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残り火よ、在りし日を燃やして 二十九

18フレームの煌めき



 不意を突かれたとはいえ上空からヨバルが一撃で腹を貫かれて葬り去られてしまった事実に2人の表情は引き攣る。


「あはは、こりゃまたダイナミックだね?」


「……感心してる場合じゃない。刀の時よりだいぶ厄介」


 跳躍の域を超えてもはや飛翔。太陽よろしく光を放つステンドグラスをバックに放たれた突進攻撃。突きが落ちてきたとでも言うべきその攻撃は残された2人の気を引き締めるには十分すぎた。

 

 腹に風穴開けて倒れ伏すヨバルからハルバードを引き抜くと、血を払うような動作を見せてゆっくりと2人の方を向く。

 圧倒的な威圧感を前に2人は心の中で聖火の竜に対する評価を上方修正する。

 Die助はその後衛潰しなのかランダムなのかヘイトなのか基準のわからない聖十字を見て。

 キルナは灰刃の時よりも鋭さを増した技、聖十字を見て。


 聖十字を見る目はそれぞれ()()()とまるで違う角度からのものだったが、2人が次に思い浮かべた事は一致していた。


「……Die助」


「ああそうだね急がないと、ねっ!」


 それはヨバルを迅速に戦線復帰させる事。

 

 間合いなどあってないようなそんな超リーチを誇る突きをDie助は盾で受けると、灰とぶつかったとは思えない硬質な音を響かせる。

 

「どれだけ痛いのか想像もつかないけど、今ただの突きを通すワケにはいかないんだよね!」


 もうやり直したくない。そんな思いから2人はヨバルの蘇生に奔走する。

 仮に第三形態が初見でなければ、或いはDoTダメージがなければ。2人の行動は違っていたかもしれない。

 しかし現在進行形で新しい技は飛び出し、この空間にただ存在しているだけで代償とばかりにHPを払わせられる。

 2人で倒すには聖火の竜は少しばかり荷が重かった。

 今ならまだ気合いで蘇生を通す事が出来る。2人のHPに余裕があり、聖十字以外にまともにDie助の強固な盾を打ち破る手段がない今なら。


「炎に刀に槍?いくつも使いこなせて器用だね!不器用な僕にもちょっと分けて欲しいよっ!」


 何度も突き出される切先をDie助は片膝ついて真正面から受け止める。

 どっしりと構えているのにもかかわらず、一撃受ける度にジリジリと後退させられる。

 ノックバックを引き起こすほどの怪力に対してDie助は一撃の合間にほんの少し、前に進む事で距離を維持。

 それはやがて少しずつ前に押し返し始める。


「ゴリ……押せ、るほど……タンク専のっ!盾は……薄く、ないっ!今!」


 徐々に詰められた事で一方的に切先を押し付けていたはずの聖火の竜はいつのまにか()()()()()()()

 突き出されるタイミングを完璧に見切ったDie助は盾に切先が触れる直前、受ける角度をズラした。

 硬質な音を鳴らし、鋭い突きと盾が衝突する。

 Die助は引き戻す事をヨシとせず、完璧なタイミング、完璧な場所でパリィした。

 

 走り出していたキルナが大きく体勢を崩しよろめいた聖火の竜の脇を抜き去る。

 

「タウント!シールドバッシュ!」


 遅れてDie助が盾を前に突き出して突進する。

 自身が最大限聖火の竜からのヘイトを集めたタイミングでの挑発スキルに更にヘイトとスタンを欲張るシールドバッシュ。

 

 鎧に勢いよくぶつけ、聖火の竜を軸にぐるりと回り位置を変える。

 スタンこそ鎧に阻まれて入らなかったものの位置関係は最良。キルナと倒れたヨバルを庇う事が出来る位置で張り付いた。


「出来ればもうちょっとだけ僕にタンクの仕事をさせてくれると嬉しいかなっ!」


 崩れた体勢から持ち直した聖火の竜は密着するDie助を()()し、右腕を引く。

 それはヨバルが引き出した掴みの動作。

 右手に槍を持つ今、それが蘇生を行うキルナを貫こうとするものだと気付いたDie助が体を投げ出し、間に盾を滑り込ませる。


 間一髪。


 土壇場でゲームオーバーを防いだ事で念願の蘇生が通る。


「……ナイスフォロー」


「我ながら完璧だったと自負しているよ」


 倒れていたヨバルが命を吹き返した事で上体を勢いよく起こす。

 

