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画面外から想定外に殴られる



 奪っては斬り、奪っては斬り……キリングマシーンと化した俺はフィーバータイム並みにキリコを倒し1時間とかからずに32レベに到達することが出来た。


「順調順調!この調子なら昼には整いそうだ」


 迷いなくDEXにぶっぱし、50の大台に乗せる。これでようやく花火の開拓を始められる。

 とりあえずキリコはもう懲り懲りだ、見るだけで腕が出てしまう。

 発作が出てしまう前にさっさと跋討百鬼の森にさよならを告げた。




「この辺りなら問題ないか?」


 花火の実験場に選んだのは始まりの竜原の隅も隅。

 見渡しても片手で数えられるほどの人影しか見えないここは良い穴場だ。

 本当はアルボにも見てもらいところだが、半魂を召喚するとDEXが50を切ってしまうため諦めよう。

 

「灼華繚乱……あーこういう感じか」


 発動と同時にウィンドウが現れ、大小模様種類と様々な花火が選択肢に上がる。

 まずは一番お手軽で馴染み深いやつから行こう。

 仮にも生産系、材料を要求してくるが生憎手持ちに要求されているような物はない。

 


素材ポイントで作製を選ぶと品質が低下します。

足りない材料を素材ポイントで補って『線香花火』を作製しますか?

 →YES      →NO



 完成度は後、とりあえず作れるならそれでよし。

 花火の中でも鉄板も鉄板。庶民の味方、線香花火を作る。

 作るといっても画面をちょっと操作するだけだが。



・線香花火

品質: 低

レア度: ⭐︎⭐︎

説明: 先端から弾けるような火を放つ。

一瞬の煌めきは使用者の腕によってどこまでも続くだろう。落ちる刹那、その火は何を想うのか。



「星2か〜どこまであるかわからないけど、多分相当低いよなぁ」


 完成度は気にしないといったもののいざしょぼそうなのが出来ると気になってしまう。


 燦々と日に照らされ、辺りは静まり返っており、広い草原でただ1人。

 花火を楽しむには風情もへったくれもない最悪の状況……検証にはピッタリとも言える。

 早速出来上がった線香花火を使用してみた。


「…………」


 ……しょぼい。

 ロクに弾けることなく15秒程度で寿命を迎えた線香花火への率直な感想だ。

 

 いやでも俺にはまだ打ち上げ花火がある。

 きっとこれは星2の線香花火だからこの程度とかそういう話だ。

 俺は警告も無視して急いで小さめの花火玉を作製する。



・花火玉(小)

