アットホームなギルドです!
辺りを草原に囲まれ、のどかなそこはマップの下も下、最南端に位置する。
のどかな街並みを突き破るのは聳え立つ大聖堂と一定の間隔を空けて道を埋め尽くすたくさんのプレイヤー。
2日目も大盛況、我らが始まりの街ドラグリアに帰ってきた。
「夜よりちょっと少ないか?」
「……治った」
「日曜とはいえこの時間はね〜」
壊したのはお前じゃいという言葉が喉まで出かかったがアルボをモフる事で飲み込む。
アルボの尻尾は万物を癒す薬となる。公式サイトにもそう書いてある。裏だかなんだかにきっと。
そんな事より俺にはいま解決しなくてはならない問題がある。
見ないフリをしていたアレをしないといけないのだ。
「そういえばドロップ品とかってどうするのが普通なんだ?もうインベントリの空き少ないんだが」
「……捨てる」
「あー、まだ教えていなかったね!いま持っているのはキリコの素材?」
そう、整理整頓というやつを。
1枠99個まで入るものの30枠しかないインベントリが悲鳴をあげようとしているのだ。
内訳はバウンピッグで3枠、ゴブリンで1枠、薔薇豚で3枠、金キリコが3枠、キリコがなんと18枠だ。
日が赤くなるまで狩っていればオーバーしていた事は想像に難くない。
「ほぼキリコで……中でも千切れたボロ布と膨らんだ皮膚っていうので埋められてる感じだな」
「膨らんだ皮膚はいま生産職のレベル上げに重宝してるらしいんだよね、2人ともマーケットをやってみようか」
「……私も?」
「もちろん!キルナちゃんもいっぱい持ってるでしょ?」
キルナが面倒そうな表情をしているがDie助にこのスイッチが入ったらよっぽど何かない限り止まらない。諦めるしかないのだ。
今回スイッチを押したのは俺だがな!……仲良く受けようぜこの長い長いチュートリアルを。
マーケットとは確かあれだ、誰かが出品したものを他のプレイヤーが買えるシステム……言ってしまえばフリマアプリみたいなものだ。
大量のプレイヤーが一つの世界で自分のゲームライフを充実させようとするが故に盛り上がるMMOの花とも言えるシステムらしい。ハマればエンドコンテンツになるポテンシャルを秘めてるとか。
「メニューからマーケット選んで出品してみよう!膨らんだ皮膚は……1s3000エンカが相場だね」
「これ……高いのか?」
「初期所持金が10000エンカで2日目という事を考えればかなり需要があるアイテムの値段だと思うよ、NPCに同じ数売っても1000エンカもいかないだろうね」
「まじで?絶対マーケットで売った方がいいじゃん」
3倍以上?天と地どころの話じゃないな。
珍しく大事な話だった、スイッチ押した自分に感謝。
とりあえず6s全部出品して、と。
「そうとも限らないよヨバル君。一度に出品出来るのは10枠のみ、そこに売上の1割の手数料を考えれば需要のないアイテムはNPCに売った方が良い事もあるよ」
「なるほどなぁ……意外と奥が深いのか」
出た需要。人を相手にする以上当たり前とはいえとりあえずで売ってもお金にならないという事か。
どこに需要があるのか追ったり次に来るであろうアイテムを集めたり、色々やる事がありそうだ。
お金に困るまでは考えないようにしよう、うっかりハマったら大変だ。
「それとこのマーケット機能が使えるのは街以上の非戦闘区域だけらしいから気をつけてね」
「へぇー街って戦闘禁止なんだ」
「ご主人!それは平和を望むプレイヤーの皆さんをPKから守るためですよっ!」
突然アルボがイキイキと喋り出した、耳元で。
味方からガー不攻撃を喰らった俺はアルボへ抗議の目を向ける。
「……それ、私に言ってる?」
おっと同志が一名、いつにも増してジトっとした目をしたキルナが仲間に加わった。これは心強い。
「黄色やオレンジならともかく赤ですよ!?8人の返りポリゴンで真っ赤なんですよご主人!」
「……今1人増やす?」
「えぇーっ!?」
流石キルナ、一撃の火力が桁違いだ。
しかし、しかしだキルナさんや。俺の耳はもう壊れそうです。
あとやっぱりアルボお前NPCだろ、なんかキルナへのヘイト高いし。
「……私の勝ち」
「だからマーケットも大事だけどお抱えを作るのも大事でね、それから……」
勝ち誇るキルナ、KOされたアルボ、独り語り続けるDie助。
なんだ?ここは魔境か?戦闘は禁止じゃなかったのか?