「さ、攻守交代といこうか!」















 2人の献身のおかげで黄泉の国から舞い戻った俺は急いでポーションを割り、その場から飛び退く。


「サンキュー2人とも!」


「いやいや、ヨバル君が欠けて困るのはこっちだからね」


「……活躍に期待してる」


 一度も振り向かず2人は微妙に謙遜する。

 死んでからも見ていたから2人が必死こいて蘇生を通した事を俺は知っている。


「空を纏いて我が想いを為せ、飛翔せよ!」


 エアリアルを発動し、ポーション片手に前に出る。

 大丈夫、俺がサンドバッグ兼残機要員として蘇生されたという事はよくよく理解している。

 だからまずは2人が体制を整えるまでの時間稼ぎ(恩返し)から。


「知ってるか?回避できるアクションゲームにおいて先端にしか判定のない超リーチっていうのは諸刃の剣なんだぜ!」


 予習する時間はたっぷり貰った。

 伸びる突きを前に倒れ込む形で避けると、一気に肉薄する。

 どれだけ長い攻撃も接近してしまえば振りの大きい隙がデカい攻撃だ。

 

 微かに露出した鱗部分を狙うがバクステで距離を開ける事で対応される。

 とはいえそれは想定済み、一歩深く踏み込み無理やり黒い炎をぶち当てる。


「ちっ!流石に通らないか」


 逃げる相手に十分な力で押し込む事が出来ず、黒い炎は鱗の表面を炙るだけに終わる。

 それどころかバクステに対応されたとわかるや否や聖火の竜は距離感のバグった俺を引き剥がすようにハルバードを地面に突き立てた。

 

「【炎還】」


「ヤケクソかよ!?」


 目の前に獲物を突き刺し、観念したかと思えば遠距離全体攻撃の名をこの状況で口にする。

 至近(この)距離では見てから避けてちゃ間に合わない。

 思い出せ、今までの攻撃を。数ある選択肢から最初に選ぶルートを。こいつの癖を。

 ふと首に刃物を当てられたかのような冷たい感覚をおぼえる。

 狙いは……首だ!

 

「首刎ねェェ!」


 純白の鎧の下から炎が吹き出し、燃える波紋が高い位置から生み出される。

 首刎ね一点読みで仰け反った体のすぐ上を赤く燃える波紋が通過。

 曲芸じみた回避から勢いそのままに地面に手を着くとバク転し、体勢をリセットする。

 再び聖火の竜の方へ目を向けるといつのまにかその姿はなく、そこに在ったはずのハルバードも消えていた。


「……この動き」


「おいおいやりたい放題すぎるだろ……」


「キルナちゃんも警戒!誰に落ちてくるかわからないよ!」


 落ちてくるとすればそれは何か?答えは俺たちの遥か上にあった。

 上空では既にステンドグラスに彩られた光を受けて乱暴な構えが取られていた。


 その攻撃には苦い思い出しかない。思い出すだけであったまって来た。

 なんだよその絶対届かない位置からの貯め攻撃、ノーリスクで高速の突進技を放ってんじゃねえよ、初見でそんなん避けれるワケねえだろ。

 だいたいどこがクロスなんだ、ただ判定デカくして強くした突きだろ。


「【聖十字】」


「ヨバル君!」


「今度はちゃんと避けます、よっ!」


 狙いはまたも俺、もう一回黄泉送りとでも考えているのならコンビニ弁当の底よりも浅い。

 今度の俺はエアリアル状態、タネが割れてる攻撃を喰らうほど柔じゃない。

 

