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残り火よ、在りし日を燃やして 二十三



La〜a〜aaa〜La……


 初めは演出としか思わなかったが、二度の全滅を経て俺はこのどこからともなく聞こえてくる声に苛立ちにも似た何かを感じていた。

 例えるなら聞いてもいないアドバイスを投げてくる野次馬。土俵に引き摺り出したくてやりたくなる、そういう気持ち。

 この忌まわしくも気持ちを昂らせてくる声で体の奥の方が熱くなってくる。


「っしやるぞ!」


「ケ゛ア゛ア゛ア゛ア゛!」


 リングに降り立つと同時に上がる咆哮。戦闘開始の合図だ。


「空を纏いて我が想いを為せ、飛翔せよ」


「シールドバッシュ!」


 盾を掲げて突進するDie助を横目に俺はエアリアルを発動し、残火の獣の脇腹を睨む。

 俺に連動してキルナも動く……位置に着いたようだ。


「景気付けに200%狙ってみるかァ、炸裂しろ!イグニスプロード!」


 すぐ隣で淡々と攻撃の準備をしているにもかかわらずまるでこっちに興味を示さない残火の獣。

 その無防備な脇腹目掛けてイグニスプロードを発動。

 起爆と同時に腕に足に兎に角振りまくり、荒れ狂う風の刃を生成する。

 どでかい隙には最大を。アタッカー(俺たち)を無視する事のリスクってやつをその身に刻んでやる。


「おーけーDie助!おらこっち向きやがれ!」


 風をたわませ一気に肉薄する。

 狙いはターゲットをDie助から引き剥がす事。

 念には念を入れて空を蹴り上げる。風の刃は急接近する俺に反応した残火の獣の顎を捉え……弾け消えた。これでいい。


「ケ゛ア゛ア゛ア──」


「いくよキルナちゃん!」


 俺を攻撃しようと振り上げたはずの浅黒い腕は、振り下ろされる事なく向きを変える。

 僅かに震えた巨躯は突如として背後に現れた存在を消し飛ばさんと全力で急旋回する。


「悪寒でも走ったか?だが悪いな!そいつは悪手ってやつだぜ残火の獣さんよォ!」


 悪いが俺もDie助もただの前座だ。

 見上げれば姿ぐらいは見れるかもな。我らが@ほ〜むの最高火力、筋金入りの火力厨の姿が。

 一撃の快感を愛し、どこまでも追い求めた理想の一撃。

 見上げればキルナが背丈に合わない斧を天高く振りかぶって、青白い光を放ち空を飛んでいた。


「……殺る、流星の一撃(メテオストライク)


 魔法慣れ200%、生ぬるい風の暴刃域に慣れ切った体は迫り来る一撃への耐性を完全に失っていた。

 これがいま出せる最大。掛け値なしの流星の一撃(メテオストライク)は脳天をドンピシャで捉え、この空間の全て、蝋燭の火でさえも青白く染め上げて行く。

 残火の獣は踏ん張る事すら許されず、ただ一撃の下に叩き伏せられた。


「ははっ、絶景とでも言うべきか?」


「見惚れてる場合じゃないよ!追撃!」


 未だ息はあるものの残火の獣はもはや屍も同然、立ち上がったのはこの絶景を作り出した張本人キルナだけ。ボーナスタイムに突入だ。

 

「殴れ殴れ殴れーっ!」


 殴る蹴るなどの暴行に加え魔法をぶっ放しまくる。

 起き上がる事すら許したくないらしい、今回はキルナにも遠慮の2文字はなくガンガン殴っていた。


「咆哮来るよ!」


 しかし流石はボスと言ったところか、気合いで耐えきり身を起こすと骨と皮で出来たような体を膨らませ、天を仰いだ。

 俺にとっては苦い思い出、咆哮の予備動作だ。

 二度も喰らってやる義理はないのでガッチリ耳を塞ぐ。これで完璧、いつでも来い!


