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自分の世界の作り方


 

 ──ドクンッ!!!

 未だ抜けきらない余韻に全能感を上乗せして俺はドラグラの世界へとやって来た。

 初のクエストクリアから一晩明けて街はすっかりどよめきを忘れ、非常に耳に優しい爽やかな朝を迎えていた。


「さてさてクリア報酬を検めさせて貰おうか」


 一夜越しにクエストの報酬を確認する。


・100000エンカ

・称号【ホーリーナイト】

・聖典『サンクチュアリ』


「うひょ〜神のクエストだマジで」


 なんと言っても100000エンカ。

 当分金策という言葉とは無縁になる最高の報酬に手を合わせる。


 神様仏様イグニア様、多大なる金をありがとうございます。


 思わず合わせた手から体がくねくねしてしまう。

 多分俺はいま情けない顔をしている事だろう。


「称号なんてものもあるのか〜イチノセ、キルナ辺りは大喜びだろうなぁ……」


 設定すれば名前の上に表示出来るらしいそれは控えめに言って厨二心をくすぐる神のシステムだ。

 

「でもなぁ……」


 ホーリーナイト。

 目の前に表示されるその文字は俺を我に帰らせる。

 確かにかっこいい。俺が鎧でも着ていれば映える事間違い無しのはずだ。

 それでも思わずにはいられない。


「自分で設定するのってなんか……恥ずかしくね?」


 最近厨二病を抜け出したばかりの俺にはこの称号システム、イチノセが自分で二つ名を名乗るのと同じような恥ずかしさが含まれている気がして仕方がない。

 まして今の俺はダサいタンクトップ姿。ホーリーナイトを名乗ったところで文字の間に草を生やされる事は想像に難くない。


「やめやめ、称号なんてなかった」


 宝だろうがなんだろうが腐らせれば平和だ。

 身の丈に合わない称号を見なかった事にして1番仰々しい()()に目を遣る。


「聖典ねえ……名前からして怪しいが……」


 聖典を名乗る本を開いてみれば、ページいっぱいに文字が書き記されていた。

 それでいて肝心の文章はところどころ文字が潰れて読めなくなっていたり破れている。

 端的に言って()()()()()()()


「なんかすごそう」


 高尚な雰囲気を漂わせるその本に俺は小学生みたいな感想を抱いた。

 そりゃ聖典なんて言うのだからきっと読めばハッピーの扉が開くそれはそれは高尚なものなのだと思う。

 しかし夏休みの読書感想文に毎度苦戦を強いられる俺にとっては高尚さとかどうだっていいし、ぶっちゃけ5行以上の文章を読む気にならない。


 パラパラと適当にページを捲り吟味した雰囲気だけ出して忌まわしい記憶に蓋をする。


「実質報酬1つか〜」


 3つが1つになったと思うとなんだか損をした気持ちになるのは仕方ないと思う。

 とはいえ推奨レベル0のクエスト、100000エンカ貰えるだけでこのクエストを精一杯やった価値があるってものだ。


「キリコ換算で何日分だ?1番効率のいいところで狩るとして……だいたい30sぐらいか?死ぬ気でやれば1日、ゆっくりやれば3日分ってところか、うまいな」


 改めて考えれば随分と懐があったかくなっている。カイロでも忍ばせているのかってレベルだ。

 今更だが結構……いや、大当たりのクエストを引いたのかもしれない。


「ていうかこれだけお金持ちなら()()が出来るんじゃないか?」


 ()()

 公式サイトや掲示板を漁っていて見つけた多分ドラグラの第二の目玉とも言える機能を思い出す。



『マイワールド』を作成しますか?

