かわいいはクリエイトできる
──次に本作の目玉システム『半魂』について説明します。
無機質であるかのように思われたナビの声が少し得意気な色を帯びる。
そういえば自分だけのパートナーみたいなことを公式サイトで謳っていた気がする。それのことだろうか。
──あなたの魂を一部切り分けてオトモを作成しましょう。オトモである半魂は姿形、声や能力までイジる事が出来ます。是非あなただけの半魂を作りましょう!
目の前にトンでもない数の項目が広がった。その数は俺を作る時よりも遥かに多く、丸一日かけても見終わるか怪しい。
こういうの、先に知ってたら考えてきたんだけどなぁ……
「とても決められる気がしない。ナビ、何か良い方法はないか?」
──でしたらこちらの種族混成を利用してみてください。必ずあなただけの半魂が生まれるでしょう。気になる組み合わせはもちろん、ランダムに掛け合わせることも可能です。
何そのゲテモノ製造機。
しかしランダムという言葉は素晴らしい、つまりはガチャが出来るという事。
何度も引き直せるガチャがある?だったらやるしかないだろ。
俺好みの半魂が出るまでリセマラだ!
「げ、思ったよりも渋め……?」
猫と人。一見当たりかに思われたその組み合わせは俺の想像を大きく越えた。
いや、猫耳と尻尾をつけた人間が出てくると思うだろ?違うんだ。
そこに現れたのは顔と胴体が猫で手足が人間、端的に言ってキモい生命体だった。
ドラグーン・ラディエンス……かなりの強敵になりそうな予感がする。
「おわぁっ!なんだこれ!次!」
エルフとオーク。ありえない組み合わせで生まれたそれは、着ぐるみの頭だけを脱いで中からエルフが出てきた。そんな見た目をしていた。
「かっこいいけどちょっと違うんだよなぁ……次!シンプルにダサい!次!なんでちょっと相性いいんだよ!次!」
竜人と魚、豚とゴリラ、犬と猿。俺はテンポよくリセマラを進める。
一つ気付いたことと言えば、頭は前に来た方を参照するということだろうか。言ってしまえば亜人系は前に来なかった場合、高確率でキモいのが誕生する。
「次!次!次!次ィィィィ!」
リセマラ道は長く太く。どこまでも続いていた。
突然だがリセマラ中に遭遇したワースト3を発表したいと思う。
3位、金魚とアンデッド。
アンデッドはどう見てもハズレだと思うだろ?それだけじゃないんだ、アンデッドはゾンビだし金魚はよりによってデメキンだった。
ホラーゲームの住人が突然出てきて腰が抜けたので恨みを込めて3位にランクインだ。
2位、カピバラとナメクジ。
現実路線はダメだ。何がダメって奇跡的なバランスで成り立っているボディを分解してバラバラに組み直すのだ、キモくならざるを得ない。
肝心のこいつを言い表すならそうだな……毛が一切ないツルツルのカピバラの顔がナメクジの体にくっついている。
もちろん顔のサイズなどは綺麗に調整されているが、そんなもの親切心でもなんでもない。むしろ綺麗に掛け合わさって無い方が笑えて良いかもしれない。
リセマラ中の俺に絶望を与えてきたので堂々の2位にランクインだ。
1位、人と蜘蛛。
その混ざり具合はダメだろ!?という混ざり方をしている。
シンプルイズベスト、キモいし怖いし記憶に残るので最悪と言っても過言ではない。
思い出したくもないので堂々の1位だ。
さて俺が突然ランキングを発表したのにはワケがある。ついに引き当てたのだ、大当たりを。
いや、大当たりどころじゃない。さっきまでのワースト組と比べるのも烏滸がましい、いま俺の目の前にいるのは……神だ。
ドワーフとたぬき。字面では何かの二の舞になりそうな気配を感じていたが、いざ目に飛び込んできたのは女神だった。
白みがかったプラチナブロンドの髪は毛先まで綺麗に整えられたボブで、体は人らしさを残しつつ手足などの末端にかけてふさふさがもふもふになっていく赤茶色の体毛に覆われている。
驚くべきはドワーフという背が低くともバランスが取れる種族とたぬきの耳やお腹といったマスコットらしい特徴が奇跡的にマッチしているところだ。
顔が人すぎないのもいい、微かにたぬきの面影を残すその顔は神が造りし天上の美少女、まさにたぬきに化かされた気持ちになれる。
俺の膝あたりまででまとまった天才的なバランスによってマスコットらしさを体現したドワたぬきは格ゲーでムキムキの筋肉ばかり見てきた俺に癒しを齎した。
「君に決めた!」
──半魂創成を終了しますか?細かな修正や装飾品、衣服の追加なども出来ますが。
「そういうのは早く言ってくれよナビえもん!もちろんやるぞ!」
我が半身というにはかわいすぎる生き物に俺は気合いが入っていた。
……俺が世界一かわいくするからな!
