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魔法使い、やめるってよ



「引退するか、魔法使い(ウィザード)


「えぇーっ!?やめるんですかご主人!あんなに喜んでたのに!」


 1日と経たずにジョブチェンジ決断する。本当はもう少し魔法をブンブン振り回して遊びたかったが仕方ない。


「しょうがないだろーいま花火作るにはこれしかないんだから」


 たかが1つのクエストだとは言っても俺にとっては初めてのクエストだしましてや見知った聖女様が相手だ。

 花火見せられなかったなぁ……って思いながら聖女様にあの満面の笑顔を向けられたらクリアしたとしてもちょっともやっとするだろうが。

 故に花火師になればDEX50で作れるなんていう餌を吊り下げられたら食いつくしかないのだ。



 相変わらず変な色の煙を噴き出している大きな建物の扉を叩く。


「また来たのかい、祈祷と御饌どっちにするんだい?」


「祈祷で」


「ついてきな!」


 朝来た時と同じ大きなエプロンをしたNPCに付き従う。

 実は当然のように出てくる御饌という言葉が何を表すのか知らない。

 気にはなるがちょっと複雑そうだしなぁ……


「そこら中の壁に掛けてある木札に願いを込めて龍窯に入れるんだよ、木札が燃え切れたら帰っていいからね」


 同じように奥の部屋に通され、同じように説明を受ける。

 前回に比べて少し端折られた説明を聞き、そそくさと部屋を去るNPCを眺める。

 説明は毎回してくれるらしい。


「大きいですね、あの窯」


「そういえばアルボは初めてか」


 アルボが小声で恐る恐る声をかけてくる。

 この部屋の不思議な力を感じとったのかもしれない。アルボは何か神聖なものでも見たかのように萎縮していた。

 

 俺は2度目で慣れているので木札を取り、現れたウィンドウをサクッと操作する。

 ジョブレベルがどうこうという引き留める注意書きを無視して目当てのジョブを探す。

 花火師、花火師は……


「……あった。アルボ、今から面白いものが見れるぞ」


「面白いもの……ですか?」


「あぁ、あの窯をよーく見るんだ」


 新たなジョブを選択し弾けるような紋様が浮かび上がった木札を火に焚べる。

 さて、花火師は何色に燃え上がるのやら。


「どわぁぁぁああ!ご主人っ!火が!火が七色に!七色になってます!」


「おーおーこいつはすげえなぁ!」


 花火らしい色鮮やかな火に思わず俺まで声が出る。

 毎日ジョブチェンジしてでも見たいと思わせる迫力があった。


「綺麗……」


 七色の灯りに照らされ影が2つ。

 心奪われた俺たちは木札が燃えて無くなるまで七色の火を見た。




「いや〜すごかったですね!ご主人!」


「ショーでも見てる気分だったな」


 むふーと音が聞こえてきそうなほど満足気な顔をしたアルボを肩に乗せ、昨日バカうま料理を提供してくれたあの店へ向かう。

 