とりあえず項垂れているアルボはしまうか、俺の耳が壊れる前に。
「あ、売れた。こんな簡単に16200エンカ増えるんだ」
「……私も」
「2人とももう売れ……僕も売れてる!思ってた以上だね!もう一度キリコ狩りに──」
「「いやだ」」
トチ狂った事を言い出すDie助に慌てて否定の言葉を被せる。
あまりに嫌な気持ちが前面に出過ぎてミステリアスごっこしているキルナもキャラ崩れちゃってるじゃないか。
Die助……お前はもうだめだ、魂がマーケットに呑まれてしまっている。もう喪者じゃない、ただのお金の亡者だ。
何が悲しくて開始2日目で大して美味しくもない場所でエンドレス組み手して金策せねばならんのだ。
だが放置していても良い事はない、ここは一つ助け舟を出そうと思う。
「余ったアイテムはどうするんだ?NPCに売ればいいのか?」
「あぁそうだね、NPCに売るか捨ててしまうか大聖堂で献品するか、あとは人に送りつけるかだね」
「……なにそれ」
ケン、ピン……?なんだかよくわからない事を言い出した、キルナですら首を傾げちゃってるじゃないか。
「……人に送れるの?」
そっちなんだ。でもそっちはアレだろ?人に送りつけるといってもどうせプレゼント的なそういうやつだろ?
「見返りはないけどね、ギルドメンバーやフレンドにプレゼントが出来るんだよ。相手が受け取らなければ倉庫のように使えたりもするね」
「だから送りつけるか」
「そういうこと、出来ればプレゼント機能として正しく使って欲しいところだけどね」
「……ん」
キルナがこっちを向いて圧力をかけてくる。
え、なにその期待の目は。まさか俺を倉庫代わりにしようっていう魂た……そうか!キルナは生粋のソロ戦士だから縁がなかったのだ!
つまるところキルナは今プレゼントという言葉に目を輝かせているワケか。
仕方ない、ここは俺が一肌脱いでやるとしよう。丁度作ろうとも思ってたしな。
「よーしギルド作るぞー、入る人ー?」
「……ぼっちは可哀想、入ってあげる」
「手が早いね、しかしギルドとなると二つ返事というワケにもいかないかな。ヨバル君はどういうギルドを作るんだい?」
キルナは肩を竦めて全身でしょうがない感を出してくる。厨二病とは面倒な生き物で、他者に媚びられない縛りによって建前という盾が必要なのだ。
しかしやれやれ感出してはいるけどその言葉自分に刺さってないか?大丈夫か?
ノリノリのキルナとは対照的に値踏みするような目をDie助は向けてくる。
大層な理念も具体的な方針も持ち合わせていないが作りたいギルドは決まっている。
「一言で表すならドラグラを楽しもうぜっていうギルドだな」
「楽しもう……ね。いいね!僕は好きだよそういう緩いギルド!ルールとか名前はもう決めてあるのかい?」
「ルールは特に……いや、楽しく遊ぶこと!以上だ!」
お眼鏡には適ったらしく、Die助はいつもの爽やか野郎に戻った。
普通のギルドはルールもちゃんと整備したりするのだろうか、なんだか学校や会社みたいだな。
俺が目指すのは子供の遊び場のようなギルドだ。大人もPKも関係ない、楽しければそれでいい。ゲームってそういうものだろ?
「ギルド名は決めてある。ネーミングセンスには自信がある、まかせとけ」
「……【月下の神々】」
「そっち系ではないな、ていうかそれキルナの趣味だろ。どちらかといえばかわいい系……癒し系だ」
「うーん、【あにまるふれんずっ!】とか?」
「Die助……お前そういうのが好きなのか」
なんだなんだ?クイズ大会か?それにしてはイロモノすぎだろ。
せめて当てに来るなら自分の趣味嗜好で勝負するなよ。
もったいぶる必要はない、2人に招待を送り高らかに宣言する。
「これが俺たちのギルド、【@ほ〜む】だ!」
「……ダサい」
「な、なんだかブラックな雰囲気がするね……」




