残り火よ、在りし日を燃やして 二十六
わっしょーい!で盛り上がってたらめっちゃ遅れました。
あ、そろそろ佳境です。
「あ゛あ゛ぁ゛!」
「えぇ……」
Die助が愉快な死を遂げる一方で残火の獣もまた愉快な事になっていた。
仕掛けておきながら何故か自傷していたのだ。いやほんとに。
「……とりあえず……Die助起こす?」
「そうだな」
気まずくなり2人して残火の獣から目を逸らす。まさかここまで込みの設置攻撃だとはな、おのれ残火の獣め。
俺とキルナはその辺に転がっているDie助を見つけるとすぐに蘇生に向かう。
「「……………………」」
元々口数の少ないキルナとこの状況が掛け合わさる事で静寂が訪れた。
「……これ──」
「なあ──」
なんとも言えない空気に耐えきれず誤魔化しで口を開くも運悪くキルナが喋るタイミングに噛み合ってしまう。普段から独特の間で喋るキルナと、だ。
どうしてこうも間が悪いのか、俺は頭を抱えた。
「あー先いいよ」
「……ん、別に大した話じゃない。蘇生の仕様が普段と違ってびっくりしただけ」
「仕様?」
「……死体もずっと残ってるし蘇生にかかる時間も伸びてる」
そう言ってキルナはDie助に伸ばしていた手を引き戻した。
危ない、全然大した話だった。
俺いま普通に「いま外って晴れてんのかなぁ……」なんてバカみたいな話を持ちかけようとしていた、この真面目な顔で。
「おら飲めー」
「むぐっ!」
運良く貧弱なデッキから貧弱なカードを出さずに済んだ俺はその場で復活したDie助の口にポーションを突っ込む。
蘇生直後はHPが少ない事はよーく知ってる。俺も初心者パーティのヒーラーさんに助けられたものだ。
「……で、そっちは?」
「そっちとは?」
「……さっき遮ったから」
「あー、いや〜……」
一旦しらばっくれてみるも流石に通るワケもなく、ジッっとこちらを見る目に冷や汗を流しながら頭を回す。
いま天気デッキでも出そうものならフルボッコにされるに違いない、そろそろ視線で人を殺せそうだ。
なんとか真面目に考えていたフリをするべく、出来るだけボカしてわかっている風の顔を作る。
「いやーなんて言うか上手く言葉に出来ないんだが、このボス……ちょっと気持ち悪くないか?」
「……ヨバル君も感じるならそういうことなんだろうね」
「えっ」
「え?」
え、なにその意味深な反応。
俺から振っておいてなんだが乗ってこられても困るというか乗った先に何があるかを知らないというか……
うっかりボロを出した俺を置いて、Die助の顔は確信めいたものに変わる。
「第一形態の時からちょっと違和感を感じてたけど、今の……灰花だっけ?あれでわかった」
Die助は続ける。
「このボス、間がちょっと気持ち悪いんだ」
「間?」
「基本的にボスってね、いくつかの通常攻撃……第一形態で言えば飛びかかりと横薙ぎだね。そういうのがあって、プラスアルファで技の類が設定されているんだ」
Die助はご丁寧に「技っていうと今の聖灰とか咆哮とかそういうのだね」と補足を加えながら話してくれる。
今更も今更だ。俺でも……というか何のゲームをやっていたとしてもある程度知っている事だろう。
あまりナメないで欲しいがこの1から10まで話そうとするのはDie助の癖なので仕方がない。
Die助が重要な部分を喋るのが早いかBGMが再び盛り上がりを見せるのが早いかのチキンレースだ。
「それで通常攻撃と技の違いなんだけど、技は通常攻撃に比べてかっこよくデザインされていたり特殊な条件が課せられている事が多いね、僕らで言えばMPだったりステータスを要求されたりってところだね」
「……で、結局何が言いたいの」
おーっと!先に切れたのはキルナ!今レースにおけるダークホースである彼女はこの回りくどすぎる説明に耐えきれなかった!いいぞ!もっとやれ!