「…………あれ?」


 待てども待てども吠えられる事はなかった。

 代わりと言ってはなんだが、緩んだ指の隙間から雰囲気の違う音が入り込んできた。

 これには2人も間抜けな顔をしているが、目の前の残火の獣はいつのまにか光を失っているしこの音はあれだ、本番の合図だ。



La〜


La〜


La〜〜〜

 

──ロストジャッジメント。



 周囲の火が消え、仄暗いボス部屋に光が落ちる。

 地に伏した残火の獣にオーブが降り注ぐ様はなんというか、天の迎えが来たようにも見える。

 しかし迎えが来て元気が出てしまうのがボスという生き物、普通なら終わりの合図であるはずのそれで光を取り戻して行く。


「あ゛ぁ゛……つ゛れ゛て゛……い゛っ゛……て゛…………」


 ここからが本番、化け物じみた姿からロストジャッジメントなる面妖なものを受けて残火の獣がお嬢様らしさを取り戻す。

 それだけならばいいものの皮膚は焦げたように黒くなり、三種の神器ですと言わんばかりに光の鱗や尻尾を獲得して何故かドラゴンっぽくなる。

 特に光の鱗、あれは本当に勘弁して欲しい。ヒーラーやタンクだけでは飽き足らずアタッカーにまで嫌がらせをしてくるとは。


「と゛う゛、か゛……わ゛た゛し゛も゛…………」


 何やらどこかに連れて行ってと懇願している。聖域に白く光る体毛、これが過去でなければもしもしイグニアさんですか?って感じだがムービーを見るに迎えの天使が来たと思えば蘇生だけして帰って行ったからキレている……とかかもしれない。うん、違うな多分。

 

 考えてもわからない事は後回し、今は自分の状況の方が大事だ。

 思った以上に第一形態を早く突破出来てしまったためHPを回復するのが第一だ、誰だよ45秒で倒しちゃったやつ、すごすぎてHP82しか残ってねえよ。あと5秒で死んじゃうよ俺。


Laa〜Laa〜Laa〜


 時間というのは残酷で心の準備をする間もなく残火の獣は臨戦態勢に移る、臨戦態勢とは言っても祈っているだけだが。

 第2ラウンドが幕を開けた。


「回復ぅ!」


 伝達の意味合いも込めて叫びながらポーションを取り出す。

 そして口に付けるのもそこそこにポーション片手にエアスライドを発動。一陣の風と共に残火の獣の足元にまで肉薄する。

 ポーションがぶ飲みしながらボスの目の前に立ち向かう姿は多分超が付くほど間抜けな事だろう。


La〜


天焦!


天焦!


天焦!


「たのしいたのしい実験のお時間デス……!」


 想定外な事だらけだが名乗り出たからにはやるしかない。

 ギリギリ回復が間に合った俺は3連天焦を聞いてほくそ笑む。

 何のために危ないところを攻めてまでエアスライドで距離を詰めたのか。

 

「空を纏い──てぇっ!?」


 足元にデッカい光の円が広がると同時に頭上で眩しい光が見える。光の尻尾による攻撃だ。

 覚悟を決めた俺は気合いで転がり込む。

 肩が触れるほどに接近し、すんでのところで光の尻尾と天焦から逃れる事に成功する。


「あ゛あ゛ぁ゛っ゛!」


「っしゃあ当たりィ!」


 俺になすりつけられた天焦が動けない残火の獣へと降り注ぐ。

 光の鱗が展開され防がれるも、それは一瞬だけ。すぐに光の奔流の勢いに押され、鱗ごと貫かれる。

 俺たちを消し飛ばす絶望の光は残火の獣をも焦がし焼いた。


「我が想い、をっ!」


 ダメージが入ったからだろうか、前回より短いスパンで繰り出される光の尻尾をこれまた残火の獣の周りを回るように転がる。

 ギリギリもギリギリ……意識していなければ、或いは反射的に動けなければ避けるのは難しいだろう。

 良い調整だとも言えるがこの内の一つにでも当たるとパーティが崩壊すると思うと集中力がゴリゴリ削られる。

 天焦と光の尻尾を避けながらエアリアルの発動を目指す。


「あ゛あ゛ぁ゛っ゛!」


「為せぇ!」


 大丈夫、大丈夫だ。

 煤けた悲鳴と間近に感じる熱気、早まる鼓動を落ち着かせるために自分に言い聞かせる。


 止まるな、止まらなければ当たらない。

 どれだけギリギリだろうとも、その僅かな差は絶対に縮まる事のない、大きな差だから。


「飛翔せよ──」


「あ゛あ゛ぁ゛っ゛!」


 心はホットに、体はクレバーに。

 そうすれば必ずチャンスはやって来るから。


「──エアリアル!」



 追ってくる三度の天焦と光の尻尾を間一髪で避け続け、遂にエアリアルの発動まで漕ぎ着ける。

 風が体を渦巻き、全能感が溢れてくる。


 3連天焦は避けた、光の尻尾ももう怖くない、2人とも万全の状態。

 目線の先には何事もなかったかのように祈りを捧げている残火の獣。

 俺は振り返る事なく大きく息を吸った。


「またせた2人とも!反撃の時間だァ!」



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