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限界突破 1凸



「オマエ、落ち込むにはまだ早いぞ?」


 めろんぱんだは躓いた程度で大袈裟に落ち込む俺を覗き込んでそう言った。

 多分慰めのつもりで言っているのだろうが、オマエという呼び方のせいで発破をかけているようにしか聞こえない。

 確かに躓いた石はデカくないし小石といっても問題がないぐらいだ。


「でもさあ、朝からレベリングして花火の検証してよくわからない素材を集めにツルハシをひたすら振ってようやく終わりの兆しが見えたらこれだぜ?しかもまだ昼、いっそ夜にしてくれ〜って感じだろ?」


 頑張って倒したボスに第二形態があった時のような……無駄にはなっていないのだが振り出しに戻されたあの感覚。

 別に高望みしなければ解決する話ではある。話ではあるがせっかくめろんぱんだと出会って、せっかくここまでやってきて、今更妥協するのもなんか違うだろ?

 ……ってこんな事さっき会ったばっかりのめろんぱんだに言うことじゃないか。


 案の定不思議そうな顔をしているめろんぱんだは何事もなかったかのように口を開いた。


「私も今日は朝からジョブレベルを上げていたぞ?マーケットで買うものを間違えてしまったりもしたな!妖精さんの新しい服を作って……それから素寒貧にもなったな!しかもオマエに蹴り飛ばされたかと思えばカッコいい竜のおまもりをもらったしギルドにも入ったな!昼にして楽しい1日だったと思うぐらいには目白押しだったと思うぞっ!」


 聞く限り踏んだり蹴ったりだ。

 それだと言うのにめろんぱんだは楽しそうに話す。

 明らかに俺より大変そうなのに。


 めろんぱんだはこれを大変だったとは1ミリも思っていないらしい。疲れた素振りもない。

 それどころか楽しいと言い放ってしまう始末だ。

 あの図星だっただけで丸くなるめろんぱんだが、蹴り飛ばされた相手から手を差し伸ばされただけでうるっと来ちゃうあのめろんぱんだがだぞ?信じられるか?


「おいおい、踏んだり蹴ったりじゃねえか、大丈夫か?」


「インベントリもほとんど空、お金も200エンカしか残っていない、戦闘なんて私には怖くて出来ない。どうしよう、全然大丈夫じゃないかもしれないな!でも私はオマエに蹴り飛ばされてよかったと思ってるぞ?詰もうとしている今も後悔などしてないぞ?……何もない1日より踏んだり蹴ったりの1日の方が随分と飽きないからな!」


 飽きない。たったそれだけのことで嬉々として災難を語るめろんぱんだの耳はピンと張っていて、生意気なぐらい自信に満ち溢れた顔をしていた。


 あー、なにがリアル小学生だ。読み違えも甚だしい。一度格ゲーで鍛え直した方がいいかもしれないな。


 めろんぱんだは打たれ弱い。そう思っていたのに蓋を開けてみればなんだこれは。

 

 ……打たれ慣れすぎだろ。


 明らかに俺より打たれ慣れている発言に、つい思わずにはいられない。

 もう一つの世界で他の世界の事を聞くなんて野暮以外の何物でもないけど。


「……何歳?」


「何歳に見えるんだ?」


 腕を大きく広げて尋ねてくるその姿は相変わらず子供のようで。ついさっきの発言とは到底重ならず、頭がバグってくる。


「10……といいたいところだが28!」


「正解は……内緒だ!いくらオマエでも野暮だぞっ!」


 まあそうだよなぁ……

 めろんぱんだは瞼の動きと連動するかのように片耳を折り曲げ、妖しく笑う。

 それは初めてやる動きなのかちょっとぎこちなかった。


「悪い悪い、おかげで気が晴れてきた」


「そうかそうか!それはよかったな!」


 下には下がいる。その下にいるヤツが楽しそうにしているなんて……羨ましい以外の何物でもないだろう。

 だったら俺もなればいい、めろんぱんだのように災難を嬉々として非日常だと楽しめるプレイヤーに。

 日常より非日常にゾッコンという意味では俺とて同じ気持ちだ、あれほどイカれている気はしないが。

 元々ゲームのそういうところに焦がれて来たしな。


「じゃあ気を取り直して次の一手を考えるか!」


 ついさっきも見たキョトンとした不思議そうな顔をムッと頬を膨らませる。


「いやオマエ」


 その掌は何かを寄越せと訴えかけるように天を向いていた。


「落ち込むにはまだ早いと言ったんだ、まだ麦わら帽子が作れないと決まったわけではないぞ!」


「え、でもさっきレシピがどうこう言ってなかったか?」


「まあまあ、私にまかせろ!」


 せっかく素材も手に入ったわけだしな!とめろんぱんだは催促するように手を動かす。

 すごい自信だ、まさか本当に?

 一抹の期待を胸に購入したテープ状の麦の束とドレスを渡す。


「何か策でもあるのか?」


「とっておきの策がある!」


 めろんぱんだは自信満々に胸を張る。

 もしかするともしかするかも知れない。

 俺の期待に合わせてめろんぱんだは大声で言い放った。


「勘だ!!!」


「無策じゃねえか!」


 あまりにも残念な回答に俺は膝から転けた。

 いま完全に「きゃーめろんぱんださんかっこいい〜!」ってなる流れだったじゃん、話が違うじゃん。


「なんか頑張れば出来る気がするんだ、だから安心してくれ!」


「ごめん、どこに安心できる要素があった?」


 めろんぱんだよ、頑張るは策の内に入らないのだよ。

 仮に入ったとしてそんな暴挙が許されれば世の全ての人は策士ってことになってしまう。

 策士の大暴落だ。……なんかありそうな言葉だな。

 


「クエストは今日の夜と言ってたな?何時からなんだ?」


「まあクエスト名的には12時からだな」


「なら11時半ぐらいにここで集合だ!それじゃあ私はマニュアルクラフトの勉強をしてく──」


「あっおい待てめろんぱんだ!」


 めろんぱんだは俺が止める暇もなく一方的に次を言い残して落ちていった。

 嵐のようなやつ……いや、嵐でももう少し落ち着いてるか。



「あーやらかした!」


 ついさっきの自分の行動を思い出してのたうち回る。

 協力を要請して連れ回したかと思えば勝手に落ち込んで愚痴を聞いてもらう?


 しかもめろんぱんだのあのらしくない言動に加えて慣れてなさげな動き。

 ……絶対気遣わせてただろ。


 こんなプレイヤーはいやだランキングを一直線に駆け上がっていく己の姿は最悪の一言に尽きる。


「入ったばかりのギルドメンバーにメンタルケアされるギルドマスター……?これ現実……?」


 思った以上にひどい現状に頭を抱えるしかない。

 どこからミスっていたのか。

 やっぱり愚痴ったところか?それとも麦わら帽子のくだりで躓いたところからか?

 

 いや、愚痴になるほど溜め込んだところか。


 ゲームで愚痴を溜め込んでいてどうする。

 思い返せば、クエストを受けた辺りから調子がズレていた気がする。

 準備だなんだと言ってあれもしなきゃこれもしなきゃ、今度はそんな事まで?

 そんな風にこのクエストの事をやらなければいけないタスクのように考えてしまっていたのかもしれない。

 ゲームはそんな風に考えて遊ぶものじゃない、もっと楽しまないと。


「んー、あー、いやー……違うな」


 そもそも楽しまなきゃってスタンスが間違っているか。

 肩肘張って楽しもうだなんて冗談が過ぎるよな。

 でもそうするとこの3日間。というか始める前からズレていたって事になる。


 あー、もっと気楽にやろ……



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