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残り火よ、在りし日を燃やして 三

リーサルウェポン、牙を剥く



 触らせてくれるというなら触ってみたい。その漆黒の毛を。

 勝利条件を倒す事から触れる事に変更。

 そういう事ならレベルが低い俺にだっていくらでも勝ち目はある。

 何故ならそれは……


「燃えよ」


「当たらなければどうという事はない!」


 全部避ければいいだけだから。

 涼しい顔をした黒狼は距離を詰める俺に対して黒い火の玉を放つ。

 火の玉は見た目こそ禍々しいものの、弾の速さとしては早くも遅くもない。せいぜい相手を動かす程度の意味しか持たない。

 とはいえこの程度、避けるまでもない。

 小手調べとして放たれた火の玉は俺の顔のすぐ横を通ってゆく。


「戻れ」


「ご丁寧にどうもっ!」


 目の前の黒狼は依然として涼しい顔で親切にも行動を教えてくれる。

 投げたものがブーメランだとわかっていれば何も怖くない。戻ってくるとわかっている攻撃に奇襲としての価値はないのだ。


 あくまで目的はあの黒狼に触れる事。ただ避けるだけでは50点だ。

 100点を目指すべく俺はさっきと同じ、レーンを一つズラすように走る事で対策する。

 俺の小賢しいブーメラン対策を見た黒狼はほくそ笑む。


「いいのか?己の目で確認をしなくて」


「は?」


 嘲笑うようなその表情に慌てて振り返る。

 目の前にはさっきは1つだった火の玉が5つに増えて俺を捕えんと漂っていた。


「っぶねえ!」

 

 予想外の光景に思わず体勢が崩れる。

 尻餅をつく形でギリギリ回避に成功した俺は首を回して顔を歪ませる黒狼を睨む。

 

「やはり腕は立つようだが……ふっ、経験が足らぬな」


「なっ……!」


 こいつ、性格悪い……!

 数秒前の親切だと勘違いしている俺をぶん殴りたい。

 何が災厄さんだ、何が黒狼だ。

 ヴェルフリートなんて仰々しい名前すら似合わない。

 こいつを形容する言葉なんてアレで十分だ。


「クソ犬……!」


「口だけはキレがいいな。この程度の攻撃で情けなく尻をつくお主にワタシの特訓を耐えられるのか?」


「ああ耐えてやるよやってやるよ!ちょっとうまく行ったからってもう勝った気ですかぁ?舐めプしてねえで本気で来いよクソ犬!」


 目の前のクソ犬は煽りカスだった。

 もふもふ科癒し属だと思っていればなんだこれは。

 カス目クソ科の犬野郎じゃねえか。


 クソ犬に向かって盛大に吠える。

 決めた、触るなんてそんなぬるいところで終わらせない。

 モフり倒してやる。


「生意気なその口閉じてやろう」


「かかってこいやァ!」


「ゆくぞ、黒煙」


 クソ犬を中心に一瞬にして辺りが黒く染め上げられていく。

 意気込んで置いて目潰しかよ。

 挑発した手前、卑怯とは言えないが言い表せないもどかしさが体を走る。


「木を隠すなら森の中ってか?」


 そっちがその気ならこっちにだって考えがある。

 俺は手早く設定を開き、色覚サポートをONする。

 クソ犬はそのご立派な漆黒の毛を青紫色に彩った。

 これなら暗闇だろうがなんだろうが何処にいるかしっかりとわかる。

 卑怯とは言うまいね?


「燃えよ」


 暗闇に浮かび上がる青紫色の火。 

 色を除けばさっきと変わらない……はずだった。


「燃えよ」


 追加注文されて出てきたのは4つの火の玉。

 耳に頼っていたら数を錯覚して大変な事になっていたに違いない。

 飛んでくる悪意の塊を避け、戻りに備える。

 5つが5つで25の火の玉が帰ってくるワケだが……


「戻れ」


 数が増えた事により飽和した火の玉は俺を取り囲むように動き出す。

 当然のように地面まである火の玉は逃げ道という逃げ道を全て潰そうとしていた。

 

 しかしそれがなんだというのか、数が増えたところで所詮はブーメラン。

 エアスライドを発動し、一陣の風と共に一気にクソ犬に肉薄する。

 俺がブーメランより早く前に詰めればなんて事はない、ボディがガラ空きだ。


「炎獄」


「おわぁっ!」


 急加速する俺を迎え打つは地面より隆起する荒々しい火柱。

 近づく者全てを焼き尽くさんと燃え上がる様は城壁そのもの。

 あわや丸焦げとなるところでブレーキをかけ、迫り来る25のブーメランを躱すべくバク宙を選択。

 25という数では上までカバー出来なかったらしく、この悪意の挟み撃ちを切り抜けた俺は着地と同時に横に走る。

 理想は死角、角度を変えてあの火柱を置かれる前にエアスライドでヤツにタックルをかます事。


「ナメてたやつに触れられそうになって焦ったかぁ?守りで手一杯だなァ!」


「抜かせ、炎獄」


「当たっ、りまっ、せーん!」


 攻めも出来るとばかりに俺の足元から火が噴き出す。

 それを暗闇が色付いた瞬間を見てから回避する。

 暗くなければ薔薇豚よろしく亀裂でも確認して避けるのが正攻法なのだろうが、ここは1つ反射神経のゴリ押しで凌ぐ。

 この程度なら正直見てから余裕だ。


「……炎獄」


「ほぅ!せいっ!とぉーっ!」


「…………炎獄」


 30フレームぐらい先の俺を火柱が襲う。

 こっちはもとより見てから回避してるのだ、置かれようが当たるワケがない。

 初めてクソ犬から主導権を取れた俺はここぞとばかりに煽りながらジグザグに走り、地面を突き破り隆起する火柱を回避する。


「炎獄、炎獄」


 クソ犬の表情はわからないが声色と火柱の発生のさせ方でわかる。

 相当ピキってる(あったまってる)

 力一杯ボタンを連打している姿がありありと浮かび上がってくる。


 焦りは人を狂わせる。いや、人じゃないけど。

 冷静に考えれば気付くはずの攻略法に気付けない。

 精彩を欠いた攻撃はもはや避けるまでもない。

 

「ほらちゃんと狙って!そんなんじゃ日が暮れちゃうよ!」


 だから俺がぐるぐると周りをジグザグに走っている間に距離が縮まっている事にも気付かない。

 死角へ辿り着くことは出来なかったがもう圏内だ。

 エアスライドを発動させ一陣の風に乗る。


「モフらせやがれこの野郎!」


 脇腹を狙うも、ギリギリ反応したクソ犬と目が合う。

 リーサル圏内からの急加速、炎獄を発動してももう遅い。

 1歩先を行った俺の……勝ちだ。



斜黒(しゃこく)


「は /// ぁ?」


 勝利を確信した瞬間、視界がブレる。

 瞬きをすれば真っ暗闇が目の前に。

 そして追い討ちをかけるように俺だったものらしき肉片がポリゴンとなり闇に溶けていく。

 視界がポリゴンで溢れる中、空を見上げれば青紫色のクソ犬が佇んでいた。


 やべ、怒らせすぎた。

 奥の手を使われてしまったのだと直感的に理解する。

 世にも珍しいヒトの4枚下ろしが爆誕した瞬間だった。


 アオリスギ、ダメ、絶対。



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