残り火よ、在りし日を燃やして 二十二
「つまり真っ先になんとかしたいのは天焦、と」
「少なくとも僕的にはそうかな、光の尻尾はギリギリとは言え僕でも避けれたし2人ならわかってれば避けられると思うよ」
Die助がすごい事を言い出した。
高く買ってくれているという意味では嬉しいが、生憎光の尻尾は俺もかなりギリギリでしか避けられなかったし1発喰らえば即アウトという事でかかる重みも違う。
キルナなら普通に涼しい顔して避けてそうな気もするが、少なくとも俺はエアリアルがないとそう見たくない技である事に変わりはない。
待てよ?裏を返せばエアリアルがあれば……
「タンク……いらなくね?」
「ヨバル君!?」
不意に漏れ出てしまった言葉にDie助が過敏に反応する。
「あーすまん、他意はないんだ」
「他意ない方がびっくりだけど!?」
「……ふふ、Die助、クビ」
「キルナちゃん!?」
立ってしまった角を丸めるも、かえって尖ってしまう。
別にDie助を刺したかったワケじゃない、刺すならもうちょっと派手にわかりやすくやる主義だ俺は。
「クビ……いや、うーんそうなんだけどそうじゃなくてな……第一形態ではDie助みたいなボスの目の前に陣取って動きを制限、攻撃を吸ってっていうのも強いと思うんだよ、実際やりやすかったし。でも第二形態はなんていうかちょっと違うと思うんだよな」
「違う?」
俺は頭の中にかかる靄のようなものを言葉にして整理する。
第一形態はヤンチャもヤンチャ、荒れ狂う攻撃を掻い潜って攻撃というやっているアタッカーからすれば楽しいが、見ている側からすればヒヤヒヤもの……タンクが欲しくなるのにも頷ける。
実際ターゲットがDie助に固定されてからは誰でも勝てるぐらいには楽になっていた事だしな。
しかし第二形態は話が違う、見たところボスは超が付くほどにお淑やか。お転婆じゃないタイプの箱入り娘だ。
攻撃も光の尻尾がちょっとヤンチャなぐらいで、どちらかと言えばヤバいのは姿も見せず安全圏から俺たちを焼き殺さんとしてくるBGMさんによる強化版天焦だ。
つまり、つまりだ。
「要は光の尻尾がランダムに落ちない避雷針さえあればあとは天焦を避けるゲームだろ?なら俺がボスの一番近くで走り回ってるだけでいいんじゃないかと思ってな。……第二形態、タンクいらない気がしてきただろ?」
欲しいのはタンクじゃなくてハンターの手を掻い潜る俊敏な蚊。俺はそう結論付けた。
「なるほどね、確かに回避タンクは僕の専門外だ。でも大丈夫かい?死んだって事はさっきは回復飲めなかったって事だよね?」
「……割って回復なら通るんじゃない?」
「あぁ……その手があったね……」
2人の反応はまちまち、なんなら俺の心配はそこそこにポーションの行く末に顔を青くする始末。
別に悪くはないのだが1人スッキリした顔をしている俺がなんだかバカみたいだ。
例えるならうっきうきで話かけに行ったら「ああそれね、いいよね」と軽くあしらわれた時のようなそういうバカらしさ。
「エアリアルっていう早くなる魔法を使えば回復を飲める余裕ぐらいはあるから大丈夫だ、ある程度は節約する」
「助かるよ」
どうにかスカした顔したこの2人に「ヨバルさんすげえ!」と言わせられないだろうか?いや、言わせよう。
ここは追撃だ。
「さっきの話にちょっと戻るんだが、2人は知ってるか?」
「……?」
「何を?」
「天焦。あれ誰の攻撃だと思う?」
「誰ってそりゃあボス戦の……ステージギミック?」
「……あの歌」
そうそう、DoTダメージに天焦に、俺たちを苦しめるギミックだ。
「ってことは残火の獣の攻撃じゃないワケだよな?」
「まあそうなるね」
「……何が言いたいの?」
「気にはならないか?Die助をも一瞬で消し炭にするあの天焦が残火の獣に当たったら一体どうなってしまうのか」
「…………確かに」
「……なるほどね」
わざわざ溜めまで作った俺の追撃は2人を引かせるに終わった。
あれ?なんか思っていた反応と違うな?もっとこう、「考えた事もなかったッス!」的な反応になってもよくない?いま完全に「こいつまじか……」って目しちゃってるじゃん。
「……人ってこんな悪い顔できるんだ」
「なんというか、悪魔的だね、色んな意味で」
酷い言われ様、2人の視線はまるで人じゃないとでも言いたげだ。
使えそうなものを使って何が悪いというのか、非常に、誠に遺憾である。
「試すとしてどうするつもりだい?」
「張り付いてたらそのうち落ちるだろ多分」
「……もしかして2人とも気付いてないの?」
「「???」」
えっなにその意味深なムーブ。珍しくキルナがミステリアスに見えてきた。悔しい。
「……天焦が来る前、必ず歌が盛り上がる」
「えっ」
「それまじ?」
「……大マジ」
衝撃的な新事実に微妙な空気が流れる。
言葉を発さずとも……いや言葉を発さないからこそ何を思っているかが顕著に顔に現れていた。
結構大事な事が共有されていなかった事にビビるDie助、普通に聞いていたらわかると思っていたキルナ、あんなに引かれた直後でこの空気を生み出せる才能に恐れ慄く俺。
すげえよキルナ、人にすごいって言わされる時ってこんな心境なのか。
「ま、まあいま知れてよかったよ。これで一応万全、なのかな?」
「……私はいつでもいける」
「じゃあ確認だけして行くか」
手を2人の前へ突き出し、強制的にこの気まずい空気を緊張感へと変える。
「第一形態はだいたいさっきと同じで、俺とキルナは残火の獣を挟んでDie助に合わせて動く事、余裕があれば天焦をぶち当ててみよう」
「任せておいて」
「第二形態は俺が前でひたすら避けて耐えるから天焦の合間にキルナは殴ってくれ」
「……わかった」
「Die助は……」
「後ろでポーション投げてヒーラーの真似事でもしておくよ」
「助かる。それじゃあ第二形態突破するぞ!」
えいえいおーなどと言わなくとも自然とタイミングが重なる。
なんとも素晴らしい事だ、後は俺がミスらなければだいたい行けるのではないだろうか。
気合いを入れて2人に続いて扉への道を突き進む。
扉に手をかける2人を横目に少し耳をすませてみる。
「あぁ……ワタシの太陽…………ワタシが火竜を討たなければ……貴女を拝火の礎にすることなど…………」
以前よりハッキリと聞こえるのは俺が聞き取ろうと耳を傾けているからだろうか。
相も変わらずうわ言のように言葉を漏らすヴェルフリート。
その言葉には確かに感情が篭っていた。
それが哀愁だというのはなんと悲しい事か。
「全てはワタシが愚かだった……貴女の言葉を信ずるべきでは……なかった…………欲に塗れたあの半端者達を照らす火など……最初からなかったと言うのに……」
振り返れば上を見ていたヴェルフリートの視線は月のようなスタンドグラスの下、火竜の吐く火を崇める無数の手を見つめていた。
その表情は険しく、どこまでも悲しみに溢れていた。
「それならばワタシは……ワタシは…………貴女とどこまでも逃げる…………べきだった……………………」
ただ一つ、わかる事は後悔に苛まれている事。
俺は頬を叩き気合いを入れ直す。引っ張られてちゃいけない。
2人に続き扉の奥へと進んだ。




