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初期装備はゲームの華



 貴方には在っただろうか、全てを焼き尽くすほどの激情が。或いは全てを忘却する勇気が。

 掲げなさい。闇に呑まれぬように。

 心に火を灯しなさい、それはきっと龍にも届くから。


 芽生え、芽生え、大輪の花。

 喰らい、喰らい、無縁の花。


 かつて開闢の時、跋扈する竜による血戦があった。幾千の夜を越え、竜は奇跡を呪った。それは祈りか憎悪か。


 夜は明け、陽は遍くを照らした。あまりに強大な陽は民に夜を渇望させた。願い、願い、陽は落ちた。まだ夜は来ない。


 ──貴方には在っただろうか、全てを捧げる程の激情が。或いは全てを忘却する勇気が。

 掲げなさい。夜に呑まれぬように。

 心に陽を灯しなさい。それはきっと満天に輝くから。


 今はまだ。


 貴方は何を掲げますか?夢?理想?はたまた己?

それもいいでしょう。陽は全てに平等に。夜は全てを受け入れます。


 さあ、刮目せよ。これより始まるは一世一代の物語……!!!












 ──ドクンッ!!!

 今、この瞬間命が芽生えたような不思議な感覚で意識が覚醒する。

  VR特有の全能感に浸っていると、浮ついた声と熱気がそこら中から感じられる不思議な状況に俺はたまらず目を開けた。


「知らない天井だ」


 目の前には海外で見るような立派な造りの天井が高くに広がっている。

 首を傾ければ修道服の女性や炎を吐く竜を象ったステンドグラスまで見える。

 ここは大聖堂といったところだろうか。


「すっげぇ……」


 その熱気と騒がしさからわかってはいたが、立ち上がって見るとこのゲームの異質さが際立つ。

 見渡す限り人、人、人。全身鎧(フルアーマー)に身を包んだ如何にもっていう騎士もいれば、俺と同じ初期装備もいる。どこかで見たキャラクターのコスプレをしてる人まで。


「これ全部プレイヤーなのか」


 恐らく人数で言えばスクランブル交差点に匹敵する。少し違うとすればプレイヤー間の距離が少し遠い。まるでパーソナルスペースを守るかのように点在していた。

 

「あの……よかったら写真撮りませんか?」


 ぼーっとしている俺に声をかけてきたのはパッツパツのタンクトップに最低限の短パン……うん、初期装備(同胞)だ。

 せっかくのスタート記念だ、ここは同胞の提案に乗っておこう。


「写真?いいですよ」


「ありがとうございます!じゃああちらの柱に集合で!」


 言われるがままに同胞に指定された柱を見る。

 

「……うわぁ」


 そこにはたくさんの同胞がたむろしていた。

 どうやら初期装備のプレイヤーに片っ端から声をかけていたようだ。

 

 目的の柱に近づくと喋り声が聞こえてくる。既にグループが出来ているようだ。

 内容といえば同じ初期装備同士、これからどういう風にこのゲームを遊んでいこうか悩んでいると言ったところ。

 気になるところと言えば喋っていない人も結構いる事だ。

 決してあぶれているというわけでもなく、今だってニコニコと俺に向かって手を振っている。

 理想の声になれるこの世界でだ。


「そういうプレイスタイルもあるんだなぁ……」


 感心していると俺に声をかけてきた同胞、初期装備君1号が新たな同胞を連れて帰ってきた。


「みなさーん、それでは祭壇の前に行きましょう!」


 ゾロゾロと移動する様は百鬼夜行?いやバスガイドに連れられる観光客だ。

 ステンドグラスを背にするとみんな思い思いのポーズを取り始める。

 初期装備仲間だと思っていたのに思いの外みんな個性豊かだ。


「はいみなさん笑って〜、はいチーズ!」


 俺は敗北感を覚えながら初期装備らしく王道のピースを選択した。


「ありがとうございました〜!一緒に()()()()楽しんでいきましょうね!」


 初期装備君1号が締めの挨拶をすると大量の同胞は蜘蛛の子を散らすようにいなくなった。

 このゲームはドラグラって略すらしい。去り際に貰った集合写真を眺める。

 

「ドラグラか〜」


 俺の頭の中は越冬よりおしゃれだな〜という感想で埋め尽くされていた。

 後光が差して強調された初期装備は人数が多いこともありカルト的な集団に見える。

 

「大聖堂でカルトじみた集団を結成する……そういうのも面白そうだな、リアルじゃ出来ないし」


 とはいえ同胞は既に散り散り。

 俺は行く宛もないので大聖堂を散策することにした。

 RPGだとレアなアイテムとか手に入ったりするものだが何かあったりしないか?




