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残り火よ、在りし日を燃やして 二十



「えー、一旦話をしよう」


 開幕3連撃。

 第一形態の時よりいくらか大きくなった円に体の半分を焼き焦がされ2人があっという間にやられ、残った俺はというと粘ったものの2人を起こす事も回復を()()事も出来ず順当に削り殺された。

 故に作戦会議という名の反省会を開く事に。なんてったって3連天焦が強かったワケではないからだ。

 

「ほらそこのキルナ、むすっとしない。次もコミュニケーションエラー起きたら困るだろ?」


「……私エラー出してないけど」


「いやーごめんねキルナちゃん」


 リスポーンしてからというものこの調子である。

 いやわかるよ?遅れて見た俺ですら一目でわかるぐらいにはDie助がテンパってたって。人災だったって。

 でもほら謝ってるじゃん。人間誰しもするもんだぜ?台風並みの進路変更。

 

「そうは言っても3人で攻略してるんだから対策立てるしかないだろー?」


「……3人。そういう事ならいい対策がある」


「まじで?教えてくれよそのとっておきの策」


「……語らない、寝転がらない、気持ちよくならない」


「「すみませんでした」」


 気付けば俺は地面に額をつけていた。

 人を刺す時は端的かつ鋭く。

 俺()()が戦闘中にやらかした奇行を的確に咎める言葉で立場は逆転。膝を折るしか択は残されていなかった。


「……わかったならいい、倒すんでしょ?」


「もちろん!」


 さっきまでの不貞腐れたような声はなく、確かに張られた前向きな声は土下座する俺たちではなく遠いどこか、恐らく扉の奥へ向かって放たれていた。

 むすっとしていた原因は寸劇じみた奇行によって自分以外がふざけて臨んでいるように見えたかららしい。

 しかしまあそれならよかった、全然修正出来る。

 これが「ミカタ、ゴミ、ヒトリ、デ、カツ」だったらどうしようもなかったところだ。


 今まさに俺たち3人の思いは一つとなった。

 打倒残火の獣。さっきから一言も喋らないDie助もそう思っているはずだ。

 同じく隣で土下座を決めているDie助を横目で見る。


「なっ……!」


 俺は驚きのあまり目を見開いた。

 あまりに美しい土下座だったとかそんなものじゃない……時が、止まっていたのだ。

 ぴくりとも動かないDie助は未だに申し訳ない顔を浮かべてはいるもののその口元が少し緩んでいた。まるで言われた言葉を噛み締めるように。

 ダメだこいつ、欲望に忠実すぎる。


「……な?どうしたのヨバル」


「ななななんでもない!ちょーっとして考え事をしてただけみたいな?あのムービーはなんだったのかなー的な?」


 キルナの視線を遮るようにDie助を俺が前に立ちはだかる事で隠す。

 いま無理にDie助を起こしたところで顔だけで全てを雄弁に語るあの状態がキルナの目に晒されるだけだ。

 Die助とて噛み締めているぐらいだ、きっとキルナの意思は伝わっているであろう。

 だが顔が終わっている。あんなもの見られでもしたらカムバック不機嫌待ったなしだ。

 故に俺はDie助の時が動き出すまでの時間稼ぎをしなければならない。


「……なんで疑問系?でもちょうどよかった。もうちょっと詳しく教えて、アイツのこと」


 キルナの心に火が点いた事に感謝する。あのよくわからないムービーを見てやる気が倍増したらしい。

 俺は出来るだけ興味を引くために今まで得た情報を元に適当な仮説を絞り出す。


「えーあいつ、残火の獣だろ?あいつはお嬢様でヴェルフリートが仕えていた主なワケだが……えー、多分あのボス部屋が俺たちの知ってる大聖堂から考えるに聖域的なやつで?まあなんか毛も白く光ってたから多分聖女……的な?」


「……なんか薄くない?」


 勢いで捲し立てる俺にキルナは胡乱気な目を作る。やべえ、すっごいジト目だ。

 しかしそんな目をされても足りない情報を足りない頭で捏ねくり回して急造してるのだから限界がある。

 とは言え泣いたところでDie助はまだ止まっているしキルナのジト目は解除されない。

 兎に角いまは何か、何か言わなければダメだ。

 考えろー考えろー俺。いや考えてちゃいけない、喋るのだ、そして感じろ!

 

「待て待て待てじゃあこういうのはどうだ?このクエストの名前『燃ゆる慕情の燼弔歌(じんちょうか)』って言うんだけど、慕情って事はあれだろ?恋だろ?そしてそれが燃ゆる、つまり燃えているワケだ。そしてなんの因果かヴェルフリートは黒い火の使い手、丁度あそこのステンドグラスに見える竜も火の使い手。つまりこう、なんか火竜と黒炎使いでこう、燃えてますよ〜ライバルですよ〜みたいなそういう感じじゃないか?」


 急造した仮説は思った以上に俺の舌を回すが肝心の結論がどうにも感じ取れず、しどろもどろな呂律をくねくねとしたジェスチャーで誤魔化す。

 よし苦しながらも時間は稼いだ、これでなんとか起きてくれDie助、俺はもう限界だ。

 

「……ふーん。そういう事にしとく」


 Die助ェー!起きやがれ!俺を助けろ!すごい速度で温度下がってるって!俺このままじゃあの目に射殺(いころ)されて翌朝にはカチコチに凍った死体が見つかるってぇ!

 

 絶対零度の視線に身を震え上がらせているとのそり、何かが背後で動く音がした。


「やあ、話は終わったかい?残火の獣を倒すための攻略会議をしたいと思ってるんだけど……」


「……ちょうどいいところに。Die助、始めて」

 

 やっとのことで動き出したDie助が恐る恐る手を上げる。

 ヒーローは遅れてやってくると言うが俺の前に現れたヒーローはあろうことか思いっきり登場タイミングを見計らってやがった。

 普通そういうのって急いだ結果遅れてくるものじゃないのか?人がこんなに頑張っているというのに、解せぬ。

 いっそのことどんな顔をしていたか暴露して再びギス空間を作りたい気持ちにもなるが、肌で感じる温度が上がったのも事実。


「それで?どこから始めるんだ?」


 気まずさもまたDoTダメージであることを思い出した俺は大人しく会議の席に着いた。


「まずはムービー前……第一形態を楽々攻略する方法。だね」


「今でも十分早くないか?さっきのだって俺が咆哮を被弾しなきゃ危なげは何一つなかったと思うんだが」


 DoTダメージから考えるにだいたい2分ぐらいで突破したはずだ、相手がボスである事を考えると悪くなさそうに思う。

 

「早くもなるとは思うけど僕が言いたいのは早さじゃない」


 曰く浅い俺の言葉にDie助はちっちっちと指を振る。

 爽やかイケメンが普段の笑顔を崩してニヤリと口を歪める様はそこら辺のDie助初心者なら黄色い歓声でも上げるのだろうが、上級者である俺にはどれだけカッコつけようとも効かない。

 なんてたっていま俺の脳裏に映るDie助は爽やかさを全て放棄した終わっている顔をしているからだ。

 ほら、キルナも俺と同じような冷たい目を浮かべているじゃないか。


 しかし俺たちの冷ややかな目線を受けたDie助はニヤリと笑う口を歪める事なく言った。


「楽さ、だよ」


 短い息をなんども溢れさせながら。



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