 飛来する黄金の一突きを飛んで避けると、聖火の竜は意にも止めず切先に纏った黄金を振り払った。

 振り払われた黄金は2本の道を描き、十字を作り上げた。


「はぁっ!?」


「あ〜これ多分避けない方がよかったやつ、かな?」


「……踏んでも痛くない」


 5秒前の俺の疑問に律儀に答えてくれたらしい。

 殺意マシマシの聖十字は(はな)から避けられる事を前提に完成する技だった。そんなの誰がわかるって言うんだよ。

 じゃあなにか?俺はパリィでもすればよかったのか?いや俺が持ってるの不定形の黒炎の剣だから多分出来ないけどさ。

 いけないいけない、暗黒面が飛び出してしまうところだった。ポーション飲んでクールダウンしよ。


「みんなはこの十字どう捉える?僕としては数秒後に十字が爆発するか十字の外が爆発するかかなって思うんだけど」


「爆発しかないのかよ、でもまあ俺は十字から離れた方がいい派閥だな」


「……私も」


 踏んで何もない以上、ただ敵に塩を送るとは考えづらい。

 どんな裏があるにせよこういうのは関わらないのが1番だ。


「お前もこっちに……ってなんかあいつの持つハルバードなんか光ってない?」


「なんかどこかで見た光景だね?」


「……来るよ」


 ヤツのハルバードはキルナの流星の一撃(メテオストライク)に酷似した状態、即ち金色の光を纏った強化状態にあった。

 そして武器を強化してやる事と言えば一つ。


「お前それ自己強化だったのかよ!」


「……ファイト」


「ほら、回避タンクの腕の見せ所だよヨバル君」


「嬉しくねえええええ!」


 閃光を纏った一閃に次ぐ一閃。冗談みたいな連撃が俺に殺到する。

 首、足、胴、真っ二つ!

 即死の閃光を最小限の動きで躱して行く。

 狙いこそわかりやすいものの見た目よりも巨大化した判定と流星の一撃(メテオインパクト)に酷似した見た目の圧は凄まじい。

 頭を屈め、足を揃えて飛び、着地と同時にしゃがんで斜め後ろにバックジャンプ。

 眩い閃光が頭上を通過した後にはオレンジの髪がいくらか舞うのだから瞬きすら満足に出来ない。

 一瞬でも頭か足を止めれば0.3秒……フレームにして18フレーム前の俺がバラバラに切り刻まれる姿が脳裏に浮かぶ。

 いくらゲームと言えどとても喰らいたくはない。そんな暴刃域がどんどんと迫ってくる。


 息つく暇もないギリギリの攻防は一見完璧に捌けているように見えて、俺が不利を背負っている。

 その原因はキルナの時とは攻守が反転していた事にある。

 どれだけ最小限のアクションで済まそうと、後ろに逃げる俺と前に詰める聖火の竜では前に詰める方がいくらか早い。

 加えてそのバカでかい図体による踏み込みとリーチの長いハルバードの刃による連撃。

 一閃の後隙は次の一閃で埋められ、避けても踏み込みによって俺との距離も徐々に埋められてしまう。

 18フレームの煌めきは着実に俺を追い詰めていた。

 


 

 状況が一変したのは俺が避け方にすら気を遣えなくなった頃、踵が聖十字を踏んでしまった時の事であった。

 

「やべっ」


 バックジャンプからの着地のタイミングでエアリアルの効果が切れ、重心制御を間違えるという凡ミスを犯し、自分でもわかるほどに体勢を崩してしまう。

 そんな特大の隙を目の前の敵が許してくれるはずはなく、いま1番狙われると困る足元へと閃光が振るわれる。

 

 ……間に合うか!?いや、ここはエアスライドだ!


 咄嗟に出すはこれまで幾度となく俺を窮地から切り抜けさせた相棒エアスライド。

 しかしそのエアスライドはこの肝心な場面で沈黙した。

 

「なっ──」


 不発を悟った俺は急いで地を蹴って一閃の回避に成功するも、その体勢は崩れに崩れていて危惧していた事が起きた。


 ハルバードは斧と槍、両方の性質を併せ持つ。

 斧では間に合わない些細な後隙を、斬り返すよりも早く、深い槍の一撃は容易に捉えた。

 空中で隙を見せたが運の尽き。地面から浮いた無防備な俺に閃光が迫る。

 え、俺また腹貫かれて死ぬの?


