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奇怪で愉快なパーティ



 幾度となく放った魔崩天(インパクト)

 未だ勢い衰える事なく殺到してくるキリコたちを前に考える隙間もなく迎撃の構えに移る。

 

 デフォルメされてなお気が弱い人が見たら腰が抜けてしまう様な光景は今まさに俺の経験値へと変わろうという時に……弾けた。

 赤いポリゴンとなって空に溶け出し、後にはぽつりと俺たち3人だけが残った。


「はぁ……はぁ……終わったか?」


「丁度3分経ったみたいだね」


 悪夢の様なキリコラッシュが終わり、たった3分とは思えないほど疲れていた。

 実際にはタイミングよくしゃがんで魔崩天(インパクト)をぶっ放すだけの簡単なお仕事ではあったが、全方位からとめどなく雪崩れ込んでくる大群の相手という慣れない事が思っていたより響いたらしい。

 

「……30レベ超えた」


「僕も今ので超えたね」


「俺もギリ30届いたな」


 何事もなかったかのように2人はケロッとしている。

 2人とも俺より複雑な動きをしていたというのにすげえな、これが経験の差ってやつか?

 気になることは山ほどあるが今はそれよりも……


「一旦出ようぜこの森、流石に飽きてきた」


「……同感、30超えて渋くなった。もう用はない」


「それもそうだね、ドロップ品の整理も兼ねて帰ろうか」


 帰りたい。

 目標を達成した後に来る猛烈な飽きが俺を襲っていた。

 最初こそ人型だし武器持ってるし骨のある相手かとも思ったが冷静に考えてここは始まりの竜原に隣接する森、初心者の森と言ってもいい。キリコの行動はワンパターンだった。


 孤立したプレイヤーを発見するとアクティブ化する。

 攻撃は袈裟斬り。肩から腹にかけて狙ってくるその一振りはキリコがどっちの手で斧を持っているのかさえわかっていれば半身捻るだけで避けられる始末だ。

 脅威になるとすればスピードぐらいだが、それも単調な動きによってほぼ腐っている。攻撃を置いていれば勝手に突っ込んで死んでいくはずだ。


 所詮はゴブリンの系譜、格ゲーで言うならCPUレベル3か4が関の山だろう。

 キリコを軽くまとめてそう評し、俺たちは跋討百鬼の森を後にした。




 さて、気になっていた事がたくさんある。

 しかしこの2人に聞こうにもキルナは端折るしDie助は語り始めると止まらない。

 ここはあの方に登場してもらうとしよう。


「アルボ〜」


「はいご主人!ただいまアルボ見参ですっ!」


「……半魂?」


「この子ヨバル君の半魂かい?とってもかわいいじゃないか!」


 アルボが現れた瞬間、爽やか野郎がひどく滑らかな動きでアルボと目線を合わせた。

 え、なにその無駄に洗練された無駄のない動き。


「どわああああ!ご主人、なんですかこの人た……ぴ、ぴ、ぴぴぴぴぴぴぴ」


 壊れた。アルボが壊れてしまった。爆発寸前のアラームみたいになっている。

 視界いっぱいに広がるニッコニコの爽やか野郎の後ろにいる()()に気付いてしまったようだ。

 だけどなアルボ、そのくだりはもうやったんだ。


「PKーーーっ!?」


「……うるさい」


 3度目の悲鳴は大きく、始まりの竜原に響き渡った。



「ほんとに大丈夫なんですか?」


「大丈夫だ、根はいいやつだ。ただちょっと名前が赤くて厨二病を患っていて8人殺してるだけだ」


「激ヤバじゃないですかっ!」


「……殺して(いっちゃって)いい?」


「やっぱりやばいじゃないですかっ!!!」


 キルナそれジョーク、ジョークだよな?

 まあジョークのおかげでどことなく場も和んで……いや阿鼻叫喚だな。まあいいや。


「アルボ、慣れってなんだ?」


「えぇっ!?この状況でですか!?私たち殺されそうになってるんですよっ!?」


「だいじょうぶ大丈夫だから、慣れについて教えてくれアルボ」


 なんか普通に斧向けてきてるけど大丈夫なはずだ、多分きっと。

 

「えぇー!では……こほん。慣れというのは戦闘面でのシステムでして、攻撃を加えるたびにモンスターが受けた攻撃に順応していく事を言います。慣れは攻撃する際の属性に対応して発生し、何か一つの属性に対して慣れると他の属性のダメージが上がります。なんと最大で2倍にもなるんです!お得ですよご主人!」


