残り火よ、在りし日を燃やして 二十五
「全く、作ったやつの顔を拝みたくなるな」
「……絶対性格悪い」
「だよな、人の心ってもんがないよな」
「あはは……」
悪意に満ちた初見殺しをやり過ごし、2人して悪態を吐く。
いつもは宥めて来るDie助も今回ばかりは苦笑いを浮かべるしかないようだ。
そして俺は自らを渦巻く風を持て余していた。
「なあ……どうする?」
「……暇」
「僕らもアレに倣って祈るかい?」
「…………そうだな」
ギミック以外での攻撃完全カット、近づくやつは片っ端から叩き落とし、それでもなお近づこうとしてくる不届き者は強制送還。
無法としか思えないラインナップだがどこか慣れ親しんだものにも見えてくる。
タイムアップ上等と言わんばかりに動かないボス、接近を拒絶する鋼の意志……ガン待ち戦法を愛する者のそれだ。
ハッキリ言って俺たちは今なにもする必要がない。暇である。
エアリアルが勿体無いから遊ぶ程度の事は出来るが……近づかなければ光の尻尾すら飛んで来ないし、近づく主な理由である天焦は今お休み中だ。
その結果ボス戦中とは思えない異質な空間が作り上げられてしまった。
天に向かって合わせた手を掲げ祈る者が残火の獣を含めて4人。
身長差によって教祖とそれを崇める信徒のようになってしまっているがその気持ちはバラバラ。
残火の獣の祈りは恐らくムービーの延長線上だろう。
Die助はクセは強いが真面目なやつなので早く天焦が来る事を祈っているだろう。
キルナは……何を祈っているのだろうか、元厨二病の俺にもその心の内はわからない。意外と何も考えていないかもしれない。今こうして祈っているのもそれっぽいからという事も十分あり得る。体裁に酔う……厨二病とは得てしてそういう生き物だ。
俺は全く別の事で頭がいっぱいだった。このボスを設計した作ったやつの事だ。
DoTダメージに咆哮に強化天焦に光のハッピーセット、それら全てにご丁寧に引っかかる俺たちはまさしく極上のカモ。
楽しくて楽しくて仕方ないだろう。というか俺ならまず間違いなく煽り散らかすようなカモっぷりだ。
ニチャついている顔が目を瞑らずとも容易に想像出来る。
ダメだ、ちょっとあったまってきた。
しかし青筋ばかり立てているのも手のひらの上で転がされているような気がして癪なのでこの異様な光景を写真にでも収めて盛りまくって後で投稿してやる。
性格が悪いやつにはその状況を精一杯楽しんでいるように見せるのが1番効果的だ。
体感では一瞬だったが、気付けば俺を渦巻く風が消えていた。
La〜a〜
「よし来たァ!」
「やっとだね!」
「……遅い」
再び始まる開戦の合図に俺たちは一気に距離を詰める。
ポジションだとかそんなものは知った事か、出来るだけ多くのダメージを与えるべく3人して走り出していた。
退屈はゲーマーの敵。早いとこ第二形態を突破したい気持ちが叩き落とさんと振るわれる光の尻尾を避けさせた。
ガン待ちの構えを取る残火の獣は近づかせないという鋼の意志を以てして第二の策、光の翼を発動させ始めた。
「来るぞ光の翼!」
「2人とも!ボスの後ろに!」
Die助が叫びながら残火の獣の背後へと移動する。
いつか見た無駄に洗練された無駄のない動き……あらかじめ決めていたような初動の速さに驚かずにはいられない。
「なるほど、やるなぁDie助!」
「散々考える時間あったからね……!」
Die助は想像していた以上に真面目だった。
さっきの祈っている間に全力で頭を回したのだろう、Die助の考えていた動きは残火の獣を壁に強風をやり過ごし、同時に天焦をなすりつけるという完璧なものだった。
天焦!
足元に3つの光の円が重なる。
ああ、1発しか来ない事のなんと惜しい事か。重なる3本の光の柱、その身で受けたら一体どうなってしまうのか。
「……今」
「あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!!」
キルナの合図で光の円から抜け出す。
未だ吹き荒れる風に流され自動的に天焦から遠ざかると光の柱に貫かれて大きく仰け反る残火の獣の姿がバッチリ見えた。
焼かれながらも祈り続けているところは流石と言うべきか。
「うおおお完璧だ!」
「倒せなかったのは惜しいけどこれならすぐに倒せそうだね!」
「……そういうの、フラグって言う」
今度こそ見えた勝利の兆しにキルナが縁起でもない言葉を挟む。
フラグって言うのは言っても言わなくても変わらないのだ。さっき身を以て学んだ。
どうせ決まっているのならとりあえず喜んでおいて損はないだろう?