 嫌な記憶が蘇ったその時。


「光の盾!」


 Die助の呼び出した半魂が俺と閃光の間に現れる。

 踏み込みによって加速した一突きは半魂程度の盾では豆腐同然と言わんばかりに切り裂いてしまう。

 しかしそれでもほんの一瞬、切先が俺に届くまでにラグが生じた。


「エアスライドォォォ!」


 刹那に願いを込めてエアスライドを再発動。

 想いのデカさ故かそれとも声のデカさ故か、エアスライドは俺に応えて一陣の風を吹かせる。

 

 放たれた一筋の閃光は空を切り、ぶつかるはずの支えがなくなった聖火の竜は大きな隙を晒す。


「キルナ!あれ壊せ!」


「……流星の一撃(メテオインパクト)


 灰刃の最後を思い出し、武器破壊が区切りだと踏んだ俺はキルナへ最速で指示を飛ばす。

 俺のエアリアルが切れてしまった以上、もう誰もあの金色に光る一撃を捌く事が出来ない。

 かろうじて出来たとしてそれはDie助がパリィ出来るかどうかと言ったところ。

 ならばこの一瞬で蹴りをつけるしかない。


 キルナ、元凶を破壊しろ。

 俺たちを全滅させうるあの忌まわしき槍もどきを葬り去れ。


「……邪道は叩き斬る」


 本家本元青白い閃光が金色の閃光に迫る。

 

 ハルバードは槍と斧のいいところを組み合わせて使いやすくしたもの。

 悪く言えば振り切れていないそれをキルナの目は邪道と捉えたようだ。

 どう考えても人の事を言えないようには見えるが、キルナの目は至って真剣(マジ)だった。


 聖火の竜はなんとか構え直すがもう遅い。

 慌てて迎え撃った程度ではキルナの助走をつけた全身全霊の一撃と正面勝負するには足りない。

 想いも出力も、重さも。


「……覚悟」


 正面から衝突し、混ざり合ってどちらとも区別のつかない光が撒き散らされる。

 それも一瞬の事。すぐに青白い光が金色の光を飲み込んだ。


「嘘、だろ……?」


「あ、あはは……」


 キルナの一撃は灰の槍を完膚なきまでに破壊し、それだけでは飽き足らず純白の鎧を凹ませていた。

 当の本人はまるで涼しい顔をしたまま……ぽつり。一言呟いた。


「……格付け完了」


 もう笑うしかない。

 なんか始まる前より強くなってないか?こっそりステータスでも振ったか?


「なんか……ほんとに勝てそうな気がしてきたね」


「あぁ、いま俺も同じこと考えてた」


「……私が勝たせる」


 それはもう意気込みの類ではなく、事実へと変わり始めていた。

 あと何回凌げばいいだろう。あと何回打ち込めばいいだろう。

 初見も初見、わからない事だらけだ。

 だがこの火力があれば確実に倒せる。俺たちの心はキルナという圧倒的エースの存在によって一つになっていた。


 しかし聖火の竜とてそう簡単に倒されるつもりはなさそうだ。

 再び鎧の下から蒸気を出して立ち上がる。

 掲げるは()()

 これまで炎還を除く全ての技を右手から始動していた聖火の竜が左手を掲げた。

 その違和感に気付ければそれが初見の技が飛んでくる合図だと気付けるだろう。

 

「気をつけろ……また新しい技が来るぞ」


「さあ鬼が出るか蛇が出るか」


「……私は福が出て欲しい」


 掲げた手を握り込み、更に上から右手で包み込む。

 鉤爪のように尖った外見からは想像も出来ないほど柔らかく優しい印象を覚える。

 そして包み込まれた手はゆっくりと降ろされ、装甲の一番厚い箇所……胸の前で止まる。

 ひどく見覚えのある祈りのポーズ。

 

「鬼畜な場合は鬼に含まれるよな?」


「含まれるんじゃないかな?」


「……鬼は外」


 そのポーズが意味する事は俺たちにとっては初見殺し、ギミック、性格最悪と書いてハッピーセットを意味していた。

 お手柔らかにお願いしたい。切実に。



聖十字は発動と同時に燃成によって出来た武器を強化します。

本来次の攻撃を強化する技ですが、外すと地面に向かって発動され十字を生成し、一定時間経過するか地面の十字か灰武器のいずれかを破壊するまで強化状態になります。

加えて十字の上ではスキルや魔法の発動が出来ません。パーティで攻略する際は分断に気をつけましょう。各個撃破されます。

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