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残り火よ、在りし日を燃やして 二十七

ここまで前座ァ!(66話)



 なにあれなにあれなにあれ。灰ってあんな生き物みたいに動くものだったか!?

 目の前のジャンル違いな光景は今まさにナニカが蘇ろうとしている事を強烈に植え付けてきた。


 隣を見れば2人は笑っていた。

 引き攣った笑顔を浮かべるDie助に、抑えているつもりでも口角だけが釣り上がったキルナ。

 どうした事か、俺のパーティメンバーはお手本のようなホラゲーの住人(あっち側)の反応をしていた。


「あー……第三形態、ある感じデスカ?」


「……そう来なくっちゃ」


 灰の山はだんだんとその形を大きく膨らませ、やがて限界を迎えたように……弾けた。

 

「うわっ、目がー!目がー!」


 吹き荒れる灰は一帯を飲み込み、灯りという灯りを全て埋め尽くし、微かに見える希望までもを塗り潰さんとしていた。


 目を開けば存在感を放っていた祭壇はなくなっており、いつしか俺たちは灰に塗れた大聖堂に立っていた。


 ステンドグラスの存在も、道のように伸びた一筋のカーペットも、全ては吹き荒ぶ灰によって確認はおろかそれらが存在しているのかすらわからない状態になっていた。

 それでも大聖堂だとわかるのはこの上に広い独特な設計とだだっ広い空間に生えるいくつもの太い柱が見えるからだろう。


 そんな仄暗い大聖堂の真ん中に、突然柱が現れたかのような芯のある透き通った声が響く。


「その臭い、竜の末裔か」


 人の手とは思えないほどゴツゴツして尖った指先から火の玉を浮かべ、こちらには一瞥もくれずに独りごちる。

 威圧感からかぴくりとも体が動かず、俺は唯一の灯りに目を釘付けにされる。


「世界に抗う勇敢なる者よ、其方は火を宿しているか?」


 何か重要な問いかけである事だけは認識出来るが、そこまで頭が回らない。っていうかぶっちゃけ考察の類は頭脳を担当したと自称するDie助にでもぶん投げたい。

 とはいえ前後の文脈を知らずともこの質問が覚悟の類を問うて来ている事だけはわかる。

 故に「はい」と答えるためにゆっくりと口を開こうとするが、俺は仄暗い闇の中に照らされるその姿を見てしまった。


「……ッ!」


 照らし出されるは全身を覆う立派な純白の鎧。

 ゴツゴツとした指はこの鉤爪のような随分と攻めた鎧によるものだと気付く。

 攻めているのは指先だけではなく、随所で存在感を放つ輝かしい黄金。鎧というにしては少し薄い装甲。

 恐らく()()着用していた人間が高貴で身のこなしが軽かったのだろう。

 

「無知……其れもまた一つの幸せという事か」


 バケモノ、バケモノと来て今度は騎士?随分とやんちゃなお嬢様がいたものだ。

 イグニアを見るにこのやんちゃぶりではお嬢様もまた聖女という座をしっかりとは務められてはいなかったのかもしれない。

 イメージを元にかろうじて聖女の面影を追うのであれば、元は修道服であっただろう生地を畳んだ翼のように左の肩から伸ばしているところぐらいだろうか。


 しかしその高貴な鎧は決してハリボテではないと直感的に理解出来る。

 凛々しいとでも言うべきなのだろうか?引き締められた声からは確かに騎士の貫禄を感じさせられた。

 それがどうして……


「されど盟約は盟約。人に仇なすものは未だ目覚めぬ卵であろうと……」


 ……こんな姿になったのか。

 全身を純白の鎧で覆ったその体はゆうに八尺を超えている。

 攻めた鎧からところどころ覗く肌は人間のものとは言い難く、インナーにスケイルアーマー着込んでますとかじゃない限りドラゴンであると認めざるを得ない。

 それでも俺がドラゴンだと称さないのは見上げればみえる下半分がない兜から一文字(いちもんじ)に結ばれた口、光り輝く髪が確認出来るからだ。


 ……うん、これあれだ。完全に融合しちゃってるね。

 竜というには人すぎるし、人というには少しかけ離れている部分が多すぎる。

 アルボを生み出した種族混成なる闇鍋ガチャを思い出すが、その雰囲気は少し……いやかなり違う。

 適切な言葉を探すならなんだろうか、ドラゴニュート?竜騎士?