「一回の攻撃でどれぐらい変動するんだ?」


「モンスター毎に違いますっ!」


 殴れば殴るほど硬くなって代わりに他の攻撃には柔らかくなるって事か……まあ格ゲーで言うところの補正みたいなものか。

 柔らかくなったり属性があったり随分とややこしそうではあるが。


「うーん、まあなんとなくわかった。ありがとなアルボ」


「もうお役御免ですか!?この人たちは!?」


 俺が戻そうとしている空気を感じとってかアルボは吠えた。

 頭にハテナを大量に浮かべている様子からは『え、説明ないんですか?この私に』とでも言いたそうにしているのが伝わってくる。

 

「まあまあヨバル君、そう慌てなくてもいいじゃないか!僕はDie助、さっきは驚かせてごめんねアルボちゃん」


「よ、よろしくです……?」


「あー2人とはレベリング中に出会ってな、その変なのがDie助、こっちのPKがキルナだ」


「……よろしく」


「ちょっとヨバル君?もうちょっとあるだろう!?」


「だいたい合ってるだろ」


 あんまりだと手を広げ抗議してくる爽やか野郎。だが俺の目は騙せない、Die助とパーティを組んではや……多分10時間ぐらいしたからわかる。

 Die助もまたさすらいのソロ戦士だというのに武器は盾だけ、攻撃手段はロクに持っていない。

 俺に声をかけた事や野良パーティによく参加するというところから恐らくというか絶対世話焼きが好物、そしてなによりも……薔薇の咲くような笑顔が胡散臭い。

 加えてアルボを見た時の対応、こいつには何かまだ見せていない一面があるはずだ。

 そしてそれは人の世話を焼いている時には見せることの無い顔……こういうのは十中八九業が深いのだ、ただでさえゲーマーなんて変なやつが大半を占めているのだ、この爽やか野郎もどうせ変なやつに違いない。


「まあまあ、そう警戒しないでアルボちゃん。ほら僕の半魂も見せるから」


 Die助は空いている方の手に光のシールドとでも言うべき半透明で薄っすら光る盾を出した。

 二刀流ならぬ二盾流?尖りすぎだろ。


「ていうかなんだそのうちのペットも見ますかみたいなノリは、せめて生き物を出せ生き物を」


「わあぁ……綺麗な半魂さんですねっ!」


「えっ」


 アルボが薄っすら光る盾に目を輝かせる。

 そういう感じ?半魂にしかわからない半魂の良さがあるのか?

 

 自分が褒められたかのようにDie助の笑みはさらに喜色を帯びた。

 一周回ってちょっと気色悪く見えてきたなあの笑顔、しかもいま褒められたのは半魂だぞ?いやまあ自分の半身という意味では半魂も自分と言えるけども。


「わかるかい?アルボちゃんにもこの良──」


「……見て」


 Die助の言葉を遮る様に呟かれたキルナの声が賑やかなこの場に静寂を齎した。

 キルナの周りに無数の青白いオーブが浮かび上がり、その神秘的な様相に合わせるようにどこからか歌が聞こえてくる。

 

 キルナを除く全員の頭にハテナが浮かぶもののその歌が止む気配はなく、むしろ歌に合わせてキルナがゆっくり、ゆっくりと歩き出した。

 どこからか聞こえてくる声は恐る恐る……どこか力強くも優しいそんな落ち着いた女性のもので、聴くものの心を釘付けにするように言葉を紡ぎ歌を作り上げる。


「綺麗……」


 不意にアルボの口から零れ落ちた言葉は恐らくこの現象を目の当たりにした全てのものが抱く感想だった。


「……これ、私の半魂」


「いやいやいや、なんだこれ!」


「……?奏でてもらっただけ、歌を」


 なんでもアリじゃねえか!

 なに?半魂ってそういう感じなの?共に世界を旅するパートナー的な奴じゃないの?一発芸大会なの?

 

 今の演出で完全にわかった。

 名前からしてひたすらにカッコ良さそうなものを詰め込んだタイプの厨二病だと思っていたがこれは……アレだ!

 ミステリアスな雰囲気に酔いしれるポエマー的厨二病だ!

 どうりで同業者《他の厨二病》にアレルギーがあるワケだ、ミステリアスな世界観を直接的で暴力的な言葉で壊されるのが嫌だってか?

 おいおいおい……それじゃあ()()はなんなんだ。お前の頭上で真っ赤に染まる()()は!


「その名前が一番TPOを弁えてないじゃねえかぁぁぁあああ!!!」


「ご主人!?」


「ヨバル君!?ど、どうしたんだい?」


「……壊れた」



 厨二病、許すまじ。

 悲痛な叫びが原っぱを吹き抜けた。



【慣れの豆知識】

・物理攻撃は打、斬、突の3つの属性に分けられ、魔法攻撃はだいたい9つぐらいの属性に分けられます。

・多段ヒットした際にヒット数分相手が硬くなりますが、スキルや魔法によって多段ヒットした時は1発分しか慣れが発生しません。


極論ボクサー呼んできてラッシュさせ続ければ常時2倍のダメージを与えられるわけです、お得ですね。

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