「……ほんとに見つかっちゃったよ」


 アイテムの類ではないものの、誰かがズラした形跡のある台座の下に地下へと続く隠し通路を発見した。

 別に何一つ悪いことはしていないが辺りを見回して見られていない事を確かめてからその階段を降りることにする。


「隠し通路とか何年振りだ?子供の時にやった2Dゲーム以来か」


 VRを買ってもらえなかった時期にしのぎとしてやっていたゲームを思い出す。

 隠し通路に秘密基地、裏技にモンスター育成。ワクワクてんこ盛りセットなゲームだったな。

 懐かしさに後頭部を殴られていると不意に地下から爆発音のような音が聞こえて来る。


 Baaaaaaan……


 地下だから実験?それとも誰かが戦闘しているのか?

 始めて馴染み深い単語に否応になくテンションが上がる。

 

「実験なら暴いてバトル、戦闘なら乱入してバトルだ!」


 そっち系もちゃんとある事に感動する、そういえば公式サイトにも血湧き肉躍るとか書いてたっけ?

 何にしても戦闘はウェルカムだ、このゲームで……いやドラグラでどこまで俺が通用するか確かめてみたい。


 隠し通路は石畳で出来ていて、仄暗く長かった。その上長い道の先に階段らしきものが見えるのだから、長丁場になる予感を感じさせてくるというものだ。

 助かったのはこの通路がジメジメしていない事だろうか、むしろ乾燥していて壁や床には焦げ付いた痕がある。

 言ってしまえば冗長で退屈だ。そんな時間を彩る必殺技がある。


「出てこいアルボ!」


 体から何かが抜けるような感覚と共に俺の半身、いや半魂であるアルボを召喚する。

 アルボは突然呼び出され辺りをキョロキョロしている、かわいい。

 俺はノーモーションでアルボに抱きついた。


「どわあああ!?なにするんですかご主人!」


「え、喋れたのかお前……」


 アルボは跳ねる様に元気溌剌なかわいい声で悲鳴を上げた。

 解釈的には一致しているがかんというかこう……お前まじか。という気持ちが拭えない。


「ナビさんが言ってたじゃないですか!声もイジれますって!ご主人がイジらないから私初期ボイスなんですよ!?」


「いいじゃないか初期ボイス。同じ初期を冠するものとして仲良くしていこうぜ我が半身よ」


 そういえばそんな事も言ってた気がするな。

 しかし今更そんな事言われてもどうしようもない、受け入れるしかないのだよ我が半身よ。

 

「つまりアルボは俺にそのふっさふさの尻尾をもふらせるべきなんだ」


「も、もふっ……!?なんでそうなるんですか!ダメですその様子じゃご主人は全然話を聞いていません!なので今から私が説明します!」


 アルボは巧みに俺の掴み攻撃を掻い潜って目の前に立ちはだかった。

 しかしアルボがどれほど手を伸ばしてもせいぜい俺の腰まで。通行止めにするには色々と不足している。

 

「いいですか!まず半魂というのはですね……」


 やれ召喚するだけでステータスの1/3が持っていかれるだとか俺のせいでスキル欄が空っぽだとか色々言っているがどうだっていい。

 俺はいま目の前で規則正しく動く尻尾に目が釘付けにされている。

 

「だいたいですねご主人は……」


 右、左、右、左、右、左。頭の中が尻尾コマンドでいっぱいだ。

 決して入力を間違えないその寸分の狂いなき尻尾が俺を狂わせる。

 だんだん目が回ってきた、これはまずい。


「なるほどなー、そうだったのかー」


「わかってくれましたか!」


 右、左、右、左、右、左。


「なあアルボ」


「はい!ごしゅ……ってなんで近づいて来るんですか!?ご主人!?なにして……」


 右、左、右、左、み……ニュートラル!?

 ここに来てアルボの尻尾が新たな動きを見せる。逆立つようにピンとたった尻尾を俺は合図と捉えた。

 前へと崩れ落ちるように倒れ、その尻尾を狙う。アルボが反応するのが早いか俺が捕まえるのが早いか、その結果は……


「どわああああああ!」


 アルボの悲鳴が地下通路に響き渡った。



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― 新着の感想 ―
[一言] ( ˙꒳˙ )ナンダコイツw
[良い点] このAIもうSAOのユイちゃんくらい自然な会話出来てますね…これぐらい自由に会話できるAIが開発されたら一人暮らしの人に爆発的に売れそうw
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