それに……
「大丈夫、フラグだったならす、で、に……?」
「……ほら」
残火の獣が天焦被弾から遅れて震え始めた。
ヒーローじゃないのだからわざわざタイミングをズラさないで欲しい。
震える残火の獣の全身が崩れ始めていた。
体から灰色のポリゴンのようなものを辺りに振り撒いている。
チリチリと舞うそれは俺が知る言葉で表すなら灰のような挙動をしていた。
そんな灰を撒き散らし続ける残火の獣がここに来て初めて動いた。
上を向いていた頭部が下を向いた。動きとしては僅かなもの……だがそれは天に祈る事をやめた事を俺たちに告げていた。
「灰゛花゛」
「元気なことで……!」
煤けているものの芯のある声で短く灰花と呟くと、辺りに灰色の花が現れた。
まさか本当に灰だとは思わなかったが、代わりと言うべきか花が想像とは異なり、蕾の状態だった。
「ヨバル君!後ろ後ろ」
「な──にぃっ!?」
灰の花は残火の獣を囲むように生えるだけでは飽き足らず、振り返ればあちらそちらに生え視界をこれでもかと埋めていた。
流石に面の一つでも喰らってしまうが、すぐにそのわかりやすい共通点に気付いた。
……灰の花は天焦で焼け焦げた地面の中心から生えていた。
「2人はどう思う?」
「放置はしたくないところだが…………」
「……刈り取るべき」
灰で出来た花を前に頭を悩ませる。
光の翼の挙動から見てこの灰の花が蕾状態なのは明らかにナニカが来る予兆だ。
普通なら設置技は処理が出来るタイミングで処理して極力板挟み状態を作られない事が大事なのだが……
しかし悪意に満ちたこのボスなら「残念殴ったらアウトでーす」なんて言ってきてもおかしくはない。
とは言え放置をすればまずよろしくない未来が待っている事は想像に難くないため俺も腹を括るしかない。
これで死んだら中指立てて全力でふぁっきゅーとでも叫んでやろう。
「近いやつからやってくぞ!炸裂しろ!」
俺たちの周りにあるのは9個の蕾。そのうち3個は少し距離があるから後回し。
早速2個破壊しているキルナに続いてイグニスプロードを発動、命中すると何の問題もなく灰のように空へと舞消えた。
「シールドバッシュ!あれ…?」
「反発せよ!くそっ、それはもうダメだ!」
一方でまずかったのはDie助。
スキルを使って精一杯殴りつけるも灰の花が消える事はなく、むしろ攻撃を受けた事で蕾はあっという間に花開き、咲いた花は攻撃を受け付けなかった。
花を咲かせてしまったDie助は灰を被ったように全身が灰色に染まる。なんかすっごいダメっぽい。
懸念していた事は部分的に的中。正解は中途半端に殴るとアウトだった。
俺とDie助が手こずっている間にもキルナは淡々と斧を振るい、少し遠いところも含めて6個の蕾を破壊していた。
ミスった1個を除いてなんとか周辺の蕾を一掃する事に成功する。
「これ僕どんな状態!?」
「あー……全身が灰色になってるな」
「……手遅れ」
「ちょっと2人とも!?」
恐らくもう助からないDie助から距離を取ると、丁度残火の獣が動きを見せた。
「満゛……開゛……」
「とりあえず……グッドラック?」
「……骨は拾ってあげる」
祈る言葉は残った蕾を満開に咲かせ、より一層崩壊が加速する。
見た目だけで言えばそれは完全に死の間際で繰り出す奥義。煤けながらも芯のある声が聞くものに緊迫感を与える。
「聖゛灰゛」
「なにこれなにこれなにこ──」
灰色に塗れたDie助の体が満開の灰花と連動して爛々と輝き始める。
そして輝き始めた光はやがて行く宛を求め外に放出。辺りは眩い光に染め上げられた。
「あっ、逝った」
対処をミスると灰被り状態になって線香花火のようにバチバチと光を散らして爆散させられます。
しかし放置すれば位置関係にもよりますがもれなく全員その身を光に包まれてやっぱり死にます。




