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サーチアンドデストられ大作戦



 固まっていたイグニアを蘇生し、無事協力を取り付けた俺は情報を整理する。

 

 とりあえず最終目標は見晴らしのいい高台に登る事。

 高台を探す上でドラグリアの街並みはとてもわかりやすい。

 というのも全体的に高低差がなく、聳え立つ大聖堂を崇めるように街が栄えているからだ。

 ロケハンした限り大聖堂を抜きにすると背の高い建物は一つだけ、ジョブチェンジで何度もお世話になった七色の煙を出す煙突がトレードマークのあの建物だ。


 しかしいかんせん場所が悪い、馬鹿正直に直行すればシスターとかち合うこと間違いなしだ。

 最終的には強行突破でもいいと思っているがそれをするには距離も遠ければシスターのスペックもわからない。

 かくれんぼだろうが鬼ごっこだろうがとにかく鬼の情報が欲しい。

 よってここは有識者の出番だ。


「イグニア、シスターについて教えてくれ」


「うーん……?」


「なんでもいいんだ、何人いるかとか地獄耳だとか、不思議に思った話でも構わない」


 漠然とした質問にハテナを浮かべるイグニアも、それならたくさんあるとばかりに不思議そうな顔でシスターについて話し始めた。


「私の周りには普段は3人……あっ、でも一度抜け出そうとした時は10人がかりで止められたような?」


「10人」


「それより聞いてください!シスターってば私が後ろから近づいても、隠れていても絶対に気付くのですよ!何度驚かすのに失敗したのでしょう、背中にも目が付いているに違いありません!」


「背中にも目」


「だいたいちょっとぐらいイタズラさせてくれても良いと思いませんか!?シスターはケチです!」


「シスターはケチ」


 なるほど、全然わからない。

 こういうのって聞けば手がかりとか突破口とかそういうのがわかるものじゃないのか?

 私情挟まりまくりの説明から俺のリアルインテリジェンスは一つだけ情報を汲み取った。


「シスターは1人いたら10人いると思え、細心の注意を払うべしって事だな!」

 

 どうやら探偵ごっこをするには頭が足りなかったらしい。

 おおよそ誰でもわかる結論を導き出してしまった俺は考える事をやめてイグニアの手を取った。


「これよりお忍び隠密大作戦を開始する。イグニアはシスターを見つけたら必ず俺の後ろに隠れる事、オーケー?」


「はい、お、おーけーです!」


 なに、要は見つからなければいいのだ。

 こちとら幼少の頃から鬼のような形相をした母さんの目を盗んでゲームして来たという実績がある。

 まして辺りには動く障害物だらけ、先手さえ取られなければ隠し切れるはずだ。

 




「あ、あのこれ……大丈夫なのですか?」


「大丈夫って?」


「全く忍べていないような気がするのですが!」


 飛び出した勢いのままズカズカと歩みを進める俺にイグニアから待ったが入る。


 忍べていますかだって?

 それについてはNOと言う他ない。

 なんなら俺とめろんぱんだによるコーディネートのせいで周囲のプレイヤーからチラチラと見られてしまっているぐらいだ。

 

「確かに忍べてはいない。しかし、しかしだイグニア。木を隠すなら森の中という言葉があるように、人を隠すなら人混みの中だ。この往来で2人だけこそこそと動く方が余計に怪しいだろ?堂々と歩くことこそが隠密行動の真髄だ」


「な、なるほど……でも忍べていないのですよね?ダメじゃないですか?」


「……ははは」


「ダメじゃないですか!?」


 本日何度目かの誤魔化しはついに通じる事はなかった。

 いや違うのだ。俺だって色々考えてはみたけど、その上で諦めて強行突破を選んだワケで……名誉の諦めとでも言って欲しい。

 

 今まで目を背けて来たけどこの光り輝く髪。

 目立つとかいう次元じゃない、もはやフルフェイスヘルメットでも持って来なければ隠せる気がしない。

 

 ぶっちゃけこれで忍ぶのは無理ゲーだ。



「お、見えてきたな。あそこに見える七色の煙を出してる建物が目的地だ」


「おおーっ!綺麗で……あっ」


 イグニアは何かに気付いたようでサッと俺の後ろに隠れた。

 事前に取り決めていた通りの行動に俺も周囲を見遣る。

 

 遠くで迷子を探すようにキョロキョロと首を振っているシスターがいた。

 