気持ちよく喋っているところをキルナの少しイラついた声が遮るとDie助は一瞬、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしてシュンとする。
「結論だけ言うと、残火の獣は僕たちと同じようにDoTダメージの被害を受けている可能性が高い」
「まじで?」
「まじだと思うよ。有名な条件として残りHPの○%を切ったら発動ってタイプの攻撃があるよね?このボスも例に漏れずそれだと思うんだけど……タイミング、変に思わなかったかい?」
「……タイミング?」
「そうタイミング。さっきの灰花、天焦を受けてから随分と遅れて発動されなかった?第一形態、咆哮を繰り出そうとしていたタイミングで倒れた時、僕たちの中の1人でも攻撃をしていたかい?」
予想していたものとは随分と違う答えが返ってきた。
言われてみれば確かに咆哮の時なんて3人とも耳を塞いでいたし倒れようがない。
つまりは……
Laa〜a〜
再び祈りの声が盛り上がりを見せる。
呑気に考察している場合じゃない、攻撃のチャンスだ。
長めの休憩を挟んでも気は抜いていなかったようで、盛り上がると同時に地面を蹴る3つの音を耳に、急いで残火の獣との距離を詰める。
「残火の獣は俺たちの攻撃以外になんらかのダメージを受けている。だったらそれはDoTダメージなんじゃって事だな!」
「そういうこと」
迎え打つ光の尻尾をエアスライドを発動し軽く抜き去ると全身から灰を撒き散らす残火の獣の隣に立つ。
「ついでに言うともう多分死にかけだよ!」
「だろうな!」
天焦!
天焦!
「ちょいとやる気出すのが遅かったんじゃねえかァ?」
その身を崩壊させながらも追い払おうと展開される光の翼。
限界な残火の獣に合わせて連続して天焦が繰り出されるも色々と手遅れだ。
あっさりと背後に回ると、さっきと同じようにタイミングを見て安全に脱出する。
「あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛……ぁ゛」
「じゃあな、次は殴り合えると信じてるぜ」
6度に渡り光の柱に貫かれた残火の獣は弱々しい声をあげて全身を灰に変えて崩壊させる。
──戦闘開始からムービー込みで4分48秒。残火の獣討伐。
後には灰の山だけが残った。
「これは……倒せたっぽいな?」
「いや〜疲れたね」
「……聞いてたのより簡単だった」
「確かにめんどかったけど65レベでそんなに時間もかからなかったし推奨88レベってのは脅かしすぎだよな〜」
「あはは、まあ2人のPSならそんなにって感じだったね。普通のプレイヤーならこんなにあっさりは行かなかっただろうね〜第二形態は特に」
「いやぁ我ながら天焦をぶち当てる発想は神がかってたなぁ……もしかして俺がMVPじゃないか?」
「……1番ダメージ出したのは私。よって私がMVP」
「キルナちゃん、それは極端ってやつじゃない?みんなのために頭脳と盾で献身的に支えた僕がMVPでもいいと思うよ?」
「「それはない」」
「ふふ……なかなか手厳しいね2人とも……」
「うわ何で笑ってるんだよ、ちょっ鼻息荒くするな!」
「……キモい」
「だいたいDie助、第二形態は光って爆発してただけだろ?」
「いやいや光の翼の対処法もボスのからくりも僕が見つけたけどね?」
「あーあー悪い悪い、『なにこれなにこれなにこれ』が面白すぎて忘れた」
「うん?ヨバル君も体験しとくかい?」
「……第二形態は時間稼ぎと逃げ続けるばっかでつまんなかった」
「そうかな?ギミック満載で僕は楽しかったけどね」
「……私は頭より斧を振り回す方が好きだから」
「俺はわかるぞキルナ、殺るか殺られるかの殴り合いが楽しいんだよな」
「……流石ヨバル、話がわかる」
「まあボスというにはちょっと拍子抜けだったのは否めないね、自滅も多かったし」
「しっかしこれで終わりってのも不完全燃焼だよな〜、灰だけに」
「……何言ってるの?」
「ヨバル君、燃え切るから灰になるんだよ……」
「なーにただのジョークに決まってるだろ〜!場を和ませるためのジョーク」
「……怪しい」
「いいかいヨバル君、灰っていうのは……」
「あーあーいいから!もう灰は散々見たから!ほら今もあそ、こ……に…………?」
残火の獣を倒し、適当に駄弁っていた俺たちはここで初めて灰の山へと意識を向けた。
「なあ2人とも……俺の見間違いかな、あれなんか……動いてね?」
「あ、あはは……向こうさんは不完全燃焼だったみたいだね?」
それはゲームが違えばホラー展開待ったなしの展開。現実では決して目撃する事のない摩訶不思議な光景。
確かに倒したはずだった、燃やし尽くされて全身を灰に変えたはずだった。
それだというのに灰は胎動していた。
「……流石、ボス」
何も攻撃を加えなくても第一形態、第二形態ともに5分で勝手にボスが削れて終わります。
ただ終わりが近づくに連れBGMも勢いを増すので、残り30秒を切ると画面上にずっと天焦が落ち続けています。