品質: 低

レア度: ⭐︎⭐︎⭐︎

説明: 空に控えめな火花を散らす。

小ぶりで軽量な花火玉は初心者でも扱いやすく、控えめに咲く火花は見るものの期待感を煽るだろう。



「頼む、頼むぞ〜」


 リアルの花火玉では見ないような柄のついた花火玉が出来上がった。

 小さいものの説明文を読む限り期待が持てる。

 俺は花火玉から距離を取りつつ、遠隔発動を試みた。


「お?これは?」


 時間を設定してくださいという文言と共に1秒から1時間までの時間が表示された。

 セルフタイマー機能がある事に感動を覚えつつも遠隔発動が可能な事に歓喜する。

 アルボに頼らずとも花火を打ち上げられる事が出来る……つまり打ち上げ花火を下から見る事にはならずに済んだのだ。


「第一関門は突破、後は出来が良ければ……!」


 期待を込めて花火玉を見守る。

 設定した30秒が経ったタイミングで導火線に火が点き、今まさに打ち上がる……はずだった。


 爆発と同時に支えのない花火玉はあらぬ方に飛んでゆき、落下し始めてから爆発した。


「……………………」



 俺は死んだ目で検証を始める。

 いくつか飛ばして見るもそのどれもが変な方向へ飛んでゆき、変なタイミングで火花を散らした。


 試しにセルフタイマー機能を使わずインベントリから直接使用してみるとそれは綺麗なもんで真っ直ぐに打ち上がった。

 ……咲くタイミングはぐちゃぐちゃだったとだけは言っておこう。


「品質超大事じゃん……」


 もはや言い訳の出来ない結果に項垂れる。

 素材ポイントとやらで代替する作戦は塵となって消え、見たことも聞いたこともない材料を集める事が決定した瞬間だった。





 突然現れた途方もない道に足取りを重くさせられるもドラグリアに帰って来る。

 材料とは言うもののモンスターから落ちそうな素材というよりお店に行くかどこかで採掘でもしないと手に入らなさそうな名前が並んでいたからだ。


「竜火晶に花装紙がデカい花火玉を1個作るためにそれぞれ10個と3個……多くね?」


 さっきみたいにサイズを小さくすれば必要な個数も減るが、小さいやつは低めの空に本当に控えめに光るだけ。

 空が明るいからそう感じただけかもしれないが思っていた以上に小さかったため尺玉と呼ばれるデッカい花火玉の作製を目指すことにした。

 花装紙は全くピンと来ないが、竜火晶には少しアテがある。


「ここで知らなかったらお手上げだろ」


 大きな煙突に七色の煙。

 龍窯という如何にも竜と火に関連ありますよという顔をしているここに、あの大きなエプロンをトレードマークにしたNPCを頼りたく3度目の来店を果たしたのだった。


「また来たのかい、祈祷と御饌どっちにするんだい」


「今日はどっちでもなくて竜火晶について聞きたくて……」


「あんたいま竜火晶って言ったかい?」


 竜火晶の名を口にした途端空気が引き締まる……事はなくむしろ表情が緩んだ。

 

「そっちの口かい、ちょっと待ってな」


 短期間で3度も来る得体の知れない客から竜火晶を求める客にジョブチェンジした事であっさり受け入れられた。

 あれ?もしかして竜火晶10個って超簡単?

 トントン拍子に進む予感に内心サムズアップしていると、奥の部屋から地図とツルハシを持って帰ってきた。


「竜火晶はここにある宝石商の地下から行ける竜晶洞穴で採れるよ。それから手ぶらで行くと痛い目見るよ、うちでこれ買っていきな」


「はい、竜晶洞穴……宝石商の地下……あっ、このツルハシいくらですか?」


「そうだねぇ……先輩のよしみで2500エンカでいいよ」


 ん?先輩?

 ニカっと笑い安くしてくれる。棚ぼただ、ありがてえ。

 ツルハシを買って新たに決まった目的地へ向かって出発する。


「ありがとうございました!」


「先行投資ってやつさ、なに気にすることはないよ」


 気前のいい言葉でいつもより大きく見えるエプロンにお辞儀を決めて歩き出す。次なる目的地、竜晶洞穴に向けて。


「絶対なにか勘違いされているよなぁ……」




 

 相場は知らないが恐らく格安で買ったツルハシを担ぎ、教えてもらった宝石商を目指す。

 宝石商は教えてもらわなければ行かないような街の中でもかなり孤立したところにあった。



「宝石商っていうより……発掘現場じゃね?」


 第一印象というか見る限りそうとしか思えない。

 建物を構えるわけでもなく大きいテントを構えており、シルクのシートが敷かれた机には剥き出しで宝石が置かれている。

 しかもその宝石が加工されたものではなく石や土の付いた原石の状態なのだから発掘現場だと思ってしまうのも仕方はない。


「えぇ、えぇそこの喪者さん。宝石買って行きませんか?水晶に原石に、磨けば光るものばかりですよ。えぇ。はいー」


 目の前であんぐりと口を開けて立っていれば、胡散臭いNPCが話しかけてきた。

 磨くところはこっち負担なのか。

 何から何まで思っていたものとは違う姿にビックリするが、ギリギリ引き攣っていない顔で返事をする。


「ここの地下で竜火晶を掘らせてくれると聞いて」


「あぁ、そっちの方でしたか。えぇ、それではツルハシを……既にお持ちですね。えぇ、それではルールを説明します。はいー」


 

 変な喋り方しか頭に残らなかったのは言うまでもない。

 


・頑強なツルハシ

効果: 採掘に補正(中)がかかる。武器として装備した場合はこの効果は損なわれる。

レア度: ⭐︎⭐︎

説明: 無名の鍛治師が丹精込めて打ったツルハシ。

使い手の事を考えられた一本は華やかさや特殊な力こそないものの、どこまでも硬く在り続ける。

それはひたすらにツルハシを愛した鍛治師の意志の硬さである。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 最新26話まで拝読させていただきました。 半魂システムがおもしろいですね。ぶんぶく茶釜のアルボちゃんかわいいし、クリエイトも楽しかったです。 厨二なキルナちゃんも好きです。 連載応援し…
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