が付かない。
「それを説明する前に一つ、ご主人はPKという言葉を知っていますか?」
「ペナルティーキック?」
「それはサッカーですよっ!?……こほん、このゲームにおけるPKとはプレイヤーキル、またはプレイヤーキラー。つまりプレイヤーの手によって他のプレイヤーが倒される事を意味します」
対人ゲーをやっている身からすると不思議な感覚のする言葉だな、プレイヤーは倒すべき相手の一つだし。
ドラグラではプレイヤーというのは敵でも切磋琢磨するライバルでもなく共にこの世界を生きる仲間ってことか。
いや、仲間でも殴り合うこととかあるだろう。
「アルボ、もし俺がこの拳で人を殴ったらどうなるんだ?」
「えぇっ!?本気ですかご主人!?……そうですね、殴るだけならなんともないですがうっかり倒しちゃうと名前が変色しますね」
なるほど、あくまでPKをしてしまった場合のみってことか。
とするとこの色は……
「変色ということは段階的に変わったりするのか?」
「鋭いですねっ!先程のイチノセさんのように一人倒すと黄色になります、黄色状態では1週間以上PKしなければご主人のような緑色に戻ります!」
執行猶予みたいなものか、本当に犯罪みたいな扱いだな。
それにしてはヤケにケロッとしていたような。
「名前が変色した時のペナルティとかはないのか?」
「基本的には目印になってしまうぐらいですね!危ないプレイヤーとして皆さんに避けられる傾向があると聞いてますっ!あとNPCからの扱いが悪くなります、場合によってはお店を利用できなくなったりとか!」
「それはちょっと困るなぁ……」
前者はともかくとして後者は結構キツそうだ。
サラッと流されたが今この街を見てきた限り、結構な数のお店の看板が吊り下がっていた。
NPCからの扱いか……ナビと同じAIが使われてたとしたらほぼ人だろ?冷たくされたら泣いちゃいそうだ。
「なあアルボ、お前はNPCなのか?」
「私は……どうなんでしょうか。ご主人から出来ているので半分プレイヤーみたいな?なんちゃってっ!」
濁しだしたアルボにジト目を送る。
PKがアルボに嫌われるのかどうか、それが一番重要だ。嫌われるのなら不殺を掲げたっていい。
俺の視線に耐えきれなくなったのか、アルボは尻尾と手をブンブンと振りだした。
「えーっと!えーっと!多分NPCですっ!でも例えご主人が真っ赤っかになっちゃっても気にしませんから!安心してくださいね?ねっ?」
「よーしじゃあ早速行くか!」
「えぇーっ!やっちゃうんですか!?ご主人!?ごしゅじーーーん!」
後ろで何やら慌てているが不殺の誓いを不発にしただけなので勘違いというやつだ。
俺は大通りの人の波に乗って目的地へ向かう。
「待ってくださいごしゅじーん!」
アルボがわたわたしながら駆けてくる。
人の波に流されないように走る様は必死でとてもかわいい。
不憫さが勝つ前にアルボを戻す事にした。丁度目的地にも着いた事だし。
「これが本来の姿だよな!」
そこにはゴーレムもいなければ滝壺ドラゴンもタマザナイもいない。
如何にも最初のフィールドって感じの敵とぎこちない動きのプレイヤーが跋扈していた。
「負ける気がしねえ!」