相変わらず膨大な項目を見ていく、剣に帽子にドレスなどの他にもCDなんていう、カラス避けでも作るのか、誰が使うのかわからないようなものもたくさんある。
わけのわからないものが多く、そのどれもがピンと来なかった。
「なあナビ、ここに無いもの出してくれって言ったら出せたりするのか?」
──無いものですか。技術的には可能です。少々、いやかなりお時間をいただきますが。
ふとした思いつき、それにナビは予想外の答えを返してきた。
まるで作りましょうか?とでも言わんばかりの口振り、俺はAIの進化に感動した。
善は急げ、何を作ってもらう?見ていた中で一番似合いそうだったのは和服、浴衣の類だ。
だがしっくり来なかったのも事実だ、もっと似合う何かがあるそう感じたのだ。
そうだ、たぬきっぽく葉っぱとか欲しいな。それからドワーフっぽさも欲しいからアレも……
「ナビ、三つほど頼めるか?」
──承りました。1時間ほどお待ちください。その間こちらでチュートリアルを受けてみてはいかがですか?
自分でもなかなか複雑な注文をしたと思ったのだが1時間で出来るのか……AIの進化ってすげぇ……
「まあ暇だし、せっかくならチュートリアルやるか」
普段はチュートリアルを飛ばして手探りでやるタイプだが、たまには悪くない。
俺は勧められるがままにチュートリアル空間に飛び込んだ。
「……はぁ、やっと終わった…………」
チュートリアルという名のQ&Aを見せられた俺はその場にへたり込んでいた。
一般的なチュートリアルであれば戦闘の指南あたりが挟まれるが、このゲームは違う。
広い原っぱで座学を受けるというなんとも珍しいものであった。
内容自体は音声設定や自分の情報の見方、NPCのリスポーンやら流血ならぬ流ポリだから安心!などタメになるものばかりだったが、流石に退屈だったとだけは言っておこう。
正直半分ぐらいは覚えていない。
──プレイヤー様の注文の品が完成しました。早速半魂に反映しますか?
「頼む!」
やや食い気味で返す。今か今かと待っていたのだ、さあどうなる……?
俺の目の前にはぶんぶくちゃがまがいた。
甲羅のように茶釜に体を通し、浮いた顔と茶釜の境界線を誤魔化すようにサンタさんを彷彿させる白いもじゃもじゃを首に巻き、たぬきのトレードマークである葉っぱのペンダントが白髭のマフラーの上に乗せられる。
髭に葉っぱに茶釜。まさしくドワたぬき特注の装備だ。
実はもう一つだけ拘ったところがある。茶釜の背中側、蓋を開けると中が炉に見えるようにしてもらったのだ。
やはりドワーフといえば鍛治!つまりドワたぬきにも鍛治感が大事なのだ。例えフレーバーなものだとしても。
仕上げに尻尾のもふもふ度を上げて……と。
「完成だ!」
我が半身、いやドワたぬき……いやうちの子が誰よりもかわいくなった瞬間だ。もうこのゲームクリアでいいんじゃないか?
──それではプレイヤー様、あなたの名前を教えてください。
聞き馴染みのある質問。数多のゲームで送り出される直前に聞かれる恒例行事。
これが聞かれるということはキャラクリの時間がもう終わるということだ。
意外と盛り上がったからだろうか?長い時間いたからだろうか?
俺は名残惜しい気持ちを胸にナビにしっかり聞こえる声で宣言した。
「俺はヨバル。あとこっちのうちの子はアルボ」
──ヨバル様。あなたはこれから記憶を失った者、喪者として広大な大地に流れ着きます。どのように振る舞っていただいても構いません。ここドラグーン・ラディエンスはもう一つの世界です。続けていれば苦難や出会いもあるでしょう。サポートAIナビ並びに開発者一同。あなたの旅路を応援しています。
──それでは、どうかご武運を。
しっかり刻んでおかないとな。
「ドラグーン・ラディエンスに殴り込みだ!!!」
だいたいゼニガメです。ケモ度で言えば25%ぐらいでしょうか?