 幸いにも背を向けていて、俺たちに気付いた様子はない。

 ここをパス出来ればゴールも目前、走って強行突破出来る圏内だ。


「ここが正念場だな、なんとしてもやり過ごすぞイグニア」


「はい!」


 盾は多い方がいい。

 シスターとイグニアの間に常に通行人が挟まるように歩幅を調整する。

 俺のぎこちない動きで察したのかイグニアも同じくぎこちない動きで調整してくれたようだ。

 準備は万全、心の中で手を合わせ、神に祈る。


 どうか振り向きませんように。


 ドキドキと乱れた拍を打つ心臓は俺にホラゲーをやっていると錯覚させて来る。

 大丈夫、まだ少し距離がある。


 慌てるべからず。

 俺が胸を叩いて無理やりにでも落ち着かせようとした時。


 シスターの体がピタッと止まった。


 背を向けているはずのシスターから睨まれたような感覚をおぼえ、背中に猛烈な寒気が走る。

 かつての記憶が俺に全力で赤信号を出して来た。これ以上は危ないと。

 しかし既に退路はない。

 物怖じして一瞬体が固まった俺に対してイグニアは今も律儀に通行人と同じ歩幅で前に進んでいた。


 大丈夫だ、まだ背を向いている。本当に睨まれたワケじゃない。

 直感的にイグニアとシスターの直線上に体を挟む。


 チラチラとシスターを見遣るも動く気配はない。

 よかった、気のせいだった。

 苦手なホラーの雰囲気に、早まる鼓動が作り出した幻覚だったと結論付ける。


 

「……けましたよ……じょ……ま」



 ぞくり。

 ホッとした頭とは裏腹に神経を尖らせていた体が雑踏の中から音を拾い上げた。

 気付けば俺はイグニアの手を取り走り出していた。


「ち、ちょっと!ええ!?バレますよ!」


 ハッキリ聞こえる小声の抗議を聞き流す。

 安堵する俺を拒絶するような体が、今のは幻聴なんかじゃないと告げている。


「もうとっくにバレてる!」


 走り出したと同時、視界の端でシスターが振り向いた。

 偶然なんかじゃない。シスターは既に臨戦態勢に入っていた。


 何故バレた?完全に背を向けていたはずだ、見られたワケじゃ……

 そこまで思考を走らせた時、ふと脳裏にイグニアの顔がカットインして来る。


 ──背中に目でも付いているに違いありません!


 いやいやいやそんなワケがない、仮に目が付いているなら俺たちが一方的に先に見つけられるのも変な話だ。

 考えられるのは第六感。というかNPC(イグニア)的にはそうとしか思えないはずだ。

 しかし俺たちプレイヤーから見ればその限りではないはずだ、遠距離でも近距離でもない中距離での反応。

 ゲーム的に言えば感知範囲。

 俺たちの小賢しい隠密大作戦はシスターの範囲円に足を踏み入れた事で容易く砕け散った。


「くそっ!俺が探偵ならもっと早く──」


裁きの右腕(ジャッジメント)


「はあぁぁぁっ!?」


 シスターが神に祈るポーズを取った瞬間、光の柱が()に向かって飛んで来る。

 面食らった俺は満足に考えることも許されず、咄嗟に浮かんだ回避手段から消去法でイグニアを肩で押して転がり込む事を選択する。


「すまんイグニア!」


「えっ、あっ、はい」


 俺は受け身を取ると、頭に大量のハテナを浮かべ間抜けな顔をしているイグニアの手を再度取り走り出す。

 

 確かに街中でもダメージ判定の無いスキルは使える、使えるが!

 技名と言いターゲットと言いどう考えてもあれ攻撃スキルだろ!


「NPCに法は関係ありませんってか?職権濫用甚だしいな!」


 愚痴を叫びながら七色の煙目指して走る。

 先手で動き出せたのはよかった、遠いと思っていたゴールも目と鼻の先、これならゴリ押せる。

 

裁きの右腕(ジャッジメント)


「2度目は当たんねえ、よっ!」


 迫り来る光の柱を上半身を屈める事で余裕を持って回避する。

 次の行動に備えて体を起こした時、()()が目に入る。


 ──1人いたら10人いると思え。


 自ら細心の注意を払えと言ったのにもかかわらず、後ろのシスターに気を取られていた俺はすぐ近くまで他のシスターが接近していた事に気付かなかった。

 

「「「裁きの右腕(ジャッジメント)」」」


 立ち塞がるように現れた2人のシスター、2人は当然のように神に祈っていた。

 前から2柱、後ろから1柱の光が迫る。

 袋の鼠となった俺の末路は一つ、死──


「エアスライドォォォォ!」


 イグニアと鎖のように繋がっている俺は3柱の光を避けられないと判断。ギリギリで半魂(アルボ)を戻しステータス制限を解除、条件を満たし移動用スキル、エアスライドを発動。

 一陣の風と共に空を滑るように退避する。

 空を切った3柱の光は対消滅。当たれば即ゲームエンドの雰囲気を出していた。


「あ、あの……」


「しっかり捕まっとけ!!」


 エアスライドの効果は俺1人、故に抱き抱える形になってしまったイグニアからふにゃふにゃの声が上がる。

 しかし構っていられるほど余裕がない。

 エアスライドを使って建物上まで昇る予定だっただけにいま切らされたのはかなりまずい。



 CD残り6秒。あの即死の光柱を避け続けるゲームが始まった。



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