必要エンカ: 50000エンカ

 →YES     →NO



 マイワールド。

 隠れ家のように自分だけの空間を作れるやり込み要素だ。


「YESYES!超YES!」


 隠れ家と聞いて黙っていられる俺じゃない。

 即決でYESを選び、今し方あったまった懐を急速に冷やす。

 世界がひっくり返った。





 

 目を開けるとそこには一面の草原が……


「いやいやいやこれじゃ箱庭だろ!マイボックスだよ!」


 広がる事はなく、一軒家が1つ建つかどうかの小さな世界だった。


「アルボ!へぇーるぷっ!」


「はい只今っ!ってなんですかここ!」


 俺はたまらずアルボを召喚した、困った時のアルボ大先生だ。

 よくわからない状況も現象もだいたいアルボに聞けばわかるのだ。


「マイワールド、スペース、解説」


「なんですかその雑な質問は!全く説明ならわざわざ私を呼び出さなくて、も……」


 先生への質問と言えばこの聞き方だろう。

 最短で答えを求める人類の叡智はアルボのお気に召さなかった……かと思われた。

 何かを思いついたように口をぽっかり開けると意気揚々と喋り出した。


「全くしょうがありませんね〜っ!不肖、このアルボが猿でもわかるマイワールド講座を開きましょう!」


「怖い怖い、どういう風の吹き回し?急にテンション上がるじゃん」


 ツンデレというには脈絡のない変貌ぶりにこの狭い世界で思わず後退る。

 ていうかいま猿でもわかるって言った?え、俺猿?


「マイワールドの遊び方その1!専用ショップで建物、インテリア、環境設定、オブジェクトなど多岐に渡るアイテムを購入して設置する!」


「う、うき?」


「マイワールドの遊び方その2!土地を購入して世界を拡張!」


「うききっ、う──」


「マイワールドの遊び方その3!時には誰かのマイワールドを訪れたり、誰かをマイワールドに招いたり!」


「うきき……」


「マイワールドの遊び方その4!自由に地面を変形させたり建材を組み合わせたり!クリエイティブモードで自由自在なオリジナルの世界を!」


「あ、アルボさん?」


「どうですかご主人!猿でもわかる完璧な解説だったでしょう!」


「あー……まあだいたいわかった、ありがとな……」


 アルボは両手を腰に付けドヤ顔を浮かべている。こんな先生はいやかもしれない。


 確かにわかりやすかったけども、猿でもわかるような説明だったけども。

 こんなに体張ってるのだからノってくれてもバチは当たらないと思うのだ。

 ノリ良く猿になったというのに遮るように進行されて悲しいよ俺は。

 相手してくれたっていいだろ?1人でうきうき言っているの、すごいバカみたいじゃないか。


「ところでアルボ、50000エンカで拡張して家1つ建てれそうか?」


「何か目標でもあるんですか?でもご主人、残念ながら世界の拡張はどんどん必要なお金が上がってしまうので50000エンカでは厳しいですね……」


「やっぱり?いやな、俺ってギルドマスターだろ?マスターらしく憩いの場でも作ろうと思ってたんだよ」

 

 せっかくギルドメンバーも順調に増えている事だし、サプライズでそういうの出来たらアツいかなと思ったのだが……これはあれだな、無理だな!


「それはいいですね!やりましょうご主人!」


「だろ?俺もやりたかったんだがなぁ……」


 煮え切らない俺の返事にアルボは首を傾げる。

 聞く限りマイワールドでは何をするにしても金。兎にも角にも金。全ては金で買えるとでも言いたそうだ。

 いや友達は買えないけども。


 そんな金金言われても無限に湧いてくるはずもないので金策が求められる。

 正直キリコ狩りはもうごめんだ、死ぬ気でやっても満足に作ろうと思うと2日ぐらいかかりそうだしな。

 それにこれ以上やると俺の中のドラグラがドラグーン・ラディエンスじゃなくてキリング・コートになってしまう。

 故にサプライズは諦めよう、俺のドラグラ生活のために。


「どうせならギルドのみんなで案出し合って作った方が面白いかなって」


「おおーっ!素晴らしいですね!それでこそマスターの器ですよご主人!」


「ははは……」


 それらしい言い訳でお茶を濁してアルボを仕舞う。

 そうそう、みんなで割れば怖くない。


「人の金でマイワールド作るか!」


 職権濫用?いやいや役得で通るだろ、ギルドマスターだし。

 アルボに聞かれたら怒られそうなことを意気込んだ俺はウキウキで視界をひっくり返した。

 


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