背伸びをするといつも天井にぶち当たる
日が暮れ、街に影が落ちどことなく朱に染まる中、街の端も端……全く人気のないところに俺はいた。
街には居たいが周りに人がいるとやりずらいある事をするために脱力しながらも口を開いた。
「なあアルボ」
「うぇーっ!なんですかご主人!」
突然暗いところに召喚された事に驚いたのか、はたまた後ろから声が聞こえたことに驚いたのかアルボはギョッとした顔で振り返った。
ブンっという音と共に向けられた顔は真っ青で俺を見るや否や聞いたことのない声をあげて頭を抱える。ビビりすぎだろ。
「作戦会議だ!」
「さく、せんかい、ぎ……?」
推奨レベル0の初クエスト、普通なら超がつくほど簡単だろう。
しかしあの聖女様がどういうキャラなのか知ってしまったが故にこのクエストにサブミッションが追加されていた。
「これより俺が受けたクエスト『真夜中のお忍び聖女様』を攻略するための作戦会議を始める」
「は、はいっ!始めましょう!」
「ターゲットは聖女様。見た目は15、6歳だが中身は子供。感情が全身から溢れ出るが役を演じている時は己を完全に律する冷静さを持ち合わせている。普段は過保護なシスターに囲まれて半監禁されており、たまに外に出る度にシスターを困らせる事をしている可能性が高く、やんちゃな性格だと思われる」
「目標はなんでしょうか!」
「目標はお忍びで来ているターゲットを最後まで楽しませ、スキップで帰ってもらう事だ」
仮にもお忍びと銘打ってるクエストだ、何か……十中八九あの過保護なシスターだろう。そのシスターが連れ戻さんと奔走する中から防衛しなければいけない可能性もある。
推奨レベル0というのは恐らく戦闘が発生しないというだけでクエスト失敗、もしくは中途半端なところでクエストが終了してしまうことはあり得る。
記念すべき初クエストから転けるワケにも行かないのでこうして作戦を立てなければならないのだ。
兎に角、あの目立ちまくる光の化身を如何に人混みに隠して楽しませるかが今回の鍵だ。
「おーっ!つまりご主人はとっておきのデートプランを考えたいワケですね!」
「そうだけどそうじゃねえ!お忍びって言ったって深窓の令嬢に外の世界を案内する類のものだから!」
「やっぱりデートじゃないですかっ!」
ダメだうちの半魂、恋愛脳すぎる。
目を輝かせてぴょんぴょんしてる場合じゃないのだ。お前は兎か。
恋愛なんてゲームでも通ってきていない。俺でも馴染みのあるデートといえば手袋叩きつけて徹夜で50先する汗臭いものしか知らない。
「よく聞けアルボ、ターゲットは15、6歳。中身は子供。オーケー?」
「オーケーです!聖女さんは夢みがちな乙女ってことですね!」
「オーケーアルボ、お前が夢みがちな乙女なのはよーくわかった」
相談する相手を間違えた。
未だ色めき立つアルボを仕舞い、思考の海に浸かる。
どうしたものか。
結局1人で考えることにしたはいいものの、相談相手を求めるような俺がすぐに思い付けるはずもなく、まとまったのは月の色がハッキリした頃だった。
「やっべ、もうこんな時間か……クエストは明日だな」
まとめた作戦が本当にできるかどうか、まだ確認すらしていない。
幸いこのクエストは毎晩チャンスがあるっぽいのでそれに甘えて明日の夜までは準備期間に充てることにした。
「アルボー出番だぞー」
「はいっ!」
改めて召喚したアルボは妙に気合いが入っている。
あれか、前回の続きみたいなテンションで来てるのか半魂って。
既にエンジンがかかってるなら話は早い。
「作戦が決まったので発表したいと思う」
「おおっ!決まったんですね!」
「作戦名は夏祭り大作戦。初日に俺がアルボとやったアレの超強化版だ」
「お〜!いいですね!!!」
焼き直しじゃないかって?しょうがないだろこれしか思いつかなかったのだから。
街で夜で子供でも楽しめてってなるとお祭りしかないだろ。
というかぶっちゃけこの賑わいを活かさない手はない。
「焼き直しとはいえ超強化版だ、アルボにも手伝って欲しい事がある」
「なんなりと!なんでもやりますよ私!」
アルボと回った時から思ってた事があった。
夜のお祭りというには少し寂しかった、目玉ともいえるアレがなかったから。
地上はこんなにもたくさんの人で盛り上がっているというのに空が寂しい。
空を彩るものといえば一つしかない。
「花火を作りたいんだ」
「花火、ですか?」
「そう、夜空に一瞬だけ咲く満開の花。最高だろ?」
「なんだか素敵な響きですねっ!それで私は何を手伝えばいいんですか?」
手伝ってもらいたい事は山のようにあるが、いくつか確認しないといけないことがある。
というのも今回の作戦はほとんどアルボ頼り。アルボ……というか半魂が上手く機能しなかったら水の泡だ。
「花火っていうのは打ち上げる必要がある、俺は聖女様から離れられない……よってアルボに打ち上げを任せたい。それから花火の作製も手伝ってもらいたい、とりあえずこの2つが出来るか確認を……」
「ちょ、ちょっと待ってください!そんな大役を!?私が!?」
「まあアルボ以外に頼めるやつ……いないからな。それでアルボ、確か私のスキルが云々言ってなかったか?」
キルナはどんどん先に進むらしいし、Die助はどうせそこらで新たな俺に熱心になっているだろう。そこで我が半身、アルボというワケだ。
ちゃんと聞いていなかったため半魂のハッキリとしたシステムは覚えていないがスキルがどうとか言っていた気がする、それでやり繰り出来れば最高だ。
「あっご主人、ついに私の設定イジる気になりました?スキルだけじゃなくて声とか──」
「初期ボイスで十分だろ、それが一番似合ってるし。スキルだけイジらせてくれ」
「ちょっとは検討してくれてもよくないですか!?スキル欄埋めてくれるだけでもありがたいですけど!けど!」
大人のお姉さんボイスになりたいと吠えるアルボを無視し、メニューから半魂のあれこれを編集する。
それにしてもアルボ、その見た目で大人のお姉さんに憧れるのは夢見すぎじゃないか?かわいいドワたぬきからおもしれー生き物にジョブチェンジする気か?
「おっ、あったあっ……げぇっ」
花火を求めるプレイヤーがいるのは想定済みだったようで花火を作るスキル自体はあったものの、中身が問題だった。
・灼華繚乱
属性: 火
効果: 花火を作製する。花火師が使用した場合、必要ステータスが半分になる。
必要ステータス: DEX100
説明: 想いの込められた火種は職人の期待を浴び、天高く咲き誇る。
嗚呼、絶景かな。
「おいおいおい、DEX100はやりすぎだろ……」
花火は序盤で手を出すものじゃないらしい。
ステータスの100というと確か上限値だ、DEXに全ぶっぱしても41レベが最速。
手を出すのが生産に寄っているプレイヤーだとしたらかなり遠い。
「まじか〜結構気に入ってたんだけどなぁ……」
アルボに作らせる作戦は不可能。斯くなる上は自分でやるしかない。
救済処置と言わんばかりに示された新たな道を選ぶことにした。
「引退するか、魔法使い」