 今まで一瞥もくれなかった巨体が火の玉を握り潰しこちらを向く。


「我が火に懸けて──排除する」



 ──聖火の竜Lv.80



「……使う時来ちゃったよ、黒炎の剣(借り物の力)


 やっぱ想定済みじゃねえか!なんなら聖火になってちょっとパワーアップしちゃってるし!

 思っていたのと随分と違った形で現れた火竜に内心叫びながら、インベントリから火竜に対する特効()()()()と思われる剣を取り出す。

 

「あっち!よりによって自傷系かよこれ……!」


「ヨバル君、来るよ」


 案の定見た目通り触れているだけで火傷状態になってしまう事に蕁麻疹が出るような思いをするもすぐに意識を聖火の竜へと向け直す。

 第三形態、どこからでもかかってこい!


 聖火の竜はほんの一歩、後ろに下がると天に右手を掲げた。


「聖域<サンクチュアリ>」


 灰に塗り潰されていた大聖堂が……その本来の姿を現した。


「なななななっ!?」


 神々が降りてきた──。

 ただの一瞬でそう錯覚させられた。

 俺の細胞の一つ一つにまでのしかかって来たのはパイプオルガンの幾重にも重なり滲み出た音。

 背筋を正す事も、鳥肌を立てる事すらも許されない。

 ここから先、一歩でも前に足を踏み出したら死ぬ。思考を嫌な方に強制する強烈な存在感。

 聞く重圧がそこにはあった。


 文字通り聖域。

 あれだけ灰に塗れていた大聖堂が一瞬にして黄金に色付き、厳粛で神聖な姿を取り戻した。


「ぁ……ぅ…………」


 ハッキリ言ってこいつはやばい。別次元だ。

 第一、第二形態とは全くの別物。バケモノまでなら叩き殺せる、制作者の悪意までなら踏み躙れる。

 でもこいつはいけねえ!神の領域に片足突っ込んでやがるんだ!

 

 後光差す聖火の竜の背後から燃え盛る炎が一対の翼となって噴き出す。

 人というよりは獣のそれである全身を仰け反っての咆哮モーション。


「【炎還】」


 派手なモーションとは反対に静かに、滑らかに、一瞬で。

 聖火の竜を中心に発生した波紋が燃える。

 動いているのが見えているはずなのに動いていると認識出来ないぬるっとした動きで一瞬にして近づいて来る。


 やばい、死ぬ。

 やっとの事で燃える波紋が俺の首を撥ね飛ばそうとしている事に気付いた時には既に死が目と鼻の先まで迫っていた。


「ヨバル君!」


 背中に衝撃を覚えるとともに俺の視界が地面一色へと変わる。

 土壇場でDie助が俺に無理やり回避をさせたらしい。


「ボサっとしてたら3秒と持たないよ!」


「え?あぁ、うん、そうだな」


「一回死なないと抜けないんじゃない?もう始まってるよ、ほらキルナちゃんを見て」


「キルナ?どこに……」


 言われるがままにキルナを探すも見当たらない。足音すら聞こえない始末。

 一体どこにと思っているとそれは上から聞こえてきた。


「……流星の一撃(メテオストライク)


 青白い光を纏った斧が聖火の竜の肩を捉える。

 直撃した一撃は金属音を天井まで響かせて火花を散らしていた。


「……硬い。いいね」


 渾身の一撃が真正面から受け止められたというのにキルナは笑っていた。


「キルナ……流星の一撃(メテオインパクト)……はっ!やべえぼーっとしてた」


「あはは、いい気つけになったようだね」


 俺は何をぼーっとしていたのか。

 聖火の竜が殴りかかられているところを見て初めてこれが戦いである事を俺は認識した。

 

 やっべ、ポーション飲まなきゃ。



竜騎士(魔法タイプ)

ちなみに問いかけに対しては「はい」「いいえ」「沈黙」の3パターンのルートがあります。

返ってくる言葉と初手の攻撃パターンが変わるぐらいの差ではありますが。

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