 夏祭り大作戦は花火だけじゃない、食べ物だって超強化版にする。

 丁度手元には薔薇豚の素材があるからな。



「すみませーん、お願いがあるんですけど」


「なんだい昨日のお客さん、うちはご飯以外のサービスは提供してないよ」


「丁度ご飯というかベーコンマグマパイの事で」


「うちの商品がなんだって言うんだい」


 クレームでも言われると思っているのか店主はガチガチに警戒していた。

 クレームなんて付けるとしたらもうちょっと値上げした方がいいとかそれぐらいしか思いつかない。

 俺はそんな事を言いにきたワケではない。確かベーコンマグマパイには()()()()()のと付いていた事を思い出しただけだ。

 なんと俺の手元にはもう1段階上のものがあるじゃないか。

 俺がしに来たのはお願いだ。


「この薔薇ぶ……()()()()()()()()()()の肉を使ってあのベーコンマグマパイを使ってくれませんか?」


「ブラッ……これ本物かい!?」


「はい、出来ますか?」


「まかせな!」


 さっきまでの警戒が嘘のように笑顔に変わった。

 どうやらNPCにとってもフィールドボスというのは手の届かない存在なのだろう。

 あっさり話が進む事に感動しながら明日の予定を言い残す。


「明日の夜中にまた来るんでその時にお願いします」


「あし、明日ね……わかったよ」


 俺たちの依頼を受けるや否や、一度使ってみたかったとトリップし始めた。


「レアなアイテムってNPCも狂わせるのか……」


 突如目の前で繰り広げられる醜態をなるべく見ないように足早に立ち去る。

 なにはともあれ夏祭り大作戦はこれで大きく前進した。


「あぁ……食べたかったですご主人……」


 肩でアルボが後ろ髪引かれ続けているが気にしない。今は足を止めている場合じゃないのだ。




 あとは前回なんだかんだ買わなかった小物を取り扱っている店を見つけて今日はログアウトしよう。

 さっき美味しそうな匂いに当てられたせいで腹が減って仕方ない。


「アルボー小物売ってる店知らないか?」


「うーん……確かアクセサリー専門のお店が向こうの方にあったと思います!」


「よし行くか」


 流石アルボ、頼りになる。

 こうなればあとはアルボが指差す方へ尻尾をモフりながら歩くだけの簡単なお仕事だ。

 もう慣れたのかリラックスして尻尾を差し出してくる。

 

「あ〜うちで猫とか飼おうかな」


「えぇっ!?ご主人そういう冗談はよくないですよ〜」


「…………」


「冗談ですよね!?」


 ブンっと音を立て、心底びっくりした様子でこちらを振り返ってきた。

 え?冗談?いやいやこのもふもふが家にもあったら、そう思ってしまうのは普通だろう?

 何を慌てているのかアルボの尻尾が荒ぶる。

 俺としては尻尾が荒ぶる分にはウェルカムだ、何故って尻尾がぶつかるたびにふわっと沈むような不思議な感覚になるのだから。


「あ〜ふわっふわな毛並みの動物飼いたいなぁ……」


「私!私がいますよねご主人っ!」


「あ〜でもVRゲームやってるとなぁ、世話が出来ないんだよなぁ」


「お〜い!ごしゅじーん!聞こえてますかー!」


 まじでこの尻尾触り心地いいな、俺の枕と布団これにならないかな。

 だいたいVRやるために硬い棺桶に入ってる方がおかしいよな。今時そんな原始的な暴れ対策してるの俺だけなんじゃないか?

 あーベッドの上で出来るほど行儀の良い体になりたい。

 もふもふ。



「どわぁぁあああ!いつまでぼーっとしてるんですか!もう着いてますよご主人っ!」


「……はっ!もう着いたのか」


 耳が壊れるようなアルボの大声でハッとする。俺はぼーっとしていたらしい。

 気付いたら一駅乗り過ごしていたかのような不思議な感覚とふかふかに包まれるような……これアルボの尻尾か。

 

「ほんとだ、ちゃんとアクセサリー専門店だな」


 ペンダントにネックレスにブローチ。ショーケースに飾られているそれはどれも煌びやかに見える。

 値段もだいたい3000エンカ前後だ。丁度いい、ここにしよう。


「ご主人!私このペンダント欲しいです!」


「いやアルボはその葉っぱのペンダントで十二分にかわいいだろ?却下で」


「そんっ……かわいいですか?なら別に……」


 褒めながら拒否ればわかりやすいほどもじもじしながらペンダントから手を引いた。

 大丈夫?うちの半魂チョロくない?

 まあアルボは既に完成していて世界一かわいいのは事実だ。

 だから別にアルボが手を伸ばしたペンダントが10000エンカする事なんかは1ミリも関係していない。1ミリも。


「じゃあ腹も減ったしそろそろ落ちるか〜、アルボ、案内ありがとな」

 

 自分の世界に入ってまるで聞いてやいないアルボを無視してログアウトを押す。


 

 今日もカップヌードルかな。



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