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インスタント攻略軍



 竜晶洞穴。そこはあの発掘現場の地下に広がる洞穴で、何人かの先客がえっさほいさと採掘に勤しんでいる。

 疲れを知らないアバターには何故か冷や汗が浮かんでいる。

 洞穴内には上がる息の音とあちこちで振り下ろされるツルハシが弾かれるような音だけが響いていた。


「失礼しまーす……」


 汗水垂らす先達をよそ目にそれらしきものにとりあえずツルハシを振り下ろす。

 尖った切先は岩によってキンッと音を立て、まるで一筋縄では屈さないと採掘を拒絶するかのように弾かれた。


「硬すぎだろ、ゴーレムでも殴ってるのかこれ……?」


 これで本当に掘れるのか思わず疑ってしまうレベルで硬い。

 しかし先達の皆様方は同じように弾かれるような音を鳴らしながらも懸命にツルハシを振るっている。ちゃんと掘れるということだ。


 1人だったらさっさと諦めていたかもなぁ……

 どうせ弾かれるなら威力よりも回転率を重視してみるか、短くツルハシを持ち直し……何度も振り下ろす方向にシフトした。




「はぁ?竜火晶以外も取れるのかよ……」


 やっとの事で掘り返したものが竜"水"晶で思わず血管がお亡くなりになった。

 そりゃあ属性とかあるだろうし出ない方がおかしいよ?おかしいけどさぁ……


「冗長な作業とランダム要素を掛け合わせたらだめに決まってるだろ!」


 まともに刺さるまで40回近くは振った。ゲームでやる採掘の過酷さじゃない。

 その上掘ってアイテム化するまで名前がわからないと来た。

 

 どうりでここにいるみんなが冷や汗を浮かべているワケだと納得していると不意に声が聞こえて来た。


「不良品じゃないのこれ!!!!!」


 あ、キレた。


「スキル使わせろ!!!」

「汚ねえ商売しやがって!!」

「もう限界!なんか腕痛い気がする!!」


 誰かの不満を皮切りに……って俺か。

 俺が叫んだ事をキッカケに静かな洞穴内部はせっせこ頑張っていた先達の皆々様が爆発させた不満で満たされた。



 不満暴露大会の会場と化した竜晶洞穴は5分に渡って魂の叫びを響かせ続けた。

 むしろよく爆発しなかった方だと言える。俺なんて一振りで根を上げたというのに。

 


 一頻り吐き出され、久しぶりの安息が耳に訪れた時、周辺チャットを傍受した。


 ──情報交換しませんか?


 ヒートアップした頭を冷やすかのように投げられた前向きなその言葉で我に帰る。

 そうだよな、文句ばっか言ってても仕方ないよな。テンション上げてもう一踏ん張りするか。


「そう来なくっちゃ面白くないよなァ!」


 竜火晶1個も採れず帰れるか。

 こんな硬いだけのしょうもない壁に阻まれて計画ぶち壊しなんて論外だ。

 絶対10個持ち帰って今日、クエストを進めるのだ。

 

 ──僕は上で貸してもらったツルハシで3時間掘って36個って感じです。

 ──嘘!?私も借りたツルハシ使ってるけど2時間で15個とかなんだけど!

 ──俺も借りてっけど1時間で10個だな。


 火が点いたのは俺だけじゃないらしい、続々と不満を叫んでいたプレイヤーが参加してくる。

 それにしても何故人によってこんなに個数が違う?

 というか俺を含めても2人しかツルハシ持参してきたヤツがいない。借りすぎだろ。

 

 ──さっき誰かも言ってたがその借りたツルハシが不良品なんじゃないか?


 入れそうなタイミングで俺も会話に混ざる。

 不満大会の時からやけに胡散臭いあのNPCに当たる声が多いと思っていたのだ。


 ──そうだ!わざと掘れないツルハシを貸し出してレンタル料金で金儲けしてるんだ!

 ──そういうこと!?1時間1000エンカで安いと思わせて長く滞在させる事で搾り取ろうっていうの?

 ──いや、私はツルハシ持参してきたけどみんなと個数ほとんど変わらない。私はむしろ同じように借りたあなた達の方が差が開いてるのが気になる。


 即刻軌道修正が入る。

 全然違ったらしい、恥ずかしい。


 ──そうですね、僕もそっちが気になります。皆さん途中で手を休めたりしてませんか?

 ──んや、俺はずっと全力で振ってたぞ。

 ──私も〜、ていうかこの体疲れないしみんな振ってたんじゃないかな〜


 何故差が激しいのかわからず難航しているようだ。中にはドロップ率なんじゃない?と血迷ったことを言い始めるプレイヤーもいた。

 難航している話に混ざっても迷宮入りするだけなので大人しく採掘を続けているとふと違和感を感じた。

 

「なんか……俺ペース早くね?」


 漠然とした感覚だしみんなと違って何時間も振ってないから思い過ごしかも知れない。

 でもどう考えても俺がこのまま掘り続けたらみんなの倍以上は掘れる。

 何がこんなに違う?


 ──なんかみんなに比べて俺ペースすごい早いんだがみんなどうやって掘ってる?


 頭を捻ってもわからないので雑に投げる事にした。


 ──どうって……普通に?思いっきり岩壊そうと頑張ってるけど。

 ──同じく。

 ──そうですね。僕も振る時の遠心力に任せて掘ってますね。


 んん?

 突然俺の目の前に一筋の光が見える。

 リアルインテリジェンスというやつだ。

 

 ──あー……一旦短く持って壊す事より回転率上げていっぱい叩いてみてくれないか?


 俺が考えるに採掘は多分クソゲーじゃない。

 みんなが同じように振って違いが出ると言うのであれば恐らくそれは力の問題でも硬さの問題でもない。ならどこで差がつくのか?多分ステ振りの問題だ。

 そして俺の効率がいい事を踏まえれば、考えられる採掘の条件は力で掘り起こす事ではなく回数だと思われる。

 思えば力いっぱい振っても弾かれるのに突然刺さるようになるのはおかしい、一点に火力を集中でもさせない限りは鉄壁の防御というのはそう簡単に崩れないはずなのだ。

 


「答え合わせといってみようか」


 ──なるほど、そういうことですか。僕は掘れました。

 ──えー早くない!?私まだなんだけど!


 最初に報告が上がるのは36個取っていた敬語プレイヤー。

 そして次は……


 ──おっ!確かにはえぇな!言われた通りやってみたら出来たわ!


 頭に筋肉詰まってそうなこの威勢のいいプレイヤー。

 それじゃあ次は……


 ──あ〜めっちゃはや〜い!すご〜

 ──私も掘れました。

 ──ほんとじゃん!どういうカラクリ?


 まあ全員これぐらいか。

 2人目とその他大勢の差がほとんどなかったのは意外だったがだいたい合ってたからよしとしよう。


 仕組みに気付いた事が余程嬉しかったのか、はたまたこの採掘に終わりが見えた事に喜んでいるのか一番乗りのお堅い喋り方をしていたプレイヤーが、ちょっとウキウキした声色で俺の代わりに解説し始めた。


 ──この採掘は叩いた回数でアイテム化するような仕組みになっていて、一定の回数叩くまではただの前座。それを僕たちは大振りで壊そうとしていたから必要以上に時間がかかっていた。そういう事ですよね?

 ──なるほど〜!あったまいい〜!


 え、全部言うじゃん。俺の手柄は?

 リアルインテリジェンスが冴え渡って俺がチヤホヤされる展開じゃなかった?

 

 ──そ、そういうこと。ついでに言えば君は多分魔法使いだよね?


 ──え、あ、合ってます。


 へっ、お前がINTにぶっぱしてるであろう事はお見通しなんだよ!

 リアルインテリジェンスでは俺の方が上だがな!


 ──そんな事もわかるのか!?なら俺は、俺はなんだと思う?


 ──うーん、戦士?


 ──惜しいな、俺は剣士だ!

 

 知らねえよ!

 思わず突っ込みそうになる。

 こちとらお前がSTRに振ってるであろう事以外情報ねえんだ!せめて択にしてから持ってこい!


 ──えーじゃあ私はわかる?


 ──あー、生産士?


 ──ぶっぶー!アルケミーでしたー


 いやだから知らねえよ!

 俺は採掘をしに来たの!クイズ大会やってるワケじゃないから!


 ──逆に私が当ててあげる〜、う〜ん大工的な?


 ──……花火師だ。


 ──あ〜惜し〜!

 ──花火師って何すんのかな?

 ──そりゃお前、花火上げるに決まってんだろ。花火師なんだから。

 ──花火師ww


 ──うるせーーー!


 ナニワロテンネン!!!

 思わず流れてもいない西の血が暴れ出すところだった。

 いやこれクイズ大会じゃないから、まじで。あと大工は全然惜しくないから。


 チヤホヤされるはずが何故かおもちゃにされ、よくわからないまま竜晶洞穴を攻略した俺は採掘に戻った。戻ったのだが……


「俺の効率変わってねぇぇぇええ!」


 ただ振り出しに戻っただけであった。



勘が良い方はお気付きかもしれませんが、ここの竜晶洞穴は非戦闘区域にある救済処置なのであまり美味しくないように